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これからのことについて色々考えを巡らせていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。
「……さて」
返事をしようかどうしようか……迷っていたが、決めるよりも先にドアが開けられた。
室内は木戸が下りていて真っ暗だったため時間がわからなかったが、廊下には光が差しているしまだ昼かその辺りなんだろう。
「あら? 気が付いたのですね。具合はどうですか?」
そして、籠を持った見覚えのない女性が、部屋には入って来ずに廊下から声をかけて来た。
ノックの返事を待たずにドアを開けた割には部屋には入ってこないし……変な人だ。
年のころは十六歳か十七歳か……ボクより少し上くらいかな?
そして、軽くウェーブがかかった金髪を後ろで結んでいて瞳の色は緑色。
どこか品のある姿勢と顔立ち……その特徴から恐らく貴族だろうと見当を付けた。
それに、顔こそ初めて見るがその声には聞き覚えがある。
フルフェイスの兜越しだったため声は多少くぐもっていたが、それでも聞いたばかりの声だし間違えようがないな。
「お嬢様ですか?」
「部下でも家人でもない方からそう呼ばれるのは少々面映ゆいですね……」
彼女の質問に答えずに代わりにそう訊ねると、恥ずかしそうに頷きながら「入りますよ」と部屋に入って来た。
ドアが閉まると再び室内は真っ暗になるが、彼女の手のひらに小さい明りが生まれて室内が照らされる。
魔法の明かりだ。
「ああ……そのままで構いません」
彼女は起き上がろうとしたボクを制すると、改めて具合はどうかを訊ねてきた。
「体に怠さは残ってますし、あちこち痛いけれど……それよりも服と袋は?」
目を覚ました時から気付いていたが、今ボクは服も麻袋も取られて下着姿だ。
戦闘で大分汚れたり破けたりもしていたから脱がせたのは理解しているが……十年以上実質引き籠りに近い生活をしていただけに、女性の前とはいえこの恰好でいることは落ち着かない。
布団の中に顔を潜らせていると、彼女は持っていた籠をベッドの上に置いたのがわかった。
「服は大分ボロボロになっていましたからね。こちらが着替えです。村の商店から調達した物で新品ですよ。一人で着られますか?」
「大丈夫だから、部屋から出てください」
色々気を使ってくれたのはわかるが、とりあえず一人で着替えたい。
ボクのその少々失礼な要望に、彼女は気を悪くした様子も見せずに「わかりました」と答えた。
「ドアの前にいますから、助けが必要になったら声をかけてくださいね?」
そして、彼女は明かりを天井に残すと部屋を出て行った。
◇
着替えを終えると、ボクはドアの向こうで待っているお嬢様に改めて声をかけた。
彼女は部屋に入って来ると、ベッド脇に立っているボクを見て満足そうに頷いている。
「どうぞ座ってください。木戸を開けても構いませんか?」
「ええ。……アレからどうなったんですか? ボクには連れがいたんですけど……」
キツネ目の仕掛けを防いだことまでは覚えているが……そこから先の記憶がない。
確かまだ賊との戦闘は続いていたはずなのに、今はこんな場所にいる。
暗くてはっきりとは確認出来ていないが、ベッドに汚れや虫や変な臭いはしないからそれなりにしっかりした場所のはずだ。
……あの村なのかな?
「その説明もします。私たちが向かっていた村はわかりますね? ここはその村の村長の屋敷です。貴女がこの村に避難させた子供たちは無事ですよ。今は村のご婦人方が面倒を見ています。……固いですね」
彼女は木戸の開け方に苦戦しながらも、一番知りたかった情報を教えてくれた。
「そう……良かった……」
子供たちが無事なことがわかり安堵する。
未だに状況は何もわからないままだが、一先ず子供たちを安全な環境に連れて来れたみたいだ。
野営地から連れ出してきたが……引率役としての役割は果たせたかな。




