38
「「「…………」」」
部屋の中がボクたち三人だけになってから、未だに誰も一言も発さない。
ある程度状況を理解しているボクが黙り込んでいるのだから無理もないだろう。
このままじゃ埒が明かないし……ボクが口火を切るか。
問題はどんなスタンスで挑むかだが……。
「っ!?」
部屋の真ん中まで歩いて行き、そこでドアの前に立ったままの二人を振り向くと、老人は小さく息を飲んだ。
そして、母の方は腕を組んだままこちらを睨んでいる。
背丈は見た感じボクよりも大分高い。
ヒールの高い靴を履いていることを加味しても、160㎝半ばってところだろうか?
上に薄手ではあるがコートのような物を羽織っているし、胸の前で腕を組んでいるからスタイルはよくわからないが、女性的なスタイルの人だ。
薄っぺらいボクとは大分違う。
緊急の呼び出しだったはずなのに、編み込んだ茶色の髪を後ろで纏めたりと手間をかけているし化粧もしっかりしている。
物心付いて以降初めて顔を見る気がするが……中々勝気というか強気な印象を受ける女性だ。
それならボクも彼女に押されないように強気で行った方がいいな。
もちろん、今後のこともあるしケンカ腰にならないように気を付ける必要が……と、覚悟を決めつつもまだ迷いがあったんだろう。
中々言葉が出ずにもたもたしていたが、ボクのその様子にしびれを切らしたのか母が先に口を開いた。
「貴女がアリスね?」
端的な言葉と共に、ボクをじろりと睨みつけてくる。
女性にしては低めで、感情を感じられない声色なのが逆に苛立ち具合を感じさせる。
ボクも負けないように……!
「アンタがボクの母親なのかな?」
腰に手を当てて睨みつける。
母に対してボクの声はおよそ迫力は感じられないが……仮面のお陰で表情が隠れているし、むしろ余裕があるように聞こえるかもしれない。
実際母の顔が苛立ちで歪んでいる。
詰め寄ろうとしたのか母が一歩前に踏み出したが、「待ちなさい」と老人が彼女の肩を掴んだ。
「……失礼しました」
そう言って母は下がったが、その際に「チッ」と小さく舌打ちをしたのを聞き逃さなかった。
……あの人って貴族だよね?
この世界……前世でも貴族の世界について何て知らないけれど、貴族の皆が皆お上品な人間じゃなくて、中にはガラが悪い者もいるんだろうか?
お嬢様は礼儀正しかったんだけどな……。
母のガラの悪さに呆気に取られていると、老人が母と入れ替わりボクの前に立った。
六十歳か七十歳か……背筋はしっかり伸びているが、ちゃんとしたお爺ちゃんだ。
この世界の寿命がいくつくらいか知らないが、少なくともボクが今まで見てきた中では一番の高齢者だと思う。
当たり前だが面識のない相手だ。
「……貴方はどちら様?」
この場に同道する高齢者となると、母の父……つまりボクにとっての祖父だ。
だが、母の年齢を考えるとちょっと年を取り過ぎている。
遅く生まれた子供って可能性もあるのかな?
視線を老人と母で行ったり来たりさせながらそんなことを考えていると、視線に気付いた母が先に口を開いた。
「私の大叔父様……現ビーンズ家の当主よ」
つまりボクにとっては曽祖叔父か。
それより……ビーンズ家ってなんだ?
「……ビーンズ家ってなんですか?」
頭に浮かんだことをそのまま口に出すと、母の表情がさらに一段険しくなった。
「お前は……っ」
決して煽っているわけではないんだが、何と言うか……怒りを露にしている人間を見るとボクの方は冷静になって来るな。
「止めなさい。縁のない生活をしていたのだろう」
お爺さんは母に声をかけて宥めると、ソファーなどが置かれた一画に視線を向けた。
「我々の話よりもアリス殿の話を聞かせてもらえるかな? 代官から群狼戦士団の件でアリス殿が屋敷を訪れる……それだけしか聞かされていないのだ。一言二言で終わるような話ではないのだろう?」
もっともな話だ。
ボクは「そうですね」と頷くと、ソファーへ歩いて行った。




