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母の隣に用意された席まで行くと、わざわざ使用人が椅子を引いてくれた。
前世でも滅多にされない対応に少々驚きながらも、「ありがとうございます」と返事をして椅子に座ると、皆がこちらを見ていることに気付いた。
仮面の奥でキョロキョロと視線を彷徨わせるが、向かい側のエリーゼ様たちだけじゃなくて、こちらの代官側までもがボクを見ている。
「……何?」
「珍しいだけでしょう。気にする必要はないわ。お待たせしました。どうぞ続きを始めてください」
母は周りからのプレッシャーを全く感じさせずに、冷たい声で話を進めるように促した。
皆もボクに不躾な視線を浴びせていたことが決まり悪かったのか、あちこちの席から誤魔化すように咳ばらいの音がする。
「そうですね。当事者も揃いましたし……話を進めましょう」
気まずい空気が室内に流れたが、エリーゼ様がそれを変えるようにそう言って手を打つと、こちらを見て話し始めた。
「先程まで私や群狼戦士団の襲撃と、アリスさんが団長の座を引き継ぐ件について話していたんですよ。ご家族と話されていましたが、馬車で話した通りで構いませんか?」
「構いません……」と答えようとしたが、それより先にお爺さんが「よろしいだろうか」と割って入った。
「構いませんよ。ビーンズ家のご当主ですね?」
お爺さんは「うむ」と頷くと立ち上がり、部屋の中の皆をひと睨みする。
「アリスが団長の座を引き継ぐことは私も賛成です。ただ、やはり群狼戦士団にはラカンパの街周辺の守りを任せたいのです。そのためにも、アリスはビーンズ家で引き受けますが……構いませんな? もちろん、群狼戦士団への支援は引き続き行います」
エリーゼ様がまずはボクを見て、その次に隣席の母を。
最後にお爺さんを見てから「わかりました」と頷いた。
エリーゼ様の言葉に彼女側の人間がざわつくが、手を挙げてそれを制すると、お爺さんをジッと見る。
「詳しい状況が未だわかりませんし、下手に組織をいじらずにいた方がいいでしょうね。それに、ビーンズ家が警戒する理由もわかります。ですが、流石にここまで崩壊した認定傭兵団を私の立場で放置することは出来ません。後日補佐役を送ります。いいですね?」
今度はこちら側がざわつくが、同じくお爺さんが手で制すると「もちろんです」と答えた。
そして互いに頷く。
どうやらこれで話は終わりらしい。
大袈裟というのは何か違うかもしれないが、それでも代官を始め大勢集まっていたのに、思ったよりもあっさり話が終わってしまった。
お爺さんが早く終わらせようと話を急いだ感じはしたけれど、その所為かな?
……見た感じこの中ではお爺さんが最高齢みたいだし、ビーンズ家って家の当主ではあるが……それでも妙に偉そうだ。
この世界のことはまだ何も理解していないが、それでも代官の方が上って気がするのに、その代官がお爺さんに従っているようにも見える。
年功序列かな?
そんなことを考えていると、エリーゼ様がふとこちらに視線を向けた。
「アリスさん、ビーンズ家に収まることが決まりましたが、今日はどうされますか? いくつか確認したいことがあるので、後でお話をしたいのですが……」
「あ……えっと……」
母を見ると、彼女は小さく頷いた。
「傭兵団の子供たち共々ビーンズの屋敷に向かいます。家の説明などもあるのですぐに向かいたいのですが……エリーゼ様もご一緒されますか?」
母の言葉に、エリーゼ様は動じないが周りの兵たちの視線が険しくなった。
無事乗り切ったとはいえ、今日賊から襲撃を受けたばかりなのに家に来い……って言われても頷くことは出来ないだろう。
これは来させたくないってことか。
ボクでもわかるくらいだし、彼らなら当然そう考えるだろう。
だが。
「あら、それならお言葉に甘えましょうか」
エリーゼ様は笑顔で母の提案に乗って来た。




