TSしちゃったんですけどっ!
俺はドラゴンである。
生まれはどっかの山で、親は生まれたころからいない。
なんだったら兄弟すら生まれた頃からいない。
純然たる一人っ子である。
えっ一人っ子にも親はいる?
じゃあ俺一人っ子ですらないじゃん。
…………細かいことは気にしないでおこう。
ともかく俺は一人っ子として生まれ、そのまま一人でこれまで生きてきた。生まれが一人ならば生きていくのすら一人とか言う超ハードモードである。どっかに訴えたら余裕で勝てるだろう。
しかし幸いドラゴンというのは生態系の中でもよっぽど上位であるらしい。そこら辺にいる魔物程度であれば易々と噛み殺してさくっと飯に早変わりさせることができる。
仮に俺より強いやつが現れても俺にはビッグな翼があるので簡単に逃げられるだろう。プライドなんて持ってても死んだらそこでお終いなのだから。
まぁ、親がいればそんな苦労もしなくてよかったのかもしれないが、そんなタラればを言っていても腹は満たされないので、〇月〇日、今日も俺はさくっとそこら辺の魔物を飯にジョブチェンジさせた。
しかしそんな生活を続けること幾百年か幾千年か数えるのも億劫になる時間がたった時だった。俺の前に妙な集団が現れたのである。
「俺の名は勇者ブレイバーっ! 貴様を今日こそ撃たせてもらうっ!」
集団の先頭。
何か金色に眩しく輝く剣を持った、何か無駄に眩しい金髪の人間の男が、喧しく騒ぎ立てながら唐突に切りかかってきた。というか今日こそっていうけど俺とお前は初対面なんだが?
目の前の無駄に眩しい男の支離滅裂な発言に困惑していると、俺の日々欠かさず手入れしてきた自慢の鱗に無駄に輝く剣がぶつかりあっさりと弾かれた。
「はっ?」
一瞬前まで勝ち誇った顔をしていた男は、何とも言えないような間抜け面を晒している。ふぅ、俺の自慢の鱗に傷でも付けてたら生かしちゃ置かないところだったぜ。
うーん、それにしても見事な間抜け顔だ。俺が人間だったら絵に書き写して町中に配り歩いていただろう。
「しっかりしてっ! あなたは勇者なんだからっ!」
俺がそんなことを考えていると阿保面を晒す男を取り囲むように陣取る人間の一人が、その手に持つ杖から炎を放ってくる。
それからも一人二人三人と目の前の男を鼓舞するように声を張り上げる。というか全員女じゃねぇかっ! ハーレムかっ! ハーレムなのかっ! 羨ましいこと山の如しだよ畜生がっ! こちとら生まれた頃から親も兄弟もいないどころか何なら同族すら見たことなんだぞっ! 俺も番の一人ぐらい居ても良いだろうがクソがっ!
というか何かより無駄に輝いてね?
「みんなっ…………俺に力をっ!」
男がそう叫ぶと剣にどこからともなく光が集まってより輝いていく。というか眩しいっ! 眩しすぎるっ!
俺は目の前に太陽が出たのかと思うような光に飲まれようとし、その刹那に俺は遥か上空へと飛翔していた。
下ではさっきの集団が喚いているが知ったことじゃない。折角の慣れ親しんだ土地を手放すのは惜しいが、今後もあんな連中が来るんだったらとてもじゃないが此処に居られない。
俺は今だに下で喚いている集団に背を向けて空の彼方まで安住の地を目指して逃げる。しかしそうして逃げた地でも結局何かよく知らん連中に難癖をつけられて逃げるしかなかった。しかもそうした連中に限って神に選ばれただの言ってくるのである。なんなんだ神は俺に恨みでもあるのか?
内心ふつふつと苛立ちながらも今回も逃げ出さざる負えなかった俺が青空の下を飛んでいると、下の方に狼らしき魔物に襲われているちっこい人間の女を俺の優れた目が捉えた。
別段それに対して何か思ったわけじゃない。自然の世界では弱肉強食は当たり前だし、俺だってそうしてきたからスルーしようと思えばできたわけであるが、そもそもとして俺から見れば魔物もちっこい人間もどんぐり程度の差しか感じられない。つまるところそう言うことである。
どっちのどんぐりが大きいかなんて見分けがつくわけもなく、俺は一気に急降下するとちっこい人間を襲っていた魔物を踏み潰したのである。
ごっめーん。どっちもどっちだから手前にいた君たちを潰しちゃった。でも君たちも俺に見つかるような場所に居るのが悪いんだぞ☆。
俺はべっとりと付いた血を振るい捨てると、目の前でこちらを見つめるちっこい人間の女へちょっとばかり威圧感を込めて睨みつける。
さっきの俺が叩きつけた手の平からの風圧からどう耐えたのか、てっきり吹っ飛ばされたと思っていたちっこい人間の女は俺をじっと見つめている。
今のうちに殺しておいた方が良いだろう。どのみち見つかった以上、何処に居てもあのうざい連中が来るのである。それだったら少しでも長く休まる場所に居たい。
俺は徐に腕を持ち上げると魔物たちを潰した時と同じくちっこい人間の女へ叩きつけようとした。大丈夫痛くないから。ちょっとプチっとするだけだから。
俺の手の平がちっこい人間の女を文字通りプチっとしようとした時だった。俺の優れた耳がそいつが呟いた言葉を一字一句漏らさずに聞いたのである。
「すっごいかっこいいっ!」
…………。
ふーん、わかってんじゃん。
俺はそれから暫くの間この地に留まることにした。
幸いなことにあのイカレタ連中も此処には来ないようで、久々にストレスのない生活を過ごしている。それどころか何と俺は初めて召使を手に入れたのである。
チラっ
「よいしょっ! よいしょっ!」
俺は四つん這いで寝そべりながら視線をすっかり大きくなって尻尾の先が見れなくなった体に向けると、あの日助けたちっこい人間の女が額から汗を流しながら俺の鱗をきゅっきゅと拭いている。
ちっこい人間の女。
もとい名をアリシアというらしい。
アリシアはこの近くにある人間の集落で過ごしているらしい。人間の集落というと俺のことが知れたらイカレタ連中が来るだろう。
今のうちに潰しに行こうかな。
しかしそんなことをすればアリシアとも離れ離れになってしまうだろう。それどころか騒ぎを聞きつけたイカレタ連中が絶対来るだろう。
俺はどうにかアリシアがへまをしないことを祈りながら、この平和で穏やかなストレスフリー生活が続いてければ良いなと思った。
しかしそんなことを思ったのも束の間。現実は非情であると言わんばかりに俺の安全安心穏やかな生活は崩れ去ったのである。
ところでアリシアは俺の鱗を磨きに来るだけではなく、毎日のように森に実っている果物を持ってきてくれたりする。
「いっぱい食べて!」
今日もそう言って籠いっぱいに色とりどりの果物を入れて俺に渡してくる。宛ら餌付けされている鳥のような気分になるがきっと気のせいだろう。
色とりどりの果物は一見すると全部おいしそうに見えるが、何とも言えないような味の物や明らかに毒としか言いようがない物が混ざっていたりと中々に混沌を極めている。
まぁ、その中から如何に美味しいのを見つけられるかが楽しいんだがなへへへ。
俺はすっかり遊び半分でどれにしようかと籠の中にあった七色のギラギラとした輝きを放つ果物を一つ爪でつまむとホイっと口に入れた。
明らかにヤバいと一目でわかるものだったが毒なんて効きやしないと慢心していた。しかしその慢心が命取りだったんだろう。
「ウゴアアアアアアアアッ!?」
俺の体が眩しいくらいに輝くと小さくなっていき、ついにはアリシアと同じぐらいの大きさのちっさくぷにぷにな人間の女へと変わる。
ドラゴンの時の名残なのだろう赤い鱗に覆われた手と足。恐らく感覚からして角も生えているだろう。
しかし何よりも目を疑ったのが目下に広がっている二つの山としか言いようのないおっぱいの存在である。
「いやなんでだよっ!」
俺は雄なんですけどっ!?




