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賊たちを全員馬車に詰め込むと、出発に備えて村の外まで移動していった。
その際にも、賊たちはボクやお嬢様に向かって軽口を叩いていて、元気なことだと感心しつつも「……賑やかでしたね」とついつい呟きが漏れてしまった。
「不快にならなかったのですか?」
前を歩くお嬢様がこちらを振り返りながらそう訊ねてくるが……。
「ん……まぁ、うるさいなとは思いましたけど、そこまでは……」
今までボクが過ごしてきた野営地だって、直接何か言われることはなくても決して上品な場所じゃなかっただけに、特に気になることはなかった。
それを聞いたお嬢様は「まあ……」と驚いて目を丸くして言葉を失っている。
ボクはこの世界では野営地以外の街や村は精々移動中にちょっと近くから見る……ってくらいしか知らないからよくわからないが、先程の軽口程度で絶句するなんてこの世界はそんなに治安がいいんだろうか?
ボクもほとんど近付いたことはないから詳しくは知らないが、前世のちょっとガラの悪い繁華街辺りでなら目にした程度だとおもう。
この世界でもアレくらいならあってもおかしくはないはずなんだけど……もしかしてこのお嬢様も結構な世間知らずなんだろうか?
お嬢様の背中を見ながらそんなことを考えていると、「そう言えば……」とこちらを振り向いた。
「どうしました?」
「その団旗、良く似合っていますよ」
「さっきも言いましたけど、そんな大げさな物じゃないですよ」
お嬢様の言葉に、ボクは苦笑しながら答えた。
◇
賊が持っていた大量の荷物は一体誰の物か……という問題は、その中から群狼戦士団の紋章が刺繍されたスカーフを見つけたことで、野営地から奪った物だということが証明出来た。
ならその次は、それが現時点で誰の物になるのか……ということが問題になる。
群狼戦士団の所有物なのだから迷う必要はないんだが、その肝心の団が絶賛壊滅中だ。
団長の一人娘であるボクが受け取ることになったが、群狼戦士団が認定傭兵団という他の傭兵団に比べて特殊な立ち位置であることが、事態を少々ややこしいことにしている。
一般的な傭兵団だとこのレベルでボロボロになったらまず解散だ。
その場合だと団内の資産は一先ず団長の身内に渡って、そこから残った団員に分配されるって方法を取るそうだが、群狼戦士団は半官半民のような組織だ。
組織を存続させることを優先して、引退した騎士やその関係者などを連れて来る可能性もあるんだとか。
入れ物はそのままでも中身は全くの別物になってしまうが、それも仕方がないだろう。
ただ、後で誰かに譲るにしても、一先ず団長の一人娘であるボクが代理として団長の座にいる必要があるらしい。
それなりに重要そうな役職だし、そんな簡単にいくんだろうか……と思うが、お嬢様やこの場の兵たちも口利きしてくれるから、恐らくボクが団長の座にはすんなり就けるだろうと言われた。
どうやら彼女たちの目には、ボクはそれなりに信用出来る人間と映っているようで、傭兵団としての戦力が落ちようとも、何かと便宜を図る手間を支払おうとも、信用出来るボクに団長の座にいて欲しいそうだ。
明らかに命を狙われたわけだし、状況もまだ何もわかっていない以上はそう考えてもおかしくはない……のかな?
そのためのアピールの一環として、紋章が刺繍された布をスカーフ代わりに肩に巻き付けている。
父用だけあってボクには少々サイズが大きく、ちょっとしたマントみたいになっているが、それはそれで目立つし再び合流した子供たちからもカッコイイと好評だ。
団の所有物を受け取ることが出来るという明確なメリットがある以上、拒否するわけもない。
仮面と合わせて変な目立ち方をしそうな気もするが、街に着いてからも当分この恰好をしておこう。
さて、そんなこんなをしている間に、荷物の運び入れや賊の護送の準備も完了して村を発つことになった。
人生で初めての戦闘だったりと色々大変なこともあったが、これで何とか目的地であるラカンパの街に辿り着けそうだ。




