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揃ってソファーに座ったところで、お爺さんが「事情を説明してくれるね?」とこちらを見た。
口調こそ穏やかだが、ボクを見る目つきは中々に鋭い。
そして母の方は険しい目つきでボクを睨みつけている。
さらにその目つきを険しくしてしまいそうで申し訳ないが……それでも敢えて確認だ。
「その前に、母親でいいんだね?」
ボクのその言葉に奥歯を噛みしめたのか「ギリッ」と鈍い音が母の方から聞こえてきた。
大分お怒りのようだが……まだ彼女自身からちゃんと聞いていない以上、ボクも迂闊に話すことは出来ない。
もう一度言おうかとしたが、お爺さんが母に「これ……」と促した。
「貴女がグレイの娘だというのなら私が母親よ……これで満足かしら?」
母は腕を組んで背もたれにもたれ掛かると、横柄な態度で言い放った。
これが彼女の素の態度なのか、それともボクを挑発しようとでもしているのか……判断に迷いつつも、一先ず知りたいことを知れたことだし、返事代わりに頷いた。
「じゃあ……話を始めるね」
ボクが説明を始めようとしたところで、今度は母が待ったをかけてきた。
「貴女がアリスだということも証明して欲しいわね。その仮面を外すだけだし簡単でしょう?」
お爺さんは「リリアナっ!?」と咎めるような声を上げる。
「エリーゼ様がご一緒されていたのだぞっ!」
母はそのお爺さんに一歩も引かない態度で睨み返した。
「お言葉ですが、私がアリスを最後に見たのは十年以上前のことです。確かにグレイのスカーフを身に着けていますが、それだけで娘と認められますか?」
結構酷いことを言っているが内容自体はもっともなことで、お爺さんも「む……」と言葉に詰まってしまった。
どうでもいいことだが、母はリリアナという名前らしい。
ついでに、お嬢様の名前はエリーゼだったか。
どちらも忘れないように覚えておかないと……。
「まぁ、いいですよ。どの道ボクも元々アンタに会う時は顔を見せるつもりでしたし……」
仮面を外そうとすると引っかかるような感触がある。
「ん? ……あぁ」
そういえばこの仮面は外すのにコツがいるんだった。
魔力を通して外すと、顔を上げた。
ボクの顔を見て、お爺さんは「む?」と訝しみ、母は「なっ!?」と目を丸くしている。
「深い傷を負ったとは聞いていたが……見事に治っているではないか。リリアナ、お前が少女の頃とそっくりではないか? ……リリアナ?」
お爺さんはボクの顔の傷の詳細までは知らなかったようで、単純に治療が上手くいったんだと考えているようだが、母は違う。
「……あの傷を治すほどの回復薬だなんて、グレイは何を考えているの?」
父が強力な回復薬を調達して来て、それをボクの治療に使った……そう考えたようだ。
普通の回復薬ですらちょっとした資産になるみたいだし、それほど強力な回復ならいったいいくらになるんだろう。
そもそも手に入れられる代物なのかどうかもわからないし、母が驚愕しているのも納得だ。
だが。
「これは自分で治したんだよ。完治まではちょっと時間がかかったけどね」
「ほうっ!? 大分高度な回復術を使えるのだな」
ボクの言葉に驚きながらも感心するお爺さん。
一方母は……。
「碌に喋れもしないうちから、教わりもしないで顔を弾き飛ばすほどの魔力を扱って、それだけじゃなくて治療の施しようのない傷を自力で治した? 賢者でもないのになんなのよ……化け物ぶりもいい加減にして欲しいわ……」
忌々し気にボクを睨んで来る。
賢者って言葉はちょっと気になったが、それは後回しだ。
彼女の今の言葉で、ボクを嫌っている……というよりかは、恐れていることが分かった。
確かに二歳や三歳で誰にも教わらずにそんなことをするのが自分の子供だとしたら、遠ざけたくなるかもしれない。
ボクも子供たちの面倒を見ているからその気持ちはちょっと理解出来る。
つまり、その点を気を付ければいいんだな?
話を持って行く方向性が見えてきたね!




