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ボクたちが部屋を出ると、部屋を出る前に言っていたように使用人は少し離れた場所で待機していたが、足早にこちらへやって来た。
そして、お爺さんに向かって声をかける。
「お話はお済みでしょうか?」
「ああ。ゴードン様たちの下に案内してくれ。来賓室か?」
「いえ、今回は会議室に通されております。こちらです」
お爺さんは彼に「うむ」と一度頷くと、こちらを振り返り「行くぞ」と言って歩き始めた。
ボクと母も二人の後をついて廊下を歩いて行く。
お爺さんは一応使用人の後をついて行っているが、足取りに迷いがないしここの屋敷に慣れているんだろうか?
お爺さんは自分たちをビーンズ家と言っていたし、別の家のはずだが……仲良しなのかな?
ビーンズ家について聞く前にお爺さんが部屋を出たから、まだ関係性を把握出来ていないでいた。
「あの……ゴードン様って代官さん?」
「……そうよ。グラス家の現当主で、叔母さまが一人グラス家に嫁いでいるわ」
小声で母に訊ねると、一瞬嫌そうな顔を見せたが必要なことだと判断したようで答えてくれた。
さらに、一歩ボクに歩み寄ると小声で話し始める。
「家の説明が途中だったけれど……街の成り立ちくらいは知っているわね?」
「うん。昔いくつかの村が合併したんでしょう?」
馬車の中で聞いたことを思い出すが……あんまり詳しいことは聞いていなかったな。
「ビーンズ家はその中の一つで村長をしていた一族よ。今も街のすぐ外周に農地を持っているわ。とりあえずそれだけ覚えておきなさい
「うん、ありがとう。ボクたちが来た時に見た農地がそうだったんだね」
街のすぐ側にアレだけ大規模な農地を持てるってことは、ビーンズ家は相当大きい家みたいだ。
母の叔母さんが代官一族に嫁いでいるそうで、代官一族との仲も悪くなさそうだし、合併の際のゴタゴタとかはもう解消していそうだな。
「……西から来たのならそうでしょうね。それよりも、その仮面は着けたままなのかしら? 傷はもう治っているのでしょう」
「こっちの方が落ち着くんだ」
母は信じられない物を見るような目でボクを見たが、溜め息を一つ吐くと「まあ……いいわ」と呟いた。
「会議室で何かわからないことを聞かれたら、私かおじ様に振りなさい」
「……うん」
会話はそれで終わりなのか、母はまたボクから離れていった。
◇
案内された会議室に入ると既にある程度の報告は終わったのか、お嬢様ことエリーゼ様はゆったりとお茶を飲んでいた。
一方代官らしき男性は腕を組んで険しい表情を浮かべている。
席の配置はエリーゼ様側と代官側とで別れているが、どうやら代官側にとっては面白くない内容だったみたいだ。
代官だけじゃなくて、そちら側の席の人間は一様に険しい表情をしている。
室内に重い空気が立ち込めているが。
「遅くなりました。我々も同席させてもらいますぞ」
お爺さんは会議室に入るなりそう言って、全く躊躇せずに代官側の空いた席に向かって歩いて行く。
どういった席順なのかわからないが、飛び飛びで空いた席があるが、お爺さんは代官の隣の席に落ち着いた。
「アリスさん、こちらが空いていますよ」
エリーゼ様がこちらを見ると、彼女の隣の席を指した。
彼女の言葉と同時に代官側の人間の、値踏みをするような視線がボクに集まる。
……ボクたちがいない間に何を話したんだろうか?
いきなり判断出来ない問題に思わず母を見ると、彼女は小さく溜め息を吐いた。
「娘は領内の事情を碌に知りません。私の隣に座らせます」
その言葉に、エリーゼ様は「あら?」と小さく驚いているが、それはそれとして、二席分の空いた席はない。
どうするのか……と考えていると、使用人に椅子を持って来させている。
堂に入っているが……なんとも偉そうだ。
その態度のまま振り向くと、「来なさい」と言って歩いて行く。




