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襲撃者が放った炎の魔道具を使った攻撃を、覆面の少女が魔力を直接放出するというあまりにも乱暴な力技で防ぎ切った。
既に一度その方法で同じ攻撃を防いで大分消耗している状態で、また同じ方法を採ったため限界に達してしまったのだろう。
火球と炎をかき消したのを見届けて、後ろに向かって倒れて来た。
「だっ……大丈夫ですか!?」
お嬢様と呼ばれていた娘が倒れる前に慌てて抱き留めると、そのまま地面に横たわらせた。
一度先程まで戦っていた賊に視線を向けるが、自身の命を落としかねないような攻撃に巻き込まれたことでショックを受けたのか、力なく地面に座り込んでいる。
完全に戦意を失っているし警戒する必要はないと判断したようで、お嬢様は少女の傍らにしゃがみ込むと、怪我の様子を確かめていく。
「傷は……悪化はしていないようですね」
少女が意識を失って倒れこんだことから、草原での合流前に負った傷が二度の魔力の大量放出と、ここまで走ったことで悪化していないかを心配していたが、一通り負傷箇所を見て悪化していないことに安堵した。
そして、念のため呼吸を確認しようと口元に顔を近づけるが。
「……あら? 顔からも?」
少女が被っている麻袋の覆面に血が滲んでいることが分かった。
合流以降は直接戦闘を行ったりはしていないはずだが、魔法や魔道具の余波で傷を負った可能性も否めない。
傷の有無を確かめようと麻袋に手を伸ばしたが「おい! ちょっと待てよ!」と、男から制止する声がかかった。
先程まで放心したように地面に座り込んでいたが、いつの間にか立ち上がったすぐ側まで来ていた。
「何故ですか?」
お嬢様は男を睨みつけながら腰の剣に手を伸ばすが、それを見た男が慌てて言葉を続ける。
「ソイツ……群狼の団長の娘だろう? ガキの頃に顔に大怪我をしてそれ以来袋を被ってるって聞いたぜ?」
「……顔に?」
「ああ。他所の連中は豆殻とか呼んでいるな。団に出入りしている商人たちも素顔を見たことないって噂だ」
「傷跡が残っているわけですね……ですが、アレだけの魔力を放出したのです。何か異常が起きているかもしれませんし……無視は出来ませんね。貴方は下がりなさい」
お嬢様の言葉に、男は肩を竦めながら後ずさっていく。
「向こうを向くのです!」
「へいへい……わーってるよ……」
男が離れて向こうを向いてこちらを完全に見えない状態になったのを待って、お嬢様は少女に「ごめんなさい」と一言謝ってから麻袋を脱がせるが、露になった顔を見て驚いたように小声で「……あら?」と一言だけ漏らした。
◇
お嬢様は少女の麻袋の下の様子を確認すると、再び被せて他の傷の介抱を行っていた。
村までそう離れていないし、少女を抱きかかえて移動するのも不可能ではないが、敢えてこの場に止まっていた。
「おい? 向こうも片付いたみたいだぜ? アンタんとこの兵が向かって来ている」
律儀にこちらに背中を向けて大人しくしていた男が、兵たちの戦闘が終わったことを伝えてきた。
顔をそちらに向けると、六人の兵がこちらに向かって駆けよって来ている。
どうやら奇襲を受けた兵たちの中にも無事だった者がいたようで、お嬢様はホッとしたように表情を緩めた。
「……俺はどうしたらいい?」
「今さらです……命を奪おうとは思いませんよ。無駄な抵抗はせずに大人しくしておくのですよ」
お嬢様の言葉に男は深く溜め息を吐くと「わかったよ……」と呟いた。
「貴方は何故こんな襲撃に加担したのですか?」
仲間の攻撃に巻き込まれかけたとはいえ、それ以降大人しく指示に従っている男の様子が気になったのか、男の丸まった背中に声をかけた。
「あぁ? 依頼を受けただけだよ。よくあるだろう?」
「傭兵ですか……。捕縛は免れないでしょうが、知っていることを隠さず全て吐き出すのなら捕虜として扱うように伝えますよ」
「ありがてぇ」
背中越しに頭を下げる男を見て、お嬢様は小さく溜め息を吐いた。




