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村への謝礼の品は回復薬等にすることは決めたが、傭兵団の野営地に売り込みに来る商人の積み荷だ。
当然薬品類もたくさんあって、どれがどれかもわからないボクには選ぶことが出来ず、お嬢様とカイルに選んでもらうことにした。
住民の目の前で決めたことで、本来なら自分で選ぶべきなんだろうが……相場がわからないと果たしてそれが妥当なのかどうかもわからないしやむを得ないだろう。
箱入り娘として育てられた……というわけではないが、この世界の常識にほとんど触れずに生きていただけあって、大分世間知らずになっていることを今になって実感している。
今まではそれでも何とかなっていたが、これからはそうもいかないだろうし改めていかないといけないね。
そんな風にボクが人生について反省をしている間に、二人は急いで薬品類をチェックすると、合計十八本の薬品を机の上に選り分けていた。
フラスコのような瓶が十二本と試験管のような細長い瓶が六本ある。
瓶だけ見たら二種類の薬品みたいだけれど……何が違うんだろうかと机の上の瓶を眺めていると、カイルがボクに側に来るように手招きをしている。
「回復薬が十二本と解毒薬が六本。この辺りが妥当な品だろう。お嬢様、如何でしょうか」
「確認しました。私もこれでいいと思います。アリスさんも構いませんか?」
「……二人が問題無いのならボクも構いません」
瓶の中身の違いが分かったし、ボクから何も言うことはないんだが……一つ気になるのはこの本数でいいんだろうかということだ。
実は先程のスカーフを探す短い時間でも薬品が入った箱をいくつも見つけていた。
質が違ったりするのかもしれないが、数はもっとあるはずなのに……。
ただ、選定を任せた二人がこう言っている以上は異を唱えるのもなんだし、何より部屋にいた村の人間もそれで十分なのか、二人の話を聞いて嬉しそうな表情を浮かべている。
「村長、こちらは群狼戦士団団長代理のアリス殿からの謝礼品です。受け取りなさい」
「ありがとうございます。エリーゼ様、アリス殿。村を代表してお礼申し上げます」
村長と呼ばれた男が前に出てくると、ボクたちに向かって揉み手をしそうな勢いで礼を言ってきた。
ボクが運ばれた場所が村長の屋敷なのは教わったものの、当の村長には出会わなかったし、ボクたちとは距離を取りたいのかなと思っていたんだが……ここで作業の監督を務めていたらしい。
よくよく考えると、ボクのような得体の知れない者や騎士団の兵だけならともかく、領主の三女までいるんだし、無視を決め込むってことはないか。
ともあれ、ボクの方もお世話になった訳だし「こちらこそ助かりました」と礼を返すと、彼もまた「いえいえ……」と頭を下げてきた。
このまま止め時がわからなくなりそうな雰囲気になりかけたが、カイルが「そこまでにしよう」と中断させる。
「村長。外に馬車が来ているからこの荷物を運び出したい。手伝ってくれ」
「はっ。お任せください」
村長はすぐに部屋の中の者たちに指示を出すと、広げられた荷物を片付け始めた。
ボクも手伝うためにそちらに行こうとしたが、肩に手を置かれた。
「私たちがいても邪魔になりますし、外に出ておきましょう」
確かにボクの今のコンディションはベストには程遠いし、手伝ったところで邪魔にしかならないか。
ボクは「わかりました」と頷くと、お嬢様と一緒に部屋を出ることにした。
◇
お嬢様と一緒に外に出ると、繋がれていた賊たちが応援の兵が持って来た馬車に乗せられているところだったが、ボクたちに気付いた賊が軽口を飛ばしてくる。
「お? なんだ、アンタ団長になるのか?」
「俺たちを雇ってくれよ。正規兵相手に一戦やって生き延びたぞ!」
兵に「黙っていろ」と槍で軽く殴られたりもしているが……ゲラゲラ笑いながら止める様子はない。
シッシッと手で追い払うような仕草をしつつ、ボクは彼らの元気さに感心していた。




