00 プロローグ
「う、うーん...」
目を開けるとそこは、辺り一帯が木に囲まれ木漏れ日の差す暖かく、のどかな森の中だった。
「どこだ?ここは」
何故俺がこんな森の中にいるのかと言うと――
月曜日、それは皆が口を揃えてこう言うだろう。
「憂鬱だ...」
つい昨日までは休日で天国のような生活だったのに、今日は学校だ...それは憂鬱でしか無い。そしてそれはきっと佐城陽斗だけではないだろう。ただ陽斗は、面倒くさいと言うだけでなく学校生活での居心地の悪さが理由でもあるのだろう。仲の良い友達どころか、碌に話せる人すらいないのだから。
陽斗はいつもチャイムギリギリで登校し、徹夜をしたためか隈ができていて目付きが悪い。教室の扉を開けた時、数人の男子生徒が陽斗の方にやってきた。
「よぉ、クソ陰キャ!また徹夜でゲームかよ?キモオタ〜?」
「うわっキモ〜、徹夜でゲームして遅刻寸前とか」
何がそんなに面白いのか笑い出す男子生徒たち。
しかし彼らの言うように陽斗はオタクだ。だがキモオタと称されるほど身なりが整っていないわけでもないし、言動がおかしなわけでもない。コミュ障とい訳では無いが積極性はない。ただゲームやアニメ、ラノベといった創作物が人一倍好きなだけだ。
きっと彼らが陽斗に敵意や侮蔑の視線を向けるのは、オタクなだけではなくこれが原因だろう。
「おはよう!佐城くん!今日も遅刻ギリギリだね?学校のある日くらいもっと早く寝たら?」
そう言ってニコニコと微笑みながら話しかけてきた彼女は、宮村瑠璃。学校の二大美姫などと呼ばれている者の一人だ。腰まである黒く長い美しいロングヘアー、柔らかな目元は優しそうな印象を与えている。美しいというよりも可愛らしいといった印象の強い整った顔立ち、そんな彼女は男女問わず絶大な人気を誇っている。そしてそんな彼女はよく陽斗に構う。だからだろう、陽斗が男子生徒によく思われていないのは。
そんな陽斗は瑠璃が彼に声をかけるたび、男子生徒からの殺気と怨念が籠もった鋭い眼光に晒される。
「お、おはよう、宮村さん」
そう挨拶に答えると彼女は嬉しそうにニッコリと笑う。それに伴い男子生徒からの突き刺さる視線が強くなる。もはや視線のみで射殺できるのではないかと言うほどに。
陽斗はその度に「何故そんな顔をするんだ!?」と思うが口には出来ない。
しかし、よもや自分に対し恋愛感情を抱いているのでは?なんて勘違いはしない。成績も顔も運動神経も特筆した能力は何もないからだ。だからこそ陽斗は彼女のその態度が不思議でしか無い。きっとただの世話焼きでお節介なのだろうと思う。
さて、どうしたものか。特に会話もしていないのにずっとニコニコと陽斗の前にいる瑠璃に頭を悩ましていると三人の生徒らがよってきた。
「おはよう、佐城君。毎朝大変ね」
「またそいつに構っているのか、瑠璃?」
「放っておけば良いものを...」
そういってよってきた生徒ら。最初に声をかけてきた女子生徒は前田朱莉。件の学校二大美姫のもう一人の生徒にして瑠璃の親友だ。女子にしては少し高めの身長、モデルのような凛とした佇まいに美しい黒髪をポニーテールにしている。切れ目で鋭い目は冷たいといった印象よりもカッコイイ印象を与える。
次に声をかけたのは天城洸太。とは言っても声をかけたのは陽斗ではなく瑠璃にだが。サラサラの茶髪で整った顔立ち、身長は180cm近くで細身の体、彼は成績優秀、スポーツ万能で学校でファンクラブのようなものが出来ているという噂が立つほどモテている。
最後に投げやりな声をかけたのは斉藤龍太。洸太の親友である。刈り上げた髪に鋭い目つき、いかにもな熱血タイプであり、身長も2m近くといった巨漢だ。そしてそんな熱血タイプの龍太にはやる気のない陽斗はあまりよく思われていないらしい。そしてこの4人は馴染らしい
「おはよう、まぁこれは自業自得としか言えないよ」
そう挨拶を返すと「なに前田さんに声かけんてんだ?」といった殺意の籠もった視線がまた降り注ぐ。朱莉も瑠璃に負けじと人気なのだ。
「いつまでも瑠璃に甘えているつもりか?分かっているなら直したらどうだ?」
陽斗は厳しい声色で洸太にそう注意を受ける。洸太の目にもまた陽斗は良く写っていないらしい。
「あはは、本当にその通りだね...」
陽斗はそう笑って誤魔化した。直そうと思ってそう簡単に直るものではない。
「何言ってるの?私は話したいから話しているだけだよ?」
「え...?そ、そうか。相変わらず優しいな瑠璃」
そう歯切れが悪そうに洸太が答えた。
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昼休みを知らせるチャイムが鳴り陽斗は目を覚ます。昼食を食べようとしたその時、瑠璃がこちらに向かってくるのが見えた。ここでまた話すと男子生徒の怨念の籠もった眼光に晒されることになる。陽斗は逃げるようにして教室を出た。そして昼食を食べ終わり教室に戻った時、突如教室の床になにか眩い光と共におかしな模様のようなものが浮き上がった。
そしてふと誰かが言った。
「魔法、陣?」
そう、教室の床には突如光る魔法陣が現れた。そのため教室の中は大騒ぎになった。「な、なんだよこれ!?」「なんで急に、魔法陣とか意味わかんねぇよ!」「ドッキリなの!?」「待て!扉があかないぞ!」といった風にてんやわんや。しかし、陽斗は少しばかりテンションががっていた。これは異世界召喚なのでは?と。
そして魔法陣の光がより一層強くなり目も開けられないほど輝き始め、クラスメートが皆いなくなっていた。
「あれ?」
何故か陽斗だけはまだ残っていたのだ。
「なんでだろう?」
きっと何か誤作動的なことがあったのだろう、そう思ったのもつかの間また魔法陣が強く光り始め目を閉じた。目を開けるとそこには――辺り一帯木に覆い尽くされ木漏れ日の差すのどかな森の無かだった。
「本当に異世界...なのか?」
誰に言うでもなく陽斗はそう呟いた。そして周りを確認したところ、周りに人影はなく自分一人しかいないことに気づいた。
「まさか...僕だけはぐれた?」




