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「……何がおかしいの」
母が笑みを浮かべるボクを睨みつける。
麻袋も仮面も被っていないから表情がまるわかりなのを忘れていた。
「いや、気にしないで……これからどう話を進めるかが纏まったからね」
母の疑問にそう答えたんだが……自分でも「おや?」と不思議に思うほど先程までに比べると声が柔らかかった。
話の内容もそうだが、それよりも母と会うことにそれだけ神経を尖らせていたんだろうな。
「……? そう……なら、早く進めて頂戴」
母もボクの態度の変化を感じたのか怪訝そうな表情を浮かべている。
言葉にも棘を感じないし、ボクの態度が敵対的……とまではいかないが、ちょっと攻撃的過ぎたから母も対抗していたのかもしれない。
今後もあるし、気を付けないといけないな……と、反省をしたところで、ボクは話を始めることにした。
まずは、改めて互いの前提の確認だ。
「二人は今日はほとんど説明を受けずに来たんだよね?」
二人揃って頷く。
「昨日今日で何か異変は?」
「異変……? いや、私には何も」
ボクの言葉に思い当たることがないのかお爺さんは首を傾げるが、母は違った。
「昨夜お兄様が西から来る者が少なかった……とは言っていたわ。それが異変と言えるのかはわからないけれど……」
この街の西側ってことはボクたちが来た方角だ。
やっぱり封鎖されていたのか……。
「いや、それだね。昨日の朝ウチの野営地が襲撃を受けて、群狼戦士団は崩壊したんだ。多分人が少なかったのは、賊が街道を封鎖して……大丈夫?」
ボクは話を止めて二人を見る。
群狼戦士団崩壊の情報がそれほどショックだったのか、二人とも目を見開いて絶句している。
「……グレイ団長はどうしたんだ? 彼ならたとえ不意打ちを受けたにせよ賊如きに後れを取るとは思えんが」
お爺さんは顔色は青ざめつつも、父の腕を信用しているのか今の話は信じがたいようだ。
だが。
「知らない。昨日の朝からか一昨日の夜からかはわからないけど、野営地では見かけなかったからね。ボクは子供たちと洗濯に出かけてたから襲撃を受けた時点で野営地にいなかったんだ。そのお陰で上手く離脱することが出来たんだけどね」
「それで……この街を目指したのね? エリーゼ様とご一緒されていたし、エリーゼ様の隊が賊を捕らえたのかしら?」
「結果的にはね。野営地を襲った賊がお嬢様……エリーゼ様を狙っていたんだ。ここから街道沿いに北西に行ったところに村があるでしょう? あのすぐ側だね……ねぇ、ちょっと本当に大丈夫?」
お爺さんだけじゃなくて母も真っ青な顔をしている。
まだ話し始めたばかりなのに……こんなんで大丈夫だろうか?
とりあえず一旦話を止めて、二人の様子が戻るのを待つことにした。
◇
数分ほどが経った頃、お爺さんが「済まなかったね。もう大丈夫だ……」と続きを促してきた。
まだ多少顔色は悪いが……先程よりはマシだし、続けても大丈夫だろう。
「じゃあ、続けるよ。エリーゼ様たちの戦闘はボクも途中からしか知らないから、詳しいことは本人たちに聞いてね。ともかく、初めは優勢だったけれど、商隊に扮した後続の奇襲を受けて半壊してたんだ。数でも負けてるし隊列も崩されてるしで、このままだと負けそうだったから、ボクも参戦したよ。結果は……逃げられもしたけど十人以上を捕らえたし、そこから何かまたわかるかもしれないね」
「……野営地が襲撃を受けて、君は子供たちを連れて逃げ延びたわけだが、そのスカーフはその時に持ち出した物なのか? それとも普段から身に着けていたのか……?」
「襲撃後に賊が野営地の荷物を奪っていたんだ。戦闘が終わった後エリーゼ様たちが回収していて……ボクが引き継いだんだよ」
その言葉の意味が分かったのか、二人は深刻そうな表情を浮かべている。
「つまり……今は君が団長の座にいるわけだな?」
「代理とか暫定とかが頭に付くけどね」




