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地面に放り投げられてお嬢様共々「伏せろ!」と指示を出された上に、当の本人はボクたちを守るように立ち塞がっている。
何か危険が迫っているのは確かだが、初対面な上に碌に挨拶すら躱していない相手の言葉を何でもかんでも聞けるほどお人好しではない。
ボクと違って頭を抱えて地面に伏せているお嬢様は放っておいて、体を起こして彼の方を見た。
先程見た時と同じく仁王立ちになってボクたちを守ろうとしている。
でも……何から?
ジッとそちらを凝視していると、何か小さな……フラスコのようなガラス瓶とピンポン玉くらいのサイズの球体がいくつか飛んできているのが見えた。
「……アレなの?」
その呟きが聞こえたようで、兵は慌ててこちらを振り向くと「馬鹿野郎っ! 伏せろと言ったろ!!」とさらに強い口調で言ってきた。
そのあまりの剣幕に大人しく伏せようとしたそのタイミングで、前方から強烈な光が放たれたと同時に瓶と球体が爆発した。
さらに。
「コレかっ!?」
爆発して辺りに炎が生まれたかと思うと、あっという間に草原に燃え広がった。
さらに、その炎がいくつもの火球になってこちらに向かって飛んでくる。
どんな仕組みなのかはわからないが、瓶の中身が燃料みたいな物で、球体に纏わりついて飛んでくる……そんな感じだろうか?
辺りが草で生い茂ったこの草原で炎に巻かれるのは確かに危険極まりないし、お嬢様についていた兵がアレだけ必死になる理由もわかる。
だが……ボクにとっては矢とかナイフとか……もっと物理的な物の方が怖い。
コレなら対処出来る!
「おいっ! 私の後ろに下がれ!」
制止する声と引き戻そうと肩を掴む手を無視して前に出ると、迫りくる火球を睨みつけながら額の奥に意識を集中させる。
「おいっ! 急げ……?」
目の裏側で小さな光が生まれて、チカチカと火花を散らせているが徐々にそれが大きくなっていくのがわかる。
そのボクの様子に気付いたのか、自分の背後に下がらせようとしていた彼は、大人しくお嬢様が自身の陰に入る位置に移動した。
「来るぞ!」
火球がもう目の前に迫っているが、それを無視してさらに意識を集中させていく。
目の裏側の光はどんどん大きくなっていき、火花ももはや爆発のようになっている。
今にも顔から溢れてしまいそうだ。
でも大丈夫。
幼い頃はその光が何かわからずに好奇心の赴くままに巨大化させてしまった。
その結果失敗して顔を内側から吹き飛ばしてしまったが、それから十年近く毎日地道に訓練を続けた結果、その光が魔力であることがわかり、そして……制御の方法も自分の限界点も把握した。
「…………今だっ!!」
ボクが制御出来る限界の一歩手前。
そのタイミングで叫び声と共に魔力を前に向けて解き放った。
袋越しでも耳が痛くなるくらいの大音量が草原に轟く。
「……くぅっ」
体中から一気に力が抜けて行きふらつきそうになるが、必死に堪えて意識を前方に集中し続ける。
前方に解き放った魔力が、目前に迫っていた火球も草原に燃え広がった炎も纏めて吹き飛ばした。
「きゃあぁぁっ!?」
「くっ!? お嬢様、失礼します!」
ついでに、余波で背後が大変なことになっているようだが、そんなことよりも草原の様子を探ることにした。
一先ずの危機はどうにか脱したが、アレが自然に発生するわけがない。
誰かが仕掛けて来たに決まっている。
まだそこまで離れていないはずだし……ソイツをどうにかしなければと周囲に視線を巡らせていると、ボクが初め賊を襲いだした場所よりさらに離れた場所に、馬に乗った男が一人いた。
遠目からでも賊にしてはどこかこざっぱりしたような雰囲気だが、ボクたちを見ると慌てた様子でこちらに向かって駆けだしてきた。
剣を抜いているし……襲ってくるつもりか。
仕掛けたのはコイツだな?




