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お嬢様は抜け出して来た賊を迎え撃つと言ってその場で足を止めると、剣を抜いて構えをとった。
そして、勇ましく「貴女は村に向かって下さい!」と言い放つが……。
「……そうもいかないでしょう」
未だに彼女がどこのお嬢様なのかもわかっていないが、彼女を守っていた兵たちにも村の人間にも見られた状況で、一人置いて行くわけにはいかない。
せめてボクが全く無力な少女だったら別だろうが……しっかり戦えることを示してしまったからな。
「力はもう残ってないんだけどね……」
思わず漏れてしまったそのボヤキが聞こえたのか、彼女が「申し訳ありません……」と謝罪の言葉を口にした。
「構いませんよ。それで……どうしますか? ボクはこれでも全くの素人ですから、今は戦力として当てにしないで下さいね」
しかも利き腕を始め、あちらこちらに結構な傷を負っている。
出来ることといえば精々石でも投げるくらいだ。
どうしたものか……と指示を仰ぐと、ボクの不安を払拭するかのようにお嬢様が力強い口調で答えた。
「大丈夫です。私はこれでも学院で騎士団コースに所属していますから、馬上の敵相手の訓練も積んでいます。賊の一騎程度に遅れは取りません! 貴女は念のため周囲の警戒をお願いします」
学院とか騎士団コースとか今まで聞いたことのない単語が出て来たが……どうやらこのお嬢様は結構なエリートみたいだ。
「それと……これをどうぞ。大した物ではありませんが、左手でも扱えるでしょうし無いよりはマシなはずです。私が食い止めるつもりですが、万が一の際には使って下さい」
そう言ってナイフを後ろ手で渡してきた。
受け取ってナイフの柄を見たが……多分ボクの表情は凄い微妙な物になっていそうだ。
彼女は思った以上の大物で……ますます見捨てて逃げるわけにはいかない。
何とか「……ありがたく」と一言だけ返したが、大分溜め息交じりの返事になってしまった。
彼女が前を向いたままでこちらを見れていないことと、前に集中してボクの声色を気にする余裕がなかったのは幸運だったかもしれない。
「来ましたね……やられはしませんよっ!」
お嬢様は迫る賊に向かってそう言い放つと、草原で兵が賊に向けて放った一撃の時と同じく、剣を腰だめに構えて魔力を溜め始めた。
もっとも、彼女に集まる魔力はあの時の兵に比べたら格段に少ないし、この一撃で倒すことは出来ないだろう。
だが、お構いなしに彼女は「はああぁっ!!」と気合いの声と共に剣を振り抜いた。
「火っ!?」
彼女が放ったのは、ボクが放出した魔力でも先程の彼が放った見えない刃でもなく、一抱えほどありそうなサイズの火球で、賊の手前に着弾すると一気に破裂して周囲に熱をばら撒いた。
「熱っ!?」
十数メートル離れたボクですら肌を焼くような熱を感じて、思わず顔を背けた。
これは目の前で破裂された賊や馬は相当な熱さのはずだ。
「うおおおっ!?」
聞こえて来た叫び声に顔を前に向けると、馬が立ち上がったり後ろ足を跳ね上げたりとパニックになっている。
上に乗る賊が何とか御そうとしているが、それは叶わず振り落とされた。
「今です!」
剣を振り切った姿勢で硬直していたお嬢様が、そう叫ぶと落馬した賊に駆け出していった。
お嬢様と賊どちらの腕が上かはわからないが、賊は何とか立ち上がったばかりで体勢が悪すぎるし大丈夫だろう。
戦い始めた二人を他所に、念のため援護が出来るように石でも拾っておこうか……と考えたボクは、お嬢様と賊から視線を外して周囲に向けたが、そのお陰でさらに奥から一騎こちらに向かって来ていることに気付けた。
他の賊とは少し違う雰囲気の男。
先程の炎の仕掛けを投げてきた男だ。
賊が抜けてきたルートのさらに遠回りで接近してきているため、お嬢様はまだ気づいていない。
「お嬢様後ろ! 左側からもう一騎!!」
見たままを伝えたんだが、この指示がいけなかった。
お嬢様が「後ろ!?」とこちらを振り返ってしまった。




