01
実はタイトルは果たしてこれでいいのかとまだ悩んでいたりします……
「早く逃げないとっ!」
「逃げるってどこにっ!! 男たちはみんなやられたのよ!」
あちらこちらで女子供が泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
戦場から離れたこの野営地がここまで混乱するだなんて、ボクにとっても初めてのことだ。
側の川に子供たちを連れて洗濯に行っていたが、騒ぎを聞きつけて急いで戻ってきたらこの有様だ。
いっそこの周りの混乱に合わせてボクも泣き叫ぶことが出来たら楽なのかもしれないが……如何せん頭も意識もハッキリしているだけに、そんな振る舞いは出来ない。
出来ることといえば、一緒に洗濯に行った子供たちを何とか宥めるくらいだ。
「アリス姉ちゃん……どうしたらいいの?」
「オレたちも親父たちみたいに殺されるのかな?」
涙ぐみながら縋りついてくる子供たちに「静かに」と強い口調で言い聞かせると、子供たちの手を引きながらテントの陰に隠れるようにコソコソと移動をする。
野営地を襲ってきた連中は馬に乗っているから、足の速さじゃ敵わない。
だが……自分たちのような襲っても大して旨みの無い子供よりも、大人の女たちや同行している商人や娼婦たちを狙うはずだ。
一緒に暮らしている者たちを見捨てるような判断をする自分を、我ながら非情だなと思うが……それを反省する余裕は今は無い。
テントの陰から襲撃者たちの様子を窺っていたが、こちらには目を向けていないことがわかると頭を引っ込めて子供たちと向き合った。
「よく聞きなさい。あの連中はきっと向こうを先に襲うはずだから、合図をしたら声を出さずに一気に向こうの森に逃げるの。いい? 声を出しては駄目だよ!」
声を出すなよと強調すると、子供たちは涙をこらえて大人しく口を手で押さえている。
それを見て小さく頷くと、再びテントの陰から頭を覗かせる。
襲撃者たちはしばらく周囲を見回していたが、どうやら隠れているボクたちには気付かなかったらしい。
逃げる女たちを追って離れていった。
「ちょっと待ってなさい」
可能ならばそこらのテントを漁って使えそうな物を確保したいんだが……今はそれどころじゃない。
せめてこのテントだけでも……と、裏側から頭を突っ込んで中を覗き込んだ。
大量に積み重ねられた木箱に……。
「やった! 食料がある」
食料は大事だから安全な野営地の中心に近い所に運ばれるが、大勢の食事を用意するには水辺に近い方がいい。
そのため、毎朝その日の分の食料を移動させているんだが……どうやらこのテントがそれだったらしい。
「皆、籠をこっちに!」
ボクの指示に従って子供たちがテントの下から洗濯物が詰め込まれた籠を次々渡してきた。
全部の洗濯物をその場にドサッと捨てると、代わりに鍋や食料品を詰め込んでいく。
干し肉や根菜やドライフルーツ……一先ず日持ちしそうな物から順に、ついでに塩や砂糖などもだ。
ナイフも数本詰め込んで……火打石は……。
「お姉ちゃん、早く……」
「また戻ってくるかもしれないよ!」
「っ……わかった」
火はどうにでもなるし、そろそろ子どもたちも限界だ。
「皆、手分けしてこれを持って。いつもやってるから出来るよね?」
比較的軽い籠を子供たちに渡していく。
元々子供たちが持てるサイズの籠だ。
洗濯物に比べたら重たいかもしれないが、手分けして持てば何とかなるだろう。
調味料など重たい物はボクが持って……準備完了だ。
またテントの下を潜って外に出ると、子供たちの顔をしっかり見る。
声こそ上げていないが皆涙ぐんでいるし不安そうだが、慰めている時間は無い。
「先頭は男の子たちで、真ん中に女の子。最後尾はボクだ。外を歩く時のいつもの順番で行くよ。出来るね?」
皆揃って頷く。
子供たちに「いい子たちだ」と優しく囁くと、最後にもう一度背後の様子を見るために振り返った。
離れた場所に土煙が立っていて、悲鳴もそちらから聞こえてくる。
襲撃者たちはまだまだそっちに夢中なようだ。
襲われているのは子供の頃から見知った者たちばかりだが……傭兵団・群狼戦士団はこれでお終いだ。
「よし……行こう。走って!」
振り払うように子供たちに向けてそう言うと、ボクも一緒に走り出した。




