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部屋の様子も気にはなるが、一先ず仮面だ。
ボクの顔を見て村民やカイルと呼ばれた彼が黙り込んでしまったし……視線も鬱陶しい。
さっさと仮面を着けて欲しいんだが……。
「……どうなってるんですか? それ」
お嬢様は手にした仮面を相手に苦戦している。
仮面自体は目と口に穴が開いていて鼻は立体的に作られている……前世のオペラなどで使われるような、白い仮面だ。
その仮面をお嬢様が飴細工のようにグイグイと曲げている。
手で触れた感じでは平らな板のような質感だったが、あの様子だと少なくとも木製でも金属製でもないはずだ。
そもそも木や金属ならこんな風に曲げられないだろうし、何で出来ているんだろう?
「これは……白鉄ですよっ……出来ました」
お嬢様が満足そうにそう言ってボクの顔にそれを当ててきた。
仮面の内側は、ひんやり冷たくて肌にピタッと吸い付いてくるような不思議な感触だが……それよりもボクは初めて聞く「しろてつ」という名称に首を傾げていた。
「アリス嬢、白鉄とは金属に魔物の骨を混ぜ合わせて作る物体だ。魔力を通すことで形を多少だが変えることが可能な特性を持っている」
「……へぇ!?」
カイルの説明に、そんなファンタジーな代物が存在するのか……と驚き、声を上げてしまった。
物としては形状記憶合金とかそんな類の物なんだろうが、魔物の骨や魔力を用いた道具を見るのは、十何年もこの世界で生きていたけれど初めてだ。
「息苦しかったり視界が悪かったり……邪魔にはなりませんか?」
「いえ、むしろ今までのよりずっといいです」
ボクが今まで被っていたのは目元に適当に穴を開けた麻袋だったから、ちゃんと顔に着けることを想定したコレは段違いの快適さだ。
軽く顔を締めるような感触はあるが、精々眼鏡をかける程度のもので全く気にならない。
少し楽しくなってきてペタペタ仮面に触れていると、お嬢様が笑顔を見せながら説明を始めた。
「顔の守りと隠すための物であって、あまり快適性を考慮していないのですが……それなら何よりです。その仮面自体が人の魔力に反応して固定具なしでも外れないようになっています。わかりますか?」
「なんか吸い付かれるような感触はありました」
「それです。少し力を入れて引っ張るか、軽く魔力を流せば外せます。一度試してみましょう」
「強く引っ張るか魔力を流すんですね……よいしょっ!」
引っ張るのはいつでも出来るし、折角なので後者を試すことにした。
物に軽く魔力を流す……という行為を始めて行うので少々自信はなかったが、普段行っている訓練と同じ要領で魔力を集めてみると、スッと何かが抜ける感触と共に締め付けが弱まり簡単に外すことが出来た。
「なるほど……簡単ですね」
手間がかかるから使わない……と言っていたので少々身構えていたが、これなら別に大した手間じゃないし普段使いは十分可能だろう。
だが、お嬢様は「上手ですよ」と感心した表情でそう言うと、少し恥ずかしそうな様子で続ける。
「顔に魔力を流すことは滅多に無いので中々上手く出来ないんですよ? そのため、どうしても引っ張って外すことが多く、それを嫌って敬遠する者が多いのです。……お恥ずかしい話ですが私もそうですね」
「……魔法を使えていたのに?」
ただ単に魔力を溜めてぶっ放すだけのボクよりも、ずっと扱いが上手そうなイメージがあるんだが違うんだろうか?
外した仮面を再び着けながら訊ねると、お嬢様は気まずそうに視線を逸らした。
「アレは指輪を使っていましたから……」
そして、一つ咳ばらいをすると今度は髪に手を伸ばしてくる。
「……顔は仮面で隠せますが、髪の毛までは無理ですね。いないわけではありませんが、この辺りでは珍しい色ですし……帽子でも被りますか?」
「髪か……どうしようかな」
そう返答に迷っていると、部屋のドアをノックする音に考えを中断されてしまった。




