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村からラカンパの街への移動は、一緒に運ばれる団の所有物や護送される賊も馬車だし、お嬢様たち一行はもちろん応援の兵たちも全部騎乗していることもあって、ちょっとした軍隊の行軍のようだ。
まぁ……実際その通りではあるんだが、ボクたちも一緒にお嬢様のためにわざわざ街から持って来た賓客用の馬車に乗せてもらっている。
賓客用だけあって中は広々していて、子供が大半だとはいえ中に八人もいるのに、ぶつからずに歩けるほどだ。
その大きい馬車の周囲を騎乗した兵に囲まれている。
前世も含めて基本的に穏便な生活を送っていた身としては、どうにも落ち着かない。
傭兵団の野営地暮らしをしていたのに何を言っているんだと我ながら思うが……こればっかりは性分だ。
「うつむいていますが、酔ってしまいましたか? 慣れない方は具合が悪くなったりするのですが……」
車窓から何か珍しい物を見つけてははしゃぎまわっている子供たちに対し、ジッと黙っているボクが気になったんだろう。
子供たちの側にいたお嬢様が隣にやって来た。
「あぁ……大丈夫です。ちょっと落ち着かなくて……」
「落ち着かない?」
群狼戦士団の所有物を引き継ぐだけならともかく、野営地を訪れていた商人たちの商品まで、どさくさに紛れてボクが受け取ってしまった。
お嬢様や兵たちが責任は取ると言っていたが、ボクにもやましい気持ちがあるだけに……。
溜め息を吐きながら、車内からは見えないが背後を走る荷物を積んだ馬車を気にする素振りを見せると、ボクの懸念を理解したようだ。
「ああ、何かあれば私たちが間に入りますから、アリスさんは気にしなくて大丈夫ですよ」
そう言って膝の上に置いていた手に自分の手を重ねたかと思うと、ギュッと握りしめてきた。
「随分と冷たくなっていますね。警備の都合で窓を開けることは出来ませんが、仮面を外してはどうですか?」
お嬢様のその提案に一度窓の外に視線を向けるが、馬車の護衛を行っている兵たちは、馬車の周囲だけじゃなくて車内……特にボクへの警戒も忘れていないようで、窓から中の様子を窺っている。
バッチリ目が合ってしまった。
人見知りや人嫌いってわけじゃないが……この状況で仮面を外してもさらに落ち着かなくなるだけだろう。
「カーテンを引くことは可能ですが……」
「それは止めておきましょう。ボクはこのままで大丈夫ですから」
カーテンを引いたら外の兵たちを警戒させるだろうし、子供たちだって退屈してしまうだろう。
ボクが覚悟を決めさえしたらいいんだし、そこまでやるほどではない。
「わかりました。ですが無理をしてはいけませんよ?」
「ええ、大丈夫です」
お嬢様があまりにも心配そうな顔をしているから、傍から見るとボクはそんなに具合が悪そうなのかと不安になって来た。
それなら。
「そうですね……気分転換も兼ねて、お嬢様がよろしければですがこの周囲の情報を教えてもらえませんか?」
「この周囲……と言いますと、ラカンパ周辺のことでしょうか?」
ボクの言葉にお嬢様は、実の母親が暮らしていて、昨日まで陣地を張っていたのに何を……と思ったのか、小さく首を傾げた。
もっともな話ではあるんだが。
「はい。ボクは野営地以外のことをほとんど知らないので……」
移動は馬車の荷台で、野営地を設営したらそこに引っ込む。
そんな生活をずっとしていたため、外の様子は精々移動時に見聞きする情報程度しかわからない。
下手をしたら大人と普通に会話をしている子供たち以上にボクはこの世界のことを知らない可能性がある。
今日これから会うであろう母親との挨拶などを上手く乗り切るためにも、情報はあった方がいい。
「そう言えば村でそのようなことを口にしていましたね。わかりました。私も昨年までは王都にいたので詳しい情報は持ち合わせていませんが、簡単なことでよければお話ししましょう」
お嬢様は納得するように頷くと、話を始めた。




