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第六十二話 帰国後のアレコレ・心中男との遭遇

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ジャッポンより帰国後、タケルは暫く彼を想う女性達から離して貰えなかった。


「ほら、タケルどう?久しぶりの私の料理は?美味しいでしょ?」


「タケル、この酒を飲め。父上の部屋から拝借してきた一品だ。最高級品だぞ?」


夕食でもテーブルに着くタケルの脇を、レイアとリンの二人がガッチリと固めている。帰ってきてからというもの、万事この調子だ。


「二人とも、もう少し離れてくれ。食い難い。」


「却下だ。」


「そうよ。二十日振りなんだから。」


タケルにピッタリと密着し離れない女性二人。その光景を何故かヤキモキとした様子で見守るのは自称、従者のウズメ。


「お、お二人ともタケル殿が困っておられますぞ。もう少し離れては如何か?」


流石に食事中までははしたないと嗜めるウズメだったが、聞き入れられる様子は無く、それどころかリンの行為はさらにエスカレートしていった。


「良いのよぉ。ほらタケル、食べ難いなら私が食べさせてあげる。口移しで。」


赤いルージュを引いた艶やかな唇が、おかずの八宝菜を咥えタケルの口元に迫る。


「お、お止めくだされ!」


「ん?」


リンはてっきりレイアが止めに入るものだと予測していた。リンが先走り、レイアが嗜めるというのがこれまでのパターンだったのだ。だが、いち早く止めに入ったのはウズメだった。声を張り上げた彼女に全員の注目が集まる。


「あ…さ、流石に食事中で御座るので、もう少し節度を持たれた方がよろしいかと…。」


自分でも予想外に声が出てしまったのだろう。ばつが悪そうに俯き加減で呟く。


「ほぅ…。」


「ふぅん…。」


レイアとリンがタケル越しに目を合わせる。想い人が同じ二人だからこそ通ずるものがあったようだ。




翌日、孤児院の一室に重苦しい雰囲気が漂っていた。部屋は昼間にも関わらず薄暗く、明かりは中央に一つだけ。カーテンも閉めきられており、外から射し込む日差しは完全に遮られている。


そんな陰気な場所に、三人の異なる個性を持った美女逹が集っていた。


「いい加減、吐いたらどうだ?」


燃える様な紅い髪を後ろで束ねた女性。彼女は椅子に座る容疑者に自白を迫っていた。


「ンフフ、話した方が楽になれるわよ?」


同じく詰め寄るのは、艶やかな黒髪を耳下で切り揃えた女性。腕組みしているせいか、自慢のバストがより強調されており、居れば男の視線の大半が引き寄せられること必至である。


「ですから…せ、拙者は潔白に御座る。」


そして二人に尋問を受けているのは、流れるような銀髪を背中まで伸ばした女性。その様子はやや萎縮気味で、頭に生えた狐耳が力なく垂れ下がっている。

だが、それでも容疑を晴らそうと懸命に訴え続けていた。


「嘘おっしゃい!ネタは上がってるのよ!」


ガシャンッ!


突如、黒髪の美女であるリンが声を張り上げた。机に備え付けられた古めかしいライトスタンドを抱え、容疑者を照らし出す。


「うぅ…」


眼前に突き付けられたライトの眩しさと、リンの剣幕にウズメが顔をしかめる。


まるで一昔前の刑事ドラマのワンシーンだ。


「レイア、証人の供述を。」


「うむ…。」


レイアが手に持った調書らしき書類を開く。取調室と化した部屋にレイアの透き通る声が響いた。


「先ずは証人その一。規格外の師匠の弟子(仮名)からの証言だ。」


誰であるかは丸分かりなのだが、残念ながらこの場にツッコミを入れる者は居ない。


レイアは咳払いの後、粛々と調書を読み上げていく。


「ゴホン…『ウズメさんですか?いやー、誰が見たってバレバレじゃないですか。だって師匠と話してる時だけ、耳が嬉しそうにピクピクしてますし。』だそうだ。」


「そ、そんな事は御座らん!拙者は至って普通に接して…」


「次。」


「む、むぐぅ…」


ウズメの抗弁を遮り、リンが促す。物言わせぬ口調にウズメは口をつぐむしかなかった。


「証人その二、最近幼なじみの彼が逞しくなってきて時折ドキリとする(仮名)からの証言だ。」


タケルの修行の成果は、弟子の想い人にも影響を及ぼしているらしい。二人の関係は順調そうでなによりである。


「『ウズメさんですか?タケルさんに尽くそうと頑張っていらっしゃいますよね。その…年上ですけど、可愛らしい方です。』だ、そうだ。」


「あ、あ、主に尽くすは…従者として当然に御座る!」


またも反論するウズメだが、レイアはこれを黙殺。無慈悲にも証言は続く。


「他にもあるぞ。『手を付けた筈の夕食のおかずを交換していた。』『貰った指輪を眺めてニヤ付いていた』『タケルの顔を盗み見しては顔を赤らめていた』等々…。」


「あうっ…。」


矢継ぎ早に並べ立てられた証言にウズメがたじろぐ。一体何時見られていたのか?これからはもっと他者の目を気にしようと心に決めるのだった。


「決まりね?」


「うむ。最早疑いようもない。」


顔を見合わせたリンとレイアが結論を下す。


「ウズメ…お前…」


「ウズメちゃん…」


「「タケルに惚れているな!?」」


「はうっ!」


指摘を受けたウズメの顔がみるみる紅潮する。彼女はそのまま机に突っ伏すと羞恥に悶えるのだった。




ウズメが吊し上げを食らっているとは露知らず、罪作りな男は友人の家を訪ねていた。ゲイル、ミアンという男女の冒険者の住まいだ。

タケルが二人の愛の巣を訪れたのは、ジャッポンで購入した土産を渡すためで、テーブルの上には多くの特産品がところ狭しと置かれていた。


「こっちの着物はゆったりしてて、身重のミアンには丁度良いんじゃないか?」


「うわぁ、この刺繍、凄く可愛いです!」


白地に桜色であしらわれた縫い飾りの部屋着だ。


「ゲイルにはこれだ。」


ドン!と、勢いよく酒樽を床に置く。その名も


『清酒・オーガ殺し』


味は問題では無い。完全にゲイルのガタイの印象で選んでいる。


「いつもすまんな。」


喜びから小躍りする恋人を横目にゲイルが礼を言う。ミアンがあまりにはしゃぐ為、身体に障らないかと気が気ではない様だ。


「どうゲイル?綺麗?」


ミアンが手にした着物を身体にあてがい振り向く。


「ああ、綺麗だ。何時も綺麗だが、今日は特に…な。」


「ゲイル…」


見つめ合う二人。向き合った顔がゆっくりと距離を縮めていく。


「ま、まぁ…後は適当に使ってくれ。」


甘い雰囲気を作り始める友人逹。タケルは二人の仲間であるアイン程この甘々しい場面に耐性は無かった。早々にお暇する事にする。




「来るんじゃねー!」


「馬鹿な事は止めねぇかボドォ!!」


「何やってんだアイツー!?」


ゲイル逹に別れを告げ家を出ると何やら外が騒がしい。長屋の前に人だかりが出来ており、皆が屋根の上に注目していた。タケルも首を傾げつつ上を見ると、理由は直ぐに知れた。

屋根に上った男が短刀振り回しながら喚き散らしていたのだ。


「何があったんだ?」


「心中だよ心中!」


必死に説得を試みている男性に事情を聞き出す。彼によれば屋根で錯乱している男は、この近辺に住む石工職人だそうだ。

何故石工がこんな暴挙に及んでいるかと言うと、昨日勤めていた石工屋で火事が有った事が原因らしい。

幸いボヤで済んだのだが、火番であった彼は火事の責任を取らされクビになったのだ。


「チックショー!俺は確かに火を消したんだ!仕事なくしてこれから家族三人…どうやって生きていけってんだよォ~~~!!」


言っている事は何と無く伝わるが、少々呂律が怪しい。顔も赤らんでおり、足元も覚束無い。


「あーこりゃかなり呑んでるな。」


「それよか子供だよ!あんにゃろ、息子殺して自分も死ぬ気だ!」


確かに短刀を持つ男の側には幼い子供が居た。まだ物心も付いていないような歳で、状況が理解出来ていないのだろう。錯乱する父親の横で無邪気にはしゃいでいる。野次馬の話では、幸い奥さんの方は隣家で保護されて無事なのだとか。


「あの人!マーアさんの旦那さんの…」


騒ぎを聞き付けたミアンが顔を出す。彼女は屋根を見るなり眉をひそめた。


「知り合いか?」


「えっと…まぁ…」


ミアンの話によるとこの心中男は名前をボドという。彼の妻マーアはミアンの友人で、これから子供を産む自分に色々と教えてくれる先輩のような人なのだそうだ。


「少し酒癖が悪いとは聞いてましたけど。」


ここまでとは思わなかったと溜め息を漏らす。


「このまま生きてっても仕方無ぇんだ!だからマーアとコイツと死んでやるんだよぉ~!!」


勝手な妄言をまくし立てるボド。直後、ミアンの額に青筋が浮かぶ。


「タケルさん…」


「ん?」


「やっちゃって下さい。」


「お、おう…。」


低く冷たい声は怒気を孕んでおり、前髪の作る影が暗く色濃い。

時折アインに対して毒を吐く事があるが、それとは比較に成らない迫力だ。完全に腹に据えかねているらしい。

近く母になるミアンにとって、子供を傷付けようとするボドは宿敵も同じ。しかもマーアは友人だ。彼女とその息子が死ぬ事態など到底看過出来ない。お腹の子に障るので自重しているが、攻撃魔法の一つでも撃ち込んでやりたい気分だ。


「そんじゃ行きますかね。ゲイルは下で不測の事態に備えてくれ。」


ミアンの背後から顔を覗かせるゲイルに補助を頼み、タケルはボドの元へと向かった。




「ハァハァ…殺るんだ!もう…殺ってやるしかないんだ!」


ブツブツと呟きながら短刀を握り締めるボド。下では野次馬達が心配そうに彼の行動を見守っていた。

彼の手にした短刀がいつ子供に向けられるのかと気が気ではない。


しかし事態は一人の男により、ここから急展開を見せる。


「なぁなぁ、殺すなら先に俺からやってくれよぉ。」


「な、何だ!てめぇ!」


唐突に背後から声を掛けられ慌てて向き直る。彼は威嚇に短刀を突き出すが、男は光り物の存在など気にした様子もなく、ヨタヨタとフラ付きながら距離を詰めてきた。


「俺も死にたいんだよぉ。親は居ないし、彼女は出来ないし、弟子は生意気でさぁ。」


「お、お前も不幸なのか?」


同族の発見にシンパシーでも感じたのだろうか。ボドの目に同情の念が宿る。


「そうなんだよ~。親は最初から居ないからどうでも良いんだけど。女は二人から告白されて、どっちもすっこい美人でさ。選べないんだわ。弟子は生意気だけど、聞き分けも良くて才能も有るんだよ。あー死にたい!死にたいな~!」


「順風満帆じゃねーかぁ!この野郎~!」


幸せをひけらかされ激怒するボド。同情は見事なまでに裏切られた。特に空々しい棒読みが感に障る。自分なんぞ、今の妻を拝み倒して拝み倒してやっとのことでモノにしたのだ。それをこいつは二人もだという。何の関わりも無いが妙な嫉妬心が沸いてきた。ボドは標的を息子から目の前の男、タケルへと変えるのだった。


「俺にも幸せを寄越しやがれええええええええぇぇ!」


ボドが凶刃を振りかざすと観衆の中から悲鳴が上がる。とうとう犠牲者が出るのかと。


「あ、あれ?」


ボドは斬り付けた筈だった。自分を小馬鹿にする珍妙な乱入者に。多少酔いが回ってはいるものの、幻覚を見る程では無い。のだが…


「刃が…」


目をしばたかせて見直すが、やはり短刀から刃が消えている。有るのは握っている柄の部分だけ。振り下ろすまで確かに有った筈だ。一体いつ消えたのか?ボドには見当も付かなかった。




「む…」


屋根上でのやり取りに唸るゲイル。何が起きたのか理解出来たのは彼だけの様だ。


「ゲイル?」


解説を求めて恋人がクリクリとした丸い目でこちらを見上げてくる。やはり自分の恋人が一番可愛らしいと確信しつつ、ゲイルは口を開いた。


「タケルが奴の短刀を斬ったんだ。」


「え?嘘!?いつ!?」


「無理もない。俺も見えたのはタケルが剣に手を掛けたところだけだ。」


目にも止まらぬ速業だった。ボドが斬り掛かった瞬間、タケルは刀で短刀の刃を斬ってしまったのだ。目で追えたのは初速のみ。気付いた時には納刀していた。


「流石、レイア様と組んでいるのも当然…か。」


ギルドにおいて、今までレイアがタケル以外の冒険者と組んだ例は無い。王女であるため、彼女の地位を利用しようと近付く者も居るので、安易に選べないのだ。


だが理由はもう一つある。実力的に釣り合う相手が居ないからだ。

例え妥協して組んだとしても、相手の実力にレイアが合わせなければならない。無理に難易度の高い仕事を請けようものなら足を引っ張られてしまうだろう。


「強いとは思っていたが…ここまでの実力者だったのか。」


ゲイルは以前タケルと共闘した事もあり、彼の実力を評価していた。しかしそれはあくまでも常識の範囲内でだ。流石に刀身さえ見せず、相手にすら気付かせずに物を斬るなどという芸当は想像出来なかった。


「俺もまだまだだな。」


友人の力を目の当たりにしたゲイルは気を引き締める。自分もそれなりに冒険者として力を付けたつもりだったが、上には上が居る。自信を持つのは良い事だが、慢心してはいつか身を滅ぼすだろう。


特に今は大事な時だ。父親になるのだから。傍に寄り添う恋人とお腹の子の為にもしっかりせねばならない。




「お前何なんだよぉ!関係無いだろ!引っ込んでろよぉ!」


刀身の無い短刀を振り回して喚くボド。既に彼の側に子供は居ない。呆気に取られている間にタケルに奪われてしまった。心なしか喚く声にも覇気が無い。頼みの短刀もおしゃかで人質も居ないため、若干気弱になっているようだ。


「関係かぁ、無いっちゃ無いけど、有るっちゃ有るんだよなぁ。」


目端にボドを捉えつつ、彼の息子を抱き上げると屋根下に放り投げた。乱暴にではない。山なりに、フワリと。下で見守るゲイルへと投げ渡す。


「お前の嫁さんの友達が俺の友達なんでね。彼女に頼まれてしゃしゃり出たって訳。」


「殆ど他人じゃねぇか!邪魔すんなよクソォ!」


人質を無くしたボドの言動はいよいよ不明瞭で理不尽なものへと変わっていく。話すのは暴言や中傷等の罵詈雑言ばかり。中には仕事の愚痴なども混ざっているが殆どが酔っ払いの妄言である。


「つまりお前は嫁さんと息子共々死ぬ気だって事だな?」


要約するとそういう事だ。


「そう言ってるだろうがよぉ!だからてめぇは邪魔だってんだ!」


「なら、お前を殺そう。」


「へ?」


タケルが言い放った直後、ボドの顔のすぐ横を刀が通り過ぎる。あまりにも速い斬撃にボドは微動だに出来なかった。


「俺はお前の奥さんと息子を死なせたくない。逆にお前は二人を殺すつもりなんだろ?。だったらお前を殺せば二人は死なない。ほら、一件落着。」


「な、ななななな…!?」


仰天するボド。頬を触ると横一線に皮が切れており、僅かに血が滲んでいた。

ゾクリと背筋に冷たいものが通り過ぎる。もし刀の位置がズレていたら、自分の首と胴体はオサラバしていたに違いない。一瞬であの世行きだ。


「フッフッフ、どうせ自分も死ぬ気だったんだろ?手っ取り早く俺が殺ってやるよ。」


凶悪な笑みを浮かべたタケルが、ベロリと刀を舐め上げる。


「ヒッ!」


後退りするボドをまたも斬撃が襲った。切っ先は彼の肩や脚を掠め、服に幾つもの切れ目を作っていく。


「くくくっ、楽に死ねると思うなよ。腕からいくか?指を一本ずつ落とすのも面白いかもなぁ。」


「ひ、人殺しぃ~~~~!!」


自分が心中しようとしていた事も忘れ、這う這うの体で逃げ出す。持っていた短刀の柄も投げ捨て、一目散に屋根を飛び降りた。タケルも刀を振りかざし後を追う。


「ハハッ、待て待て~~!」


「助けておっかぁ~~!!」


今、ボドの人生で最も恐ろしい時間が訪れる。地獄の追いかけっこの開始だ。


「タケルさーん!本当に殺しちゃダメですよー。」


やはりどんな夫でも知り合いが未亡人になるのは心苦しい。ミアンが遠退いていく背中に呼び掛けると、タケルは手を振り返しつつ走り去るのだった。





眠い…感想への返信は後日って事でm(_ _)m

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