ヤバい奴らと一緒だったんですけどっ!
いや何してんだよ。マジで何してんだよ。俺と出会った時も襲われてたよな? というか魔物なんてめったに出ないっていってたが嘘だったのか? いや、こいつがそんなことできると思えないわ馬鹿だし。
「リシ………ア」
俺が内心ため息をついていると、身体の至る所から血を流しているアリシアが弱々しく俺の名を呼んでくる。
いつものバカみたいな元気は何処へ行ったのか俺の服をぎゅっと握る手は服越しでもわかるほどにぶるぶると震えていた。
………たっくこのバカは。
「安心しろ。あいつはぶっ飛ばした。取り合えず村に戻って手当てしてもらうぞ。後、この事を伝えなきゃなんねぇ」
「ちが………まだ」
「………?」
俺の腕をつかみながら震えた声でそう言うアリシアに俺は首をかしげる。気配もあのオーガぐらいしかいなかったはずだ。
まだ他に居るなんて………。
俺がそう思った瞬間、背後の茂みがわしゃわしゃとざわめくと共に緑色の肌を持った醜悪な面貌の小人がぞろぞろと出てくる。
「ああ、そう言えば地味に居たな。気配を消すのだけは地味に上手い上に群れで動くような奴らが。木っ端過ぎて忘れてたわ」
俺はその気色悪い姿にドラゴンの時の記憶がふっと浮かび上がってくる。何度潰しても何度潰してもどこからともなく湧いて出てくる盗人。
ゴブリン。
獲物を盗み取ることしか能のない奴らであり、それ故にあらゆる魔物から殺意を向けられている汚物。遭遇イコール即抹殺されている場面を何度見たかもわからないし、俺も何度やったかも忘れたぐらいにはイカレタ連中と同じくらいにわらわらとどこからともなくやってくる。
「大方あのオーガが倒した獲物でも盗もうとしてたんだろう? 残念だったなお前らがカモにしようとしてた奴は俺が森の遥か先にぶっ飛ばした。そして更に残念だったなお前ら? 俺が此処に来た時点でお前らは一匹残らずミンチになる。強者の匂いもかぎ分けられないような弱肉食らいのクソ野郎にはお似合いの末路だろ?」
俺がそう言って足を踏みしめてこぶしを突き出そうとした時だった。上空から途轍もない勢いで降りてくる何かの気配が、俺がゴブリンどもを一匹残らず逃がすまいと網のように張っていた探知網に飛び込んできた。
「おいおいマジかよ」
衝撃を撒き散らしながらそれは降りてくるそれは、黒く染まった翼を持つ巨大な鳥の魔物。シュバルツ・クロウ。
俺の中では昼飯のチキン程度の存在でしかないが、俺が気になっていたのは何故そんな奴がこんな場所に現れたかである。
シュバルツ・クロウはその図体のデカさだけあり結構な大食いだ。俺とも何度獲物の取り合いで殺し合ったかわからない。
「少なくともこんな何もない所に来るような魔物じゃねぇだろお前。ぶっ飛ばしたオーガやわらわらと出てきたゴブリンと言い………お前ら本当に何しに来たんだ?」
偶然で片づけるにしたって余りにも不自然すぎる。オーガやゴブリンだけならまだ納得できたがシュバルツ・クロウが出てきた時点でこいつらは何かしらの目的があるはずだ。
俺はふと後ろに振り返り今だ震えるアリシアを見る。
一瞬そんな馬鹿なとよぎった思考を振り払うと、俺は目の前で余裕綽々とばかりに佇むシュバルツ・クロウへと挑発的な笑みを浮かべる。
「カアアアアアアアアアアっ!!」
俺の笑みに気分を害したのかシュバルツ・クロウは高らかに咆哮を上げる。
「いっちょ前に強者気取りかこのチキン野郎。獲物は俺じゃなくお前だよ。ゴブリンはミンチだが、お前は今日の夜飯にしてやるっ!」
俺はそう言うと足を踏みしめて飛び上がり拳をシュバルツ・クロウへと振りかざそうとした時だった。
「………はっ?」
目が眩みそうになるような光が俺の視界もろともに全てを飲み込んでいく。幸いなことに俺へのダメージは一切無いが、しかしそんなことよりも俺はその光に目を見開くと共に過去の忌々しい記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
俺はこの光を幾度も見たことがあった。何度も何度も襲撃されその度に逃げることを余儀なくされたイカレ野郎どもが共通して使っていた能力。今それがアリシアの身体から溢れんばかりに放出されていたのである。
「お前もかよおおおおおっ!!」
もう二度と見たくもないと思った光の中で俺は思いっきりそう叫んだのである。
ある辺境の村にアリシアと呼ばれる少女がいた。
アリシアには父はいなかったが、優しい母と一人アリシアを育てる母を支えようとしてする村人たちから溢れんばかりに愛情を受け取りすくすくとやんちゃに成長していった。
同年代やちょっと上の子供と比べても身体能力の高かったアリシアは毎日のように子供たちと遊び、時には探検と称して森に行くことも多かった。
そして今日も森の茂みなんてなんのそのとかき分けて奥へと進んでいた時だった。いつの間にかアリシアは狼の魔物に取り囲まれていたのである。
「ひっ!」
アリシアはその時初めて恐怖というものを知ると共に、自身に逃れようもない死が迫っていることに思わず目をつぶった瞬間だった。
「きゃっ………!」
突風が吹いたかのような衝撃が突如として襲ってくると共に、アリシアを襲わんとしていた魔物たちを一瞬で蹴散らしたそれが目の前に悠然と佇んでいた。
山ほどもある雄大な巨躯を持ち、その巨躯を彩る赤い鱗は陽の光に照らされて輝いている。同じく輝きを放つ透き通るような赤い瞳は静かにアリシアを見据えていた。
アリシアは不思議と恐怖を感じなかった。目の前の存在は明らかにアリシアを襲わんとしていた魔物以上だというのに、アリシアはちょっと前に母が読み聞かせてくれた物語を思い出していた。
それは勇者の物語。
魔王に襲われようとしていた一人の姫を勇者が颯爽と現れて助けたという。アリシアにとって目の前の存在は他ならない勇者そのものだった。
アリシアはそれから毎日のように足を運んでいた。どうやら果物が好きなようなので喜ぶ顔見たさに何でもいいからとかき集めて上げていた時だった。
突如としてそれは光り輝くと共にそこには一人の少女がいた。
赤く輝く瞳と天を衝くように捻じれた角を持つ可愛らしい少女に、アリシアはすぐさま村へと連れて帰ろうとした。
アリシアの脳裏ではもはや連れ帰ろうとしている少女は自身を救ってくれた勇者ではなく、自身の妹という認識しかなかったのである。
アリシアはずっと妹という存在に憧れていた。その思いが爆発し暴走しているとも言えるだろう。とにもかくにもそんなアリシアの思いは結果的に叶ったのである。
しかし姉となったからにはそれ相応の苦労も降りかかってきた。
最初に苦戦したのは苦手な野菜を食べなければいけなくなったことだった。お姉ちゃんとして妹に良いところを見せるためにも涙を堪えながら食べたのは文字通り苦い思いでである。
それからも数々の苦い試練があったが、それでも乗り越えてきたのは偏にアリシアのお姉ちゃんとしての意地なのだろう。
だから今もどれだけ辛くても立ち上がるのである。
「負けられないもんっ! 私はリシアのお姉ちゃんだからっ!」
アリシアがそう叫ぶと身体の内から溢れんばかりの光が放たれ、妹へと襲い掛からんとしていた魔物を消し飛ばしたのである。




