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ガタガタと悪戦苦闘していたが、何とか開けられたようで部屋の中に外の明かりが差し込んだことで室内がようやくはっきりと見渡せた。
先程ベッドから下りた時に床に絨毯が敷かれていることには気付いたが、しっかり装飾が施されたタンスが置いていたり、地味ではあるが草原を描いた風景画まで飾られている。
この村は街道沿いのいい位置にあるとはいえ、外から見た限りそこまで裕福な村じゃないようだったし、どうやらここは賓客を招く部屋みたいだ。
そんな部屋で負傷者を寝かせるだろうか?
寝かせないよね。
そうなると、このお嬢様の存在がますます厄介そうな可能性が高まっていく。
彼女は木戸を開けて満足そうな表情でこちらに来るが、ボクの顔を見て「どうかしましたか?」と訊ねてきた。
「うっ……」
今まで麻袋を被った生活を送っていたし、一々表情を隠すなんて面倒な真似はしていなかったから気を抜いていた。
思い切り嫌そうな表情をしていたんだろうな。
とは言え、流石に直接尋ねるのは難しいだろう。
「何でもないです。それよりも、もう少し状況を聞かせて欲しいんですけど……?」
とりあえず彼女に話の続きを促した。
はぐらかしたいって狙いもあるが、今のところ子供たちが無事ってくらいしかわかっていないし、もう少し自分の状況を知りたいのも確かだ。
彼女ももっともだと思ったのか、その場で小さく頷いた。
「そうですね……私も貴女から話を聞きたいですし、体の具合に問題がないのなら別室に私の兵が集まっているので、そちらで話をしませんか?」
「ええ。ボクもそれで構いません」
そう言うと、ベッドに置かれていた籠を手に取って立ち上がった。
◇
お嬢様に手を引かれながらやって来た部屋には何人もの気配が漂っている。
もしかしたら十人近くいるんじゃないか?
ボクが覚えている動けた兵は四人くらいだったが……もしかしたらアレから合流出来た兵たちもいたのかもしれない。
「どうぞ。気を付けてくださいね」
彼女の引いた椅子に座ると、彼女もそのままボクの隣に座った。
ボクのサポートをするつもりなのか、この並びで話を始めるつもりらしい。
「…………」
始まらない。
「何か待ってるんですか?」
誰も一言も喋らないため、小声だったにもかかわらずボクのくぐもった声が室内にしっかりと響いてしまった。
気まずくなってしまいお嬢様の方に顔を向けると、彼女が困ったような声で「……そうですね」と呟いた。
そして沈黙が数秒ほど続いたかと思うと、再び彼女が口を開いた。
「まずは私から始めさせてもらいましょう。今更ではありますが、私はエリーゼと申します。このポロネス伯爵領の領主の三女です」
「……はい」
彼女の素性を聞いて、ボクは重々しく呟いた。
「私のことはご存じでしたか?」
「……いいえ。でも、あのナイフの柄に家紋が刻まれていたので、まぁ……相応の身分の方なんだろうとは。そういえばあのナイフはどうしたっけ……」
伯爵家の家紋入りだ。
気を失っていたとはいえ無くしてしまったら問題になりかねないが……と急に不安になったが、すぐに彼女が笑って答えた。
「アレは傷の手当てをする際に勝手ですが返してもらいました。紛失していないので安心してくださいね」
「あぁ……それは良かったです……」
そう安堵の息を吐いたが……何も良いことはない。
ボクが生まれた場所がポロネス領で、群狼戦士団の主な活動場所がポロネス領の領境で、領主はそのままポロネス家だってことは知っているが、家族構成等は全く知らない。
ただ、正規兵を引き連れて村長宅の賓客用の部屋を自由に使えるような人間なのは間違いないし……部屋の誰も異議を唱えていない。
そもそも領主の三女だなんて微妙な人物を騙る意味もないし、彼女が言っていることは事実なんだろう。
そして、それはつまりボクや群狼戦士団はそんな人物が襲撃されるような事態に巻き込まれたってわけだ。




