28
群狼戦士団の紋章が刺繍されたスカーフを見たお嬢様は満足そうな笑みを浮かべた。
「カイル、これなら構いませんね?」
「はい。こちらの所有権はアリス嬢に与えられます」
二人の言葉に、ボクはスカーフを広げたまま「うん?」と首を傾げていると、二人がこちらを見る。
「これらは賊が群狼戦士団の野営地から奪ったものだろう? 証明する物がある以上返還するのは当然だ。そして、今は君しかいないだろう?」
「馬車も確保出来ていますから一緒に街まで持って行けますね。馬車の操作はこちらが引き受けますから、安心してください」
「あ……それは助かります……」
部屋の中を改めて見ると、馬車数台分にはなりそうな荷物が集められている。
武具や薬品など……ボクの手に余る物が目立つが、先程スカーフを探す際に金貨などが入った革袋もあった。
恐らく父や幹部たちのテントにあった物を適当に突っ込んいたんだろう。
ずっと野営地で引き籠った生活をしていたから、実は未だにこの世界の貨幣価値を把握出来ていないが……着の身着のままで出てきた身としては、多少なりとも現金を手にすることが出来るのはありがたい。
母の家を頼るつもりではあったが、上手くいかなかったとしてもとりあえずどうにかなるだろう。
だが、ホッとするボクと違い、部屋にいた村人たちから小さな溜息が漏れたことに気付いた。
普段被っていた耳が塞がれる麻袋ならともかく、今ボクが着けている仮面なら耳が露出している。
その小さな溜息を聞き逃さなかった。
彼らの方にチラッと視線だけ送ると、広げられた荷物を揃って恨めしそうに見つめている。
何でだろう……と思ったが、ふと疑問が頭に浮かんだ。
「あの……コレって、もしボクが証明出来なかったらどうなってたんですか?」
コソコソとお嬢様の側に近付いて、大して意味はないだろうが声を抑えてそう訊ねると、彼女は「そうですね……」と苦笑しながら口を開いた。
「その場合ですと騎士団が押収しますが、負傷者の手当の場や賊の捕縛と収容の手伝いをしたこの村にも、協力費としていくらか払われます」
その言葉に「どうりで……」ともう一度彼らの方に顔を向けると、気まずそうに顔を背けていた。
「我らを取り囲む賊の背後から奇襲を仕掛け、さらにお嬢様の危機を何度も救ったりと、戦闘面でも君は大いに貢献した。遠慮せずに受け取っても問題ないだろう」
カイルはそう言うが……必ずしもラカンパの街でやっていけるかわからないし、何かあった時に備えて穏便な関係を築いておきたい。
それに、治療や子供たちの件で感謝していることも確かだ。
「ボクの治療や子供たちを避難させてくれたりしましたからね……。こういう場合は謝礼はどれくらいがいいんですか?」
「カイル?」
「そうですね……商人でしたら回収した商品の一部を贈りますが、如何せん武具が多いですからね」
「武具は駄目なんですか?」
ボクが扱える物じゃないし、見たところ碌な武具を置いていないこの村だと、防衛用に丁度いいと思ったんだが、何かマズいんだろうか?
「素人に渡したところで、碌に手入れも出来ずに駄目にするか、持て余して村を訪れる商人に捨て値で売り払うくらいだ。それよりも現金の方がいいだろうが、そちらは君が持っていた方がいいだろう?」
「確かに……」
武具を渡しても活用出来ないのなら困るだろうし、それなら現金の方がいいんだろうが……これはボクが確保しておきたい。
カイルの言葉に頷いて、続きを待った。
「それなら、薬品をいくつか選ぼう」
「薬品ですか。……でもそれって」
恐らく野営地を訪れていた商人の物だ……と言おうとしたが、カイルが「口に出すな」と言わんばかりに首を横に振った。
「我々も治療に使ったが、効果も出どころも問題無い。もし何かあるようなら我々が間に入ろう」
事情を理解しているだろうにそういうってことは、騎士団公認でボクの物にしていいってことなのかな?




