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群狼戦士団が崩壊したことから、立て直すためにお嬢様ことエリーゼがボクが団長の座に就くことを認めた。
二人にはそのことが衝撃だったようで、深刻な表情で黙り込んでしまった。
思わず「……大丈夫?」と訊ねると、お爺さんが溜め息を吐いて顔を上げた。
「ああ……しかし、君は群狼戦士団団長の意味を理解出来ているのか?」
つまり、認定傭兵団の団長の座に就く意味だな?
「エリーゼ様から聞いたし少しはね。……あのさ、ちょっと確認したいんだけど、ボクって弟とか妹はいないの? どっちのでもいいけど」
唐突なボクの言葉に二人は虚を突かれたように一瞬「?」と固まったが、理解したのか母がボクを睨みつけてくる。
「……お前っ!?」
そして、怒りで顔を赤く染めると立ち上がろうとしたが……お爺さんが押し止めた。
「止めなさい。少なくともリリアナにはいないな。グレイ団長の行動までは把握出来ていないが、それでも定期的にある連絡ではその様子はない。二人の子は君だけだろう」
いてくれたらもしかしたら団長って立場は押し付けられるんじゃ……と思ったんだが。
「……ってことはやっぱボクか。エリーゼ様は群狼戦士団が名前はそのままで中身は別物になるのは嫌みたいだったよ。ボクはこの国とか領地の情勢を何も知らないし、詳しいことは話せないから、これ以上のことを知りたいのならエリーゼ様から聞いてよ」
一先ずここまでの過程を簡単に説明した。
ボク自身戦闘に少し参加しただけでほとんど事情を把握出来ていないし、後は自分たちでどうにかしてもらうしかない。
二人は顔を見合わせると小さく頷いた。
そして、お爺さんが「そうだな……」と呟くと、こちらを見た。
「確認したいのだが、君は団長の座に就くとして……人も物もないだろう? どうするのだ?」
「ここだけの話にして欲しいけれど、野営地にあった物は全部ボクが引き継いでいるんだ。武具も道具も……現金もあるからね。人に関してもボクもちょっと考えがあるし、ある程度はエリーゼ様も口を利いてくれるらしいから、何とかなるかな?」
「それは、エリーゼ様の私兵になることと同じではないのか?」
「どうだろうね? 余計な人間が関わって来るのを避けたいって思惑の方が上だろうけど……少しはそういう考えもあるのかな?」
「エリーゼ様は昨年まで王都にいたから私も詳しい人となりはわからぬ。しかし……認定傭兵団に人を送り込める立場になるわけだ」
「そうかもしれないけど……自分で言うのもなんだけど、ボクはこの十四年間ずっと野営地と馬車で暮らしていたんだよ? 他に選べる選択肢なんて無いよ」
ボクのその言葉に、お爺さんは「むっ……」と呻き、母は「フン……」と顔を逸らした。
ボクへのこれまでの仕置きに罪悪感を覚えでもしているのか、二人とも少々気まずそうだ。
……これは違う選択肢を得るチャンスか?
ボクは「それとも……」と続けたが、お爺さんが「わかった」と遮った。
「君たちは我がビーンズ家で面倒を見よう。同時に群狼戦士団に対しても支援を行おう。それで構わないな?」
ボクが今まさに要求してみようかと考えたことを、お爺さんから先に申し出てきた。
「いいんですか?」
「街やその周辺を守るためにも、認定傭兵団であろうと群狼戦士団は我々の手にある方がいい。エリーゼ様の悪評こそ聞かぬが、それでも渡すわけにはいかん。団の子供を連れて来ていたな? 代官たちとの協議を終えたら纏めて私の屋敷へ移ってもらう。いいな?」
「おぉ……まぁ、子供たちも引き受けてくれるなら言うことはないですけど……」
急にスイッチが入ったように、勢い込んで話し始めたお爺さんに少々圧倒されつつも返事をすると、ボクは母の方に視線を向けた。
「わかりました……」
「うむ。代官や他の家も文句は言うまい。では、行こう」
母の返事を聞いたお爺さんはそう言って立ち上がると、こちらの返事を待たずにドアに向かって歩いて行く。
呆気にとられながらもう一度母に視線を向けると、溜め息交じりに肩を竦めていた。




