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「私の紹介はこれでいいですね? 既に彼らや貴女が連れて来た子供たちからも聞いていますが、改めて聞かせていただきます。認定傭兵団・群狼戦士団団長の一人娘のアリス殿……違いありませんね?」
「……そうです」
もっとも、ボクが一人娘かどうかはわからない。
ウチの父親は顔が良かったし母親とは滅多に会わなかったしで、野営地の近くの街に立ち寄っては結構遊んでいたことは知っている。
この世界の避妊事情はわからないが、ボクの知らない弟妹が一人や二人いても驚きはしない。
まぁ……それは今言うことではないだろうし、関係もないだろうから黙っておく。
それよりもだ。
「認定傭兵団ってなんですか?」
初めて聞く単語に首を傾げた。
恐らく領地や国から認定された傭兵団……って意味合いなんだろうが、ここで聞き逃すと後々知らなくても教えてもらえる機会がないかもしれない。
話の腰を折ってしまうかもしれないが聞いておこう。
幸いお嬢様は嫌な素振りを見せずに答えてくれた。
「あら、ご存じなかったのですか? 認定傭兵団とは領主が国に届け出を出した。騎士団以外の自前の戦力として抱える傭兵団のことですよ。只の雇用関係というわけではなくて、その領地限定ではありますがある程度の自由裁量権を与えられています。……もちろん相応の責任も負うことになりますし、簡単に与えられる称号ではありません。何代もの長い時間、領地のために働いて信用を得た団のみです。創立者や構成員が騎士団出身者や貴族の場合も多いですね」
彼女の説明は長くはあったが、簡潔でわかりやすかった。
ウチの場合は初代のご先祖様が騎士団の人間だったはずだ。
その縁で認定を受けたんだろうけれど……問題は。
「その負う責任とは……?」
「騎士団だけでは手が届かないエリアの警備の代理です。主に野営地を含む駐留地周辺の警備などですね」
彼女の言葉に、ボクは力なく「……そうですか」と答えた。
あのウチの野営地の襲撃を含む一連の事件がお嬢様を狙うためのものなのか、それとももっと大きい計画の中の一つなのかはわからないが……とりあえず一つはっきりしていることがある。
「……ウチは失敗しちゃったんですね?」
「言い辛いことではありますが……群狼戦士団は私たち騎士団と連携をとって周辺の警備を行う役割も担っていました。そちら側にどの様な事情があったのかはわかりませんが、賊に敗れたことは確かでしょう」
「うぐっ……」
彼女を狙った策の巻き添えで多大な被害を被った……ってことで、ボクや子供たちの今後に多少の援助を引き出せないか。
彼女の素性を聞いた際にそんなことを考えなかったといえば嘘になる。
卑怯と言うなかれ。
母親を頼るつもりではあったが実質絶縁状態で確実とはいえなかったし、利用出来るものはなんでも利用したかったんだ。
だが……どうやら群狼戦士団が役割を果たせなかったことで、このお嬢様を危険な目に合わせてしまった可能性が出て来た。
そうなると、援助どころか……。
思考がどんどんと悪い方向に行ってしまい、気分が悪くなってきた。
「大丈夫ですかっ!?」
「……へ?」
「黙り込んだかと思えば急にふらついていましたよ? 具合が悪くなりましたか……?」
「いや……大丈夫です。気分は悪いけど……」
「貧血かもしれませんね。回復薬を使ったとはいえ血を流していましたから……窓を開けてください」
なるほど……貧血もあるかもしれない。
「お嬢様、その籠も呼吸し辛くしているのではありませんか? 彼女の事情は多少は聞いておりますが、我々の中に気にするような者はおりません」
それもあるかもしれない。
大勢の前で何も被らない……ってのはどうにも落ち着かないが、何だか吐き気もしてきたしこの場で戻してしまうよりはいいだろう。
お嬢様が何か言うより先に、ボクは「よいしょ」と被っていた籠を脱いだ。




