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商業区は門の手前が個人の店で、街の中央付近に近づけば近づくほど大きい建物が増えていっていた。
お嬢様曰く、この辺りの食品や飼料……果ては農業関連の道具などを取り扱う商会が並んでいるそうだ。
道中で話してくれた合併前の村の村長一族が商会主をしていて、入り口前に家か商会のかはわからないが、デカデカと紋章が刺繍された旗を掲げているし、門前に警備員までいる辺り……今も街でしっかりと影響力を維持出来ているんだろう。
大人しく座りながらも皆で窓の外を眺めていると、一人が何かに気付いたようでボクの袖の引っ張って来た。
「お姉ちゃん、あの旗の模様見たことあるよ!」
「うん? どれかな?」
他の子たちと一緒に窓の外を見るが、相変わらず馬車の周りを兵が囲んでいるし通りに人も多く、周囲の様子がなかなか見えづらい状況だ。
「あれだよ。あのウネウネの!」
「ウネウネ?」
「どれ?」
「あれかな?」
「そう! あそこの……あー……見えなくなっちゃった……」
加えて、似たような建物も多いしで、どれを指しているのかがわからず手間取っている間に通り過ぎてしまったらしく、その子は残念そうな声を上げた。
ボクだけじゃなくて他の子たちも見つけられなかったようで、馬車内にため息が漏れた。
それを聞いたお嬢様が空気を変えようと思ったのか、明るい声で口を開いたんだが……。
「見たことのある旗ですか。そういえば回収した積み荷で商会から直接運び込まれた物もありましたね。認定傭兵団なら直接取引があってもおかしくありませんし、付き合いがあったのでしょうね。後で時間が出来たら紋章を纏めた本を一緒に見ましょう。お姉さんに教えてくださいね?」
返事は「あ……はい……」とボクの後ろに隠れながらになった。
フォローしてくれたのにちょっと失礼な態度ではあるが、子供たちとお嬢様はここに来るまでの間会話はおろか挨拶すら碌に交わしていないため、まだまだ打ち解けてはいなかった。
傭兵団の野営地で育ったし物怖じしない子たちではあるが、鎧を着たままでも明らかにボクたちとは違うハイソなオーラを纏った年上の女性で、ボクたちとはあまりにも馴染みがなさ過ぎる存在だけに無理もないだろう。
もしかしたらお嬢様もこういったことは慣れっこなのかもしれない。
ボクが小さく頭を下げると「構いませんよ」と苦笑していた。
◇
さて、見逃したウネウネの紋章も気にはなっていたが、馬車はその間も進んで行き、商業区を抜けて街の中央にある行政区へやって来た。
商業区は進むにつれてドンドン大きな建物が増えていっていたが、こちらは入ってすぐから視界に飛び込んで来る。
特に意匠を凝らしているわけでもない四角い大きな建物群だが、恐らく何かしら偉い人たちが集まっているんだろう。
商業区でも警備員を配置している建物はあったが、こちらは明らかに正規兵らしき者たちが警備をしていて、自ずと場違い感を意識させられる。
ちなみに、騎士団の詰め所は行政区に入ってすぐのところにあり、応援に送られた兵たちは捕らえた賊共々既に別れていて、一行の人数が減っているため少々心細さを感じるが……お嬢様にとってはむしろこここそがホームなのか、先程までよりもリラックスしているように見える。
ボクが見ていることに気付いたようで、彼女は「どうしましたか?」と首を傾げた。
「……場違いな気がして」
「あら? 多数の賊を相手に大立ち回りをしたのにおかしなことを言いますね」
そう言って笑うと前方を指差した。
中からでは見えないが、その方向に代官の屋敷があるんだろう。
「もう間もなく到着します。村を出発した際に先行して伝令を送っていますから、貴女たちを受け入れる準備は整っていますよ」
そして、安心させるためなのかまた手を握って来るが……どうにもこのお嬢様はボクたちの暮らしていた環境を理解出来ていない気がしてきた。
どれくらいの期間滞在することになるかはわからないが、この世界の真っ当な生活に適応出来るのか……不安だ。




