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第六十三話 死神と追いかけっこ

…知ってるかい?この原案、去年から思いついてたんだぜ…。

ハハッ、年度末忙しすぎワロスwww

「ゼェ…ゼェ…ま、巻いたか…?」


タケルに追い立てられたボドが逃げ込んだのは、行きつけの酒場だった。


「ウプッ!気持ちわりぃ…」


酒が入っているにも関わらず、通りを全力疾走したため胃の中が逆流しそうだ。店の壁にもたれ掛かり呼吸を整える。


「どうしました旦那?顔色が悪いですよ?」


「いや…気にすんな…。それより水をくれ…」


「はぁ…?」


顔馴染みの店主は憔悴したボドの様子に首を傾げながらも、水を取りにカウンターへと向かった。


「ハァ…何でこんな事になっちまったんだ?」


床に腰を下ろし項垂れる。

職を失い自暴自棄になった自分は、妻と子を苦労させるくらいなら共に死んだ方がましだと思い至り、心中しようとした。

酔いが覚めてきた今では馬鹿な真似をしたと後悔している。だが遅かった。

思い直した頃には既にあの恐ろしい剣士に命を狙われていた。


奴はどれだけ走ろうとも付いてくる。どれだけ不規則に方向を変えようと、距離は離せず、薄ら笑いを浮かべたまま自分を殺そうと追ってくるのだ。。


当然抵抗もした。道端に転がっていた桶や軒先に立て掛けられた資材など、手当たり次第に投げ付けてやった。


しかしそれらは全て、奴の持つ片刃の剣によって両断された。男は「ハハッ、やったなコイツぅ~!」とニヤケ顔で、更に速度を上げて来る始末だ。


懐柔も効果がなかった。話し合いに持ち込もうと自分の暴挙を詫びた。もう心中などしない、妻と息子にも手を出さないと誓った。が、「証拠を見せろ」だの「殺った方が確実だ」などと返され、謝罪は悉く突っぱねられた。


「旦那、水です。」


「あ、ああ…」


これでやっと一息付ける。そう思った矢先だった。手を伸ばした器に鋭い刃が突き刺さったのは!


「ひぇっ!」


ボドが振り返ると、持たれ掛かっていた壁から剣が生えていた。片刃の刀身。それがゆっくりと引き抜かれ、直後に壁がバラバラに斬り裂かれた。


「見~付~け~たぁ~!」


「ギャアアアアアアアァー!来たあぁーッ!」


口元を三日月形につり上げた死神が剣を片手に姿を表す。一体どうやってここを探し当てたのだろうか?どうやって外から壁越しに自分を狙えたのか?


疑問は多々あるものの今はそれどころではない。何をおいても先ずは逃げねば命に関わる。呆然とする客を掻き分けボドは出口へと走った。


「ヒャッハァー!待てオラ~~~~!!」


「もう勘弁してくれ~~~~!!」


地獄の追いかけっこはまだまだ続く。




二人が奇声を上げながら走り去った後、店では客達が首を傾げていた。


「なぁ、この壁…さっき壊れなかったか?」


「そう…だよな?今の兄ちゃんがこう…バッサリと…何で直ってんだ?」


「あん?お前らもう酔ってんのか?壁が勝手に直るかってんだ。ったく、安酒ばっか飲んでっからそうなんだよ。」


馬鹿馬鹿しいと酒を煽り、他の客もそれもそうだと飲み直す。アルベルリアは今日も平和だった。





「ヒャッハァー!待てオラ~~~~!!」


「もう勘弁してくれ~~~~ぃ!!」


「うん?タケルじゃないか。」


酒場にて、冒険者アインは少し遅めの昼食を取っていた。まだ酒は入っていないが、贅沢に昼からというのも乙かもしれない。仲間の、特にミアン辺りに見付かると五月蝿いだろうが…。


そうやって彼がアルコールの誘惑に揺れていた頃、突如顔馴染みが現れた。店の壁を破壊してという何とも派手な登場だ。しかし声を掛ける間もなく、タケルは刀を振り回しながら店を出ていってしまった。


「ヘヘッ、何か面白そうだ。」


イベントの匂いを嗅ぎ付けたアインは、テーブルに代金を置きタケルの後を追う。





「おーい!タケル!何か面白そうな事してるじゃねーか。」


「お?アインか。」


ボドを追い回していたタケルにアインが声を掛ける。二人は並走する形で顔を合わせた。


「今、嫁さんと息子と心中しようとしてたオッサンにお仕置き中だ。」


「アッハッハ!そりゃイイや!俺も混ぜてくれよ。」


「良いけど殺すなよ。脅すだけだ。」


「りょうかーい!」


タケルに習い愛剣を抜き放つアイン。堪らないのはボドだ。彼は背後を確認し、目玉が飛び出る程驚いた。


「ふ、増えとるーーーっ!?」


振り返ってみたところ、今まで自分を殺しに来ていた死神が増殖していた。


「オラオラ~!斬っちまうぞ~!」


「い~や~~!!!」


まるで悪夢である。ボドは疲労した中年の体に鞭打ち速度を上げた。





「も、もう…駄目…。」


夕暮れ時、街外れで精根尽き果てたボドは地面に倒れ伏す。追っ手は間近に迫って来ているが、もう一歩も動けない。


「フフフフフ…そろそろ死ぬ時間だぞ?」


こいつはどういう体力をしているのだろうか?こっちは疲労困憊だというのに、息一つ乱してはいない。同じだけ走っているのに。いや、剣を振っている分、向こうの方が消耗している筈だ。もしや死神に体力など関係無いのか?


「ゆ、許してくれぇ…」


何度目かの命乞いにも耳を貸さず、タケルがボドににじり寄る。


「なぶり殺しにするつもりだったけど、もう直ぐ夕飯の時間だ。手早く真っ二つといこうか。」


ちなみにアインは途中で飽きて帰ってしまった。きっと今頃はギルドで受付のルイーズ相手に奮闘している頃だろう。口説き落とせているかは未知数だが。


「止めてくれ!た、頼むぅ~~!」


夕陽に赤く染まった剣がボドの頭上で妖しく光る。


「今宵も我が愛刀は血を欲っしておるわ!フハハハハハハ!」


「あ、ああああ~~!」


視界が涙で滲んでいく。

思い出すのは愛する妻と息子の顔。嗚呼、何という事だろう。

このまま死んでしまえば妻と息子にとって、自分は二人を殺そうとした悪い夫、父親となってしまう。

自棄になる前にもっとしてやれる事があったのではないか?もしも生き長らえられるならば、今度こそ家族の為に尽くしてやりたい。


死の間際になって慚愧と後悔に苛まされるボドに、容赦なく刀が振り下ろされた。


「うわあああああ!すまねぇマーア!」


脳天から真っ二つに分断され血の海に沈む。タケルが本気ならだ。ボドに落とされたのは刀による必殺の一撃ではなく、幾重にも折り込まれた紙束……


ハリセンだった。


柄が刀で刀身がハリセン。偶にオモチャ屋や雑貨店で見かけるアレである。


頭部を叩かれペシンと乾いた音が鳴る。多少の衝撃はあっても死ぬような代物ではないのだが、これまで受けてきた仕打ちによってボドは心身ともに限界だった。


「は…はひんっ!」


人生最後にしては間抜けな断末魔を残し気を失う。


「さて、よっこらせっと!」


グッタリしたボドの体を担ぎ上げ、タケルは街外れを後にするのだった。



朝四時に仕事を入れてきた業者に、軽い殺意を抱いた私は悪くないと思ふ。

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