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お嬢様と一緒に地面に伏せていた彼が、立ち上がってこちらに近づいて来たのがわかった。
「アレがさっきの仕掛けたやつみたいですよ」
何かを叫びながらこちらに向かって来る男から目を離さずにそう言うと、彼はそのままボクの前に出て来た。
そして、同じく男から目を離さずに口を開いた。
「一人……ではないな。後続を呼び寄せているか」
何か叫んでいるなとは思ったが……まだ仲間がいたのか。
まぁ……彼らを襲っていたのは全部で二十人そこらだったと思うが、仮にもそこそこの規模の傭兵団であるウチの野営地に襲撃をかけたりはしないだろう。
「部隊を分けてたんだ……」
「大技一発でやられることを警戒したのだろうな。戦い慣れている……」
彼はそう言うとこちらを振り向いた。
動作の鈍さや声の重さから、兜を被っていても疲弊しているのが伝わってくる。
「……君はまだ戦えるか?」
「流石にもう無理」
野営地の襲撃から逃げ出して丸一日起き続けていたが、当初はそれでもまだまだ体力には余裕が残っていた。
精々ここでの戦闘で負傷した個所が痛むくらいだ。
ただ……今の魔力の放出で体力も気力もゴッソリ抜けてしまった。
まだ少し歩くくらいなら可能だと思うが……もう一戦出来るかというと、もう無理だ。
「そうか……そうだな。あの一撃は見事だった。向こうも片付いたようだし後は私たちが引き受けよう」
彼が示した先を見ると、他の賊の相手をするために別れていた兵たちがこちらに向かって来ていた。
数は減っていないし離脱者はいないみたいだが……無傷とはいかなかったようだ。
これで何とかなるんだろうか?
「君はお嬢様と共に村に下がるんだ。お嬢様、申し訳ありませんが彼女を頼みます」
「……わかりました。村に被害が出ないようにするのですよ」
「はっ。お任せください」
お嬢様は彼の言葉に頷くと、「覆面の方、行きましょう」と言ってボクの手を掴んで村に向かって走り出した。
兵たちほど重装備ではないが、鎧を着こんでいるのに中々パワフルなお嬢様だ。
声色から大人しいお嬢さんを想像していたが、ちょっと違うのかもしれない。
「あっ……っとっと……。あの人たち大丈夫なんですか?」
手を引かれつつ兵たちの方を振り返ると、賊を迎え撃つために立ち塞がっているが……人数は少ないしボロボロだしで、正直あまり頼もしさは感じられなかった。
遠くから魔法の爆発音が聞こえているし、戦えてはいるんだろうが……大丈夫なんだろうか?
「わかりません。ですが、村の方たちにも指示を出す時間は必要です。……いざとなれば私も身を差し出しますが、狙いが定かではありませんから……」
思うことでもあるのか、ボクの手を掴む手に力が入っているが「急ぎましょう」と、足を速めた。
「……うん」
彼女の立場や覚悟は申し訳ないがボクには関係ないが、それでもあの村にはウチの子供たちを避難させてもらったし、無視することは出来ない。
「……あら?」
ボクの手を引きながら前を走るお嬢様が、ふと呟いて顔を上げた。
釣られてボクも顔を上げると、村の建物の屋根の上にいる男たちがこちらに向かって腕を大きく振っている。
さらに、聞こえはしないが叫んでいるようにも見える。
「何かを伝えようとしているのかしら……後ろ?」
お嬢様の言葉に背後を振り返ると、兵たちが賊と戦闘を始めている光景が目に入った。
先程の魔法で賊たちを馬から落とすことに成功したようで、互いに地上で戦っている。
だが。
「……っ!? 一騎抜けて来てる!」
馬術が巧みなのかあるいは単に運が良かっただけなのかはわからないが、落馬を逃れた賊が兵たちを大きく迂回してこちらに向かって来ていた。
回り込んでいる分距離はあるが、それでもボクたちが村に辿り着くより追いつかれる方が速そうだ。
「追いつかれそう!」
「仕方ありません。迎え撃ちます」




