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代官の屋敷での話を終えたボクたちは、子供たちも一緒にビーンズ家の屋敷へ移動することになった。
ビーンズ家はラカンパの街の中にも屋敷を持っているが、街の外にも大きい屋敷を持っているそうだ。
街中は当主の直系……所謂本家的な立ち位置の者が暮らしていて、街の外の屋敷は、街に仕事がある一族の者が暮らしているらしい。
後は、他所の街や村で暮らしている一族の者がラカンパの街を訪れた際の宿泊所だ。
代官の屋敷も悪くはないが、そちらよりも幅広い身分の者をもてなす経験が豊富らしく、結果的ではあるが、ボクたちにとってはこちらの方が良かっただろう。
……と言うことを馬車に乗り込む前にお爺さんと母から教わった。
ちなみに、ボクたちを外の屋敷まで運ぶ馬車は、村からラカンパの街まで乗って来た賓客用の馬車で、当然お嬢様も一緒に乗っている。
母が挑発半分嫌がらせ半分で一緒に来るかと言ったら、本当に来ることになったからだ。
「アリスさんはビーンズ家の屋敷に滞在したことはありますか?」
「ないです。……ないよね?」
お嬢様に訊ねられたボクは、そのまま母に訊ねると、「ないわ」と素っ気ない答えが返って来た。
何というか……ドサクサの内に一緒に行動しているが、母がボクを敬遠している直接の理由はわかったものの、だからと言って和解しているわけでもないし、どういう風に接していいのかが未だにわからないでいる。
二人きり……というわけではないが、同じ馬車に一緒に乗っている今の状況は少々気まずい状況だ。
もっとも、馬車に乗っているのはボクたち三人だけではない。
「お姉ちゃん! アレ! あのウネウネ!」
窓にくっついていた子供の一人の元気な声が馬車内に響いたかと思うと、同じく子供たちも窓に集まっていく。
代官の屋敷へ向かった時は他の子は見つけることはできなかったが、今度は「あった!」「今度は見つけたよ!」と嬉しそうな声が聞こえてくる。
「どれどれ……ボクも見つけられるかな?」
二人から離れて子供たちがいる窓の方へと歩いて行く。
子供たちが片側に集まっているからなのか、心なしか馬車が傾いているような気がする。
……大丈夫なんだろうか?
不安を覚えつつも、子供たちに急かされて窓の外を覗き込んだ。
商業区の大きい建物が並ぶ通りで、そこら中に紋章が刺繍された旗が掲げられているが、その中の一つが目に留まった。
「ウネウネは……アレかな?」
白地の旗だが、四隅から緑色ラインが伸びて中央で絡まるように模様を描いている。
「ヘビ……じゃなくて何かの植物かな?」
緑色の長い物……ってことで一瞬ヘビが頭に浮かんだが、前世の唐草模様だったりケルト模様の方が近い気がする。
蔦とか植物がモチーフなのかな?
「……アレはビーンズ家の旗よ。あそこはウチが出資している商会ね」
窓の外を見ながら首を傾げていると、いつの間にやら隣に来ていた母が子供たちに説明をしている。
「あの模様が入った箱を見たことがあるよ!」
「あと袋も!」
「箱と袋……ああ、野営地で見たのね。ビーンズ家から群狼戦士団に送られる物資は、目印として箱に焼き印が入れられているわね。食料品や日用品が入っていなかったかしら?」
「入ってたー!」
和やかに話す子供たちを眺めつつ、ボクは「へぇー……」と声を漏らした。
それを聞き逃さなかった母がジト目でボクを見る。
「何で貴女が初めて聞いたような声を上げるのよ」
「初めて聞いたからだよ……」
母が貴族でその家から物資が送られて来ている……ってことは知っていた。
群狼戦士団との繋がりを内外にアピールするためなんだろうけれど……そもそもビーンズ家って存在自体今日初めて耳にしたんだし、そんな事情を知っているわけない。
母は呆れたような目でボクを見下ろしているが、この件は父と母と……周りの人間が何も言っていなかったんだし、ボクは悪くない!




