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第八話孤児

数日、間が空いての投稿です。どうぞ~

ユウに案内された孤児院は、孤児院とは名ばかりの唯の大きな掘っ立て小屋だった。埃っぽい室内に入ると、ユウの顔を見た子供たちが寄ってくる。


「ユウ兄お帰り~!」

「ユウ兄この人は?」


む?ユウの時と同じで警戒されてるな。皆、ユウの陰に隠れて遠巻きにこちらを窺うばかりだ。


「俺はタケルだ。今日からお前たちに生きて行く方法を教えてやる!」


意味が飲み込めずポカンとしている。


「まずは格好からだな。」


ユウもそうだが全員酷く汚れている。臭いモキツイし、こう不衛生では病気さえ心配になってくる。


「ユウ!ここに風呂はないのか?」

「風呂ですか?ありません。体は川で洗ってますから。」

「仕方ないな。皆外に行くぞ!」


ゾロゾロと孤児たちを引き連れ外に出る。


俺は庭(といっても唯の敷地)にソレを創造する!


キイイイイイーーーン!


「うわーー!」

「すごーーい!」


できたのは露天風呂。


「タケルさ…師匠!これは!?」

「風呂。」

「いや、そうじゃなくて…」

「細かい疑問は却下だ。お前も結構臭うぞ。さっさと入れ。」


創造したシャンプーとタオルを渡すが、未だに唖然としている。


ポカッ!


軽く殴る。


「あいた!」

「夢じゃなかったろ?入れ。お前が手本を示さないと皆が動かない。」


ユウはハッとすると、弟達を風呂に誘導する。


その間に夕食を準備する。子供は全員痩せていて明らかに栄養不足だ。俺はバーベキューセットと肉、野菜を創造する。食材はこちらの世界の物を使いたかったが、今日はもう日が暮れている。店も開いてないだろうから、今回は非常事態ということで。


準備が整う頃には、全員が体を洗い終わっていた。元の汚れた服を着ようとしたので、全員分の服と靴を創造する。綿のズボンとシャツだ。こちらの下着は分からんから今度買いに行かせよう。


「全員、着替えたらこっちに来い。飯にするぞ~。」


皿を渡し、皆でバーベキューを囲む。


「おいしいー!」

「おにくだー!」


大喜びの子供たち。


「ちゃんと野菜も食えよ!」


何か親父な気分。まだ二十歳なのに…。

隣を見るとユウが俯いている。


「どうしたユウ?口に合わんかったか?」

「いえ、美味いです。そうじゃなくて…ちゃんとした飯が食えるなんて嬉しくて…。」


ぼろぼろと泣くユウ。俺はそれ以上何も言わずに、荒っぽくユウの頭を撫でた。


「大変だ~!ユウ兄!」


こちらに血相を変えてやってくる少年。この子もユウの弟だろうか。


「どうしたセント!?」


コッソリと涙を拭いたユウが少年に駆け寄る。


「セラ姉が!セラ姉が!」

「落ち着けセント。セラがどうした?」


ユウに宥められて落ち着いたセントという少年がやっと内容を口にしする。


「セラ姉が貴族に連れて行かれた!」

「なっ!?」

「ユウ、セラってのは?」

「うちで一番年上で、俺と同い年の女の子です!」


なるほど。十中八九、慰み物目的だな。孤児なら嬲り殺しても跡が付かない。なんとも素敵な趣味の貴族だな。


「クソ!」


立ち上がり、棒っきれを持つユウ。


「すいません師匠。こいつらの事を頼みます。」

「何処行くんだユウ?」

「なんとかセラだけでも助け出します。」

「死ぬぞ?」

「構いません。」

「そこまでして助けたいのか?」

「はい。」


ふむ。ユウの意思は固いようだ。


「…なぁ。セント、セラってのは可愛いのか?」

「は?あの、その…」

「何を言ってるんですか師匠!こんなときに!」


ユウが激昂する。こりゃ確定か。


「ユウ、惚れてるな?」

「な、なにを!?」


あ、こいつ目逸らした。顔も赤いし。


「仕様が無いな。ユウ、最初の授業だ。」

「授業?」

「良く覚えておけ。惚れた女を救うのに手段は選ぶな。あと、命は賭けても絶対死ぬな。玉砕覚悟の美談なんぞ犬にでも喰わせろ。具体案は道々教えてやる。」

「助けられるんですか!?」

「当然。だが授業は命がけだからな。覚悟しろよ?」

「はい!」








「師匠、本当に見えてないんですね。」

「しー!しゃべるな。声は聞こえるんだから。」


俺達は今、セラという少女を攫った貴族の屋敷に忍び込んでいた。計画はこうだ。

インビジブル(不可視魔法)で屋敷に潜入。セラを発見後、俺の魔法で屋敷内部の人間を眠らせて脱出。


「題して、『透明になってセラを見つけたよ。眠らせたら自由だヒャホー!大作戦』だ。」


「声に出てますよ師匠。あと、タイトルが長いです。」


ナイスツッコミだユウ君。いずれは芸人として俺と一世を風靡……「居ました!」


扉の隙間から部屋を覗くと、後ろ手に縛られた少女がベッドに転がされていた。その向かいに、服を脱いだ全裸のデブいおっさん。表現するなら切る前のチャーシュー?見事な三段腹が揺れている。


「お願いです!や、やめて下さい!」

「フフフ、観念するのだな。」


恐れ慄く少女と、豚貴族。


「っ!」


逸るユウを宥めつつ、そっと部屋に忍び込む。部屋の扉を閉め、


「……」


ゼスチャーで豚の後頭部を殴るよう指示を出す。ユウが頷き、振りかぶる!


バキッ!


「グベェ!」


気絶する豚。死んでないよな?ユウ、手加減無しか。これも愛の成せる技なのね。


「な!なに!?」


突然貴族が倒れ、魔法を解除して現れた俺達にセラらしき少女が驚く。


「セラ!大丈夫か!?」

「ユウ!どういうこと!?」

「事情は後だ。」


俺は魔法を創造する。イメージは、この部屋を除く屋敷全体に満ちる催眠ガス!


キイイイーーーーン!


「良し!これでこの屋敷で起きているのは俺達だけだ。」

「帰ろうセラ。」

「私、行けない。」

「何で!?」

「私が逃げたら貴族が仕返しに来るもの!皆が危ないわ。」


確かにその可能性はある。立場にものいわせて暴虐を振るう輩は多い。床で転がってるこの豚もその類だろう。

と、俺達(主にセラとユウ)が揉めていると、屋敷内に多数の物音。おかしい全部眠らせたはず。それとも屋敷の異変に気付いた外部の人間か?それにしては速すぎるが…。


「ジーグ=ラモンド!デイモートとの内通容疑で貴公には捕縛命令が下った!大人しく縛に付け!」


玄関から響く聞き覚えのある声。あっれ?この声は…


「セラ。その心配はいらないようだぞ。」

「え?」

「ユウ、しっかりセラを守れよ。」

「は、はい!」


俺は二人に不可視の魔法を掛け、裏口から逃がすとその相手を待った。


ガチャ…


「…タケル!?」

「ようレイア。」










―――レイア視点―――


街の入り口でタケルと別れた後、私は城に戻った。直ぐに騎士団をヴィアズの森に向かわせ、暗殺者の捕縛を命じる。王である父上に報告をすると驚かれ、母上にも心配された。


「これからはもっと注意するべきだな。レイア、ギルドへ行くのは控えてはどうだ?」

「お言葉ですが、この通り私は怪我一つありません。心配は無用です。」


堅苦しい城に押し込められてばかりでは、息が詰まる。


「レイアちゃんは頑固ですからね。言っても無駄ですよアナタ。」

「まったく。カイゼルに指導を任せたのは失敗だったか?変なところばかり似てしまった。」

「師匠は私が知る中でもっとも尊敬できる方でした。」


英雄カイゼル。


いくつもの戦いで名を馳せた騎士で、老後は教育係として私に剣や知識、そして処世術までも教えてくれた。私にギルドの登録を勧めたのもあの方だ。彼が居なければ私は今ほど見聞を広めることはできなっかっただろう。残念ながら三年前に病で亡くなられた。


「あら、レイアちゃん。結局その指輪、自分でしてるのね。」


母上が目聡く私の指に気付いた。そういえば、この指輪を欲しがっていたな。


「中々便利な物でしたので、身に着ける事にしました。」

「便利?」

「はい。今日、指輪をくれた者に話を聞く機会に恵まれました。魔法具の一種だそうです。」

「へぇ~。どんな効果があるの?」

「攻撃魔法の軽減です。」


本当は軽減どころでは無いのだが。


「詰らないわねぇ。折角、レイアちゃんにも指輪を貰うような男性が出来たと思ったのに。」

「はっはっは。レイアが男を見る目もカイゼルが基準だからな。あれほどの者は、そうは居らん。」


父上の言うことはもっともだがこれだけは譲れない。男性として師匠以下の者など、私には木石にしか見えないのだ。


「では、私は仕事に戻りますので、失礼します。」


座を辞し、後の処理を行うため部屋を出る。


「我が娘は無骨者に育ってしまったな。」

「そうでもないわよアナタ。レイアちゃんの指輪を見る目。十分女の子でしたよ?」


「む…そうか?俺には分からんが。」


「ええ。それが指輪の送り主なのかは分からないけれど、私の勘はそう言ってますわ。」







まだ部屋では二人が話しているようだが、私には関係ないだろう。私は騎士団の駐舎へ向かう。

途中、中庭で妹のエリスに捕まった。


「姉上!また暗殺者が出たと聞きましたぞ!ご無事ですか!?」


長い綺麗な金髪を靡かせ、駆け寄るエリス。年の頃は十三。私とは異母姉妹で、彼女の母上は既に亡くなっている。


「エリス。私はこの通り元気だ。心配ない。」

「そうですか。ですが姉上は無茶が過ぎます。もう少し国の中枢を担う者として自覚してください。姉上が居らねばこの国も立ち往かなくなりますぞ。」

「分かっているさ。エリス。」


最近、乳母のバナと説教好きなところが似て来た。


「私はこれから首謀者を捕らえるため仕事に向かうのでな。話はまた後だ。」


諭すように頭を撫でる。


「分かりました。ですがお気を付けて。」

「うむ。行ってくる。」


エリスの説教から逃れ、しばし駐舎で待つと刺客を捕らえた部下が帰ってきた。刺客の三人は、まだ意識が戻っていなかった。


「誰か気付け薬を持って来い。」


その後の尋問で判明した事実は二つ。一つが首謀者の名。ジーグ=ラモンド。私が提案した領土検地や徴収税の見直しに反対していた派閥の貴族だ。

もう一つがデイモートとの内通。刺客を返り討ちにされ、焦るジーグにデイモートの人間が接触。デイモートから刺客を借りて、私の暗殺を指示したという。しかも私の動向も監視し、デイモートに報告していたそうだ。


情けないことだ。野心に付け込まれて国を裏切るだけで無く、内情を晒すとは。ともあれ、国外逃亡の危険もある。早々にジーグの身元を拘束しなければならない。


だが、ジーグ逮捕に至ったのは夜になってからだった。理由は、捕縛命令が下るまで時間が掛かったせいだ。ジーグが議会の幾人かを取り込んでおり、その者達が彼の捕縛を渋った。


最後には証拠の明白さに、『これ以上ごねれば自分の身が危険』と感じて反対を取り下げたが。

うんざりする会議を終えると、私は部下を連れ、ジーグの屋敷へとやって来た。


抵抗次第では戦闘も有り得ると思ったが、その逮捕劇は呆気ないものだった。何故か屋敷の者達は皆眠りこけていた。私達はあっさりと屋敷に入る。


「ジーグ=ラモンド!デイモートとの内通容疑で貴公には捕縛命令が下った!大人しく縛に付け!」


宣言するも返事は無かったが、静まり返った室内で唯一、話し声が聞こえる部屋があった。


おそらくそこがジーグの私室。私がその部屋の扉を開けると、居たのは全裸で転がる豚・・・ではなくジーグ。そして、


「…タケル!?」

「ようレイア。」


朝と同じ調子で笑うタケルだった。








―タエル視点―


「…タケル!?」

「ようレイア。」


さすがにレイアも驚いてる。


「どうしてここに?まさか態々暗殺の首謀者を捕まえてくれたのか?」

「いやソレは偶然。つか、レイアがここに居るのは、やっぱりそのことでか?」

「まあな。そこで転がっているジーグが内通者だった。デイモートから刺客を借り、私達を襲わせたそうだ。刺客どもは、極刑免除をチラ付かせたらあっさり白状したよ。」


言いながらもレイアは部下に指示を出す。豚貴族は哀れな格好で縄を打たれ、騎士達に連れて行かれる。

ロリコンよりは緊縛プレイの方が幾分マシだな。是非そちらに目覚めて頂きたい。少なくとも自分を縛ることで他人に迷惑は掛からんだろうし。


ともあれ、コイツはお仕舞いだろう。王女暗殺に、国家機密漏洩。他にも叩けば埃が出そうだ。これでセラの懸念していた報復の恐れは無くなったな。


「暗殺の件が違うならば、そちらはどう言った事情だ?話しを聞かせて貰えるか?」

「ああ。俺もレイアに話があるしな。」


ユウ達が居た孤児院に、国は関与していたのか訊きたい。国営の施設ならばあそこまで放置するのは不自然だ。


「…?まあいい。行くとしよう。」

「お供しまっす。お姫さま。」


おどけながら、俺はレイアの後を着いて行く。


あ、これって聴取だよね?尋問じゃないよね?まして拷問じゃ…信じてるぞレイアー!!




いつのまにやら20件以上のお気に入り登録者数!

感激です。

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