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ボクの指示の伝え方が上手くいかず、お嬢様を振り返らせてしまった。
慌てて「違うっ! 向こう!!」と手で示すが……その僅かな間でもう一人の賊が仕掛ける時間は十分だったようで、懐に手を突っ込んで何かを取り出したかと思うと、こちらに向かって投げつけて来た。
……小さな瓶と球体……どちらも一つずつだがさっきの炎の仕掛けだ。
「……っ!? さっきの! それに……アイツは!!」
仕掛けが発動して巻き込まれるのを警戒してなのか、あるいはまたボクに阻止されることを警戒してなのか、投げるなり馬首を返して走り去っていく。
だが、先程に比べると距離が近づいている分その賊の顔を見ることが出来た。
「キツネ目っ!」
ボクは人前に出ることはほとんどなかったから直接面識はないが、戦士団の野営地で何度か見たことがあった男だ。
戦士団の皆からはキツネ目とか呼ばれていたが、コイツが野営地を襲わせたのか!?
思わず追いかけようと前に踏み出したが、その前に仕掛けが発動して炎と火球が飛んで来た。
瓶と球体の数が少ないからか、規模は先程と比べると小規模だがそれでも威力そのものは変わらないようで、早々に熱がこちらまでやって来る。
その熱に「うわっ!?」っと悲鳴と共に足を止めてしまった。
「アイツ……俺ごと!?」
「くっ……どうしたら……」
賊は自分も巻き込まれるとは思っておらず、お嬢様はそもそも反応が遅れていたしで、どちらも迫る炎に対応出来ないでいた。
そして、二人だけじゃなくてボクもだ。
アレを投げつけられた時点で、お嬢様たちに声をかけてさっさと逃げればよかったのに、キツネ目の男が目に入ったことで思考が停止してしまった。
その硬直した三人の中で最初に動き出したのはお嬢様だ。
「私の後ろに! 貴方も死にたくなければ伏せていなさい!」
まずはボクの前に立って背中に隠れるように言うと、賊にも伏せるように指示を出した。
今の状況を理解出来ているようで、賊はつい今まで斬り合っていた相手の指示にも大人しく従っている。
「貴女も伏せて!」
草原の時の兵のように盾代わりになるつもりらしいが……。
「お嬢様じゃ無理でしょ……」
実はまだ顔すら知らない相手だが、それでもあの兵ほど体が大きいわけでもないし頑丈そうにも見えない。
加えて、何かあったら後々色々困りそうな相手でもある。
そんな人を盾にするくらいなら!
ボクはお嬢様の肩を掴むと、逆に後ろに押しのけた。
「……貴女、大丈夫なのですか?」
「どーでしょーね? 倒れたら後はお願いしますね」
そう言って、魔力を溜めることに集中する。
本来なら制御を気にして慎重になるところだが……生憎もうそこまで魔力は残っていないようで、唯々かき集めることだけに集中したらいいってのはむしろ楽なことなのかもしれない。
もっとも、魔力を集める代わりに体中の力が抜けていき足元がふらついてしまう。
「おい……お前大丈夫なのか?」
襲ってきた賊にすら心配されるほどだ。
「うるさい! 焼けたくなければ黙ってろ!」
賊に怒鳴り返したが、そのお陰で頭がスッキリした。
「ふんっ……」
気合いを入れ直して目の前の火球と炎に集中する。
先程のように、ただぶっ放すだけでどうにか出来るほどの魔力が残っていないのはわかっている。
より集中して……火球一点目がけて……!
目や鼻の奥から鋭い痛みが響いてくるが、今はそんなものは無視だ!
「………………はあぁっ!!」
大きく吸った息を一気に吐き出すと同時に、集めた魔力も火球目がけて撃ちだした。
ボクが放った魔力は、狙いが違わず火球に直撃して空中で破裂させた。
同時に起こっていた炎諸共散り散りになって消えていく。
どうやら一先ずアイツの目的は潰すことが出来たようだが……今度こそもう駄目だ。
「キツネ目め……っ!」とだけ呟いて、ボクは意識を失った。




