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被っていた籠を脱いで一息つくと、サッと部屋の中の様子を確認した。
どうやらここは会議室か何かのようで、四人掛け五人掛けほどの席がいくつも用意されている。
部屋に入って来た時に結構人がいるのでは……と感じたが、席は三つ埋まっているし十人以上か。
村の建物の屋根から初めて戦っている彼らを見た時は、半分近くやられていたと思ったんだが……もしかして全員無事だったのかな?
気やすめ程度ではあるが、兵に死者が出なかったのはボクにとっても朗報だ。
ホッと胸をなでおろしていると、今更ではあるがボクに集まっている視線に気付いた。
麻袋を被っていたり籠を被っていたりと、およそまともな人間ではない自覚はあるし怪しまれているんだろうけれど……その割には誰も何も言って来ない。
というよりも、困惑しているようだ。
何でだろう……と首を傾げていると、兵たちの中でも年かさの二人が口を開いた。
「……確かに顔色が良くないな。おい、誰か家人に飲み物を用意するように言って来てくれ」
「そもそも少女一人から話を聞くのにここまで集まる必要もあるまい。私たちとお嬢様とで話を聞こう。お前たちは退出していろ」
二人の言葉に兵たちは異議を唱えたりもせずに、お嬢様に挨拶をするとそそくさと部屋を出て行った。
飲み物を用意させたり人を減らしたり……気を使われているんだろうか?
まぁ……事情は分からないが、話しやすい環境を作ってくれたことには感謝だ。
◇
「顔色が良くなってきましたね。落ち着きましたか?」
運ばれてきたお茶を受け取ったお嬢様が、ボクの前にそれを置くついでに顔を覗き込んできた。
彼女が言うまでもなく、吐き気も収まったしもう大丈夫だ。
「ええ……すいません、待ってもらっちゃって」
「いいえ、構いませんよ。どうやら貴女はあまり傭兵団の運営に関わっていないようですし、急に色々な話をしても混乱してしまうでしょう。私たちが一つずつ質問をしていくので、それに答える形にしましょう」
「あぁ……それは助かります。ごめんなさい……本当にボクは依頼も任務も何もわからなくて……」
子供たちの世話や洗濯……治療の手伝いと、この年まで基本的に下仕事以外は関わらないでいた。
正確には関わらせてもらえなかったんだが、その扱いにこれ幸いと甘えて、碌に傭兵団の仕事について知ろうとしなかったのは事実だ。
今回の件で自分のいる世界が平和な世の中ではないことを、身をもって理解したが……もっと早く認識を改めるべきだった。
自分の甘さに大きく溜め息を吐きながら反省をしていると、お嬢様が手をこちらに伸ばして頬に当ててきた。
「グレイ団長は貴女のことを大事にしていたのですね。可憐な娘を荒事に関わらせたくなかったのでしょう」
お嬢様の言葉に、ボクは「うん?」首を傾げてしまったが、二人の兵もその話に同意しているようで、深く何度も頷いている。
「我々にすら娘は大怪我を負って人と関わることを避けている……としか伝わってきませんでしたからな」
「もっとも……身を守る術はしっかりと叩きこんでいたようですね。遠目に見ただけでしたが見事な身体強化でした」
「お陰で私たちも助かった訳ですからね。群狼戦士団は残念な事態になってしまいましたが……私たちと共闘して撃退して、多くの捕虜を捕らえることに貢献してくださったし、悪いようにはなりませんよ。安心してくださいね」
「……はい」
今の話を聞いた限りだと彼らはボクのことを噂程度では知っていたらしい。
その噂こそが正しいんだが……どうやら父親がボクを大事にするあまり一芝居打ったと受け止めたようだ。
訂正した方がいいのか勘違いしてもらったままの方がいいのか……どうしようか。
そう迷っていると、お嬢様が「それでは、話を始めましょう」と切り出してきた。
大したことじゃないし一旦後回しにして、今は質問に答えることに集中しようか。




