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第五十七話ジャッポン到着

少し間が空いてしまいました。いやぁ、マイクラがあんまり面白くて面白くて(苦笑)

しかしダイヤ発掘直後に全ロストで心が折れました。そこで「ハッ!小説書かな!」と、我に返り更新した次第です。

「あぁ…」


ジャッポンのとある屋敷の前で、ウズメは呆然と立ち尽くしていた。


かつて自宅であった家は他人の手に渡り、別の表札が提げられていたのだ。当然、家族も住んでは居らず、既に引っ越した後だった。


「うく…」


ジワリと視界が歪む。ウズメは零れ落ちそうな涙を必死で堪えた。


悲しくも不安が的中してしまったようだ。自分の家は当主も不在なうえ、前帝側に仕えていた。帝が交代した現在は、身分的にも経済的にも、屋敷を維持していくのは難しかったのだろう。


しかしそれでも生まれ育った家が他人の手に渡っていたという現実は辛い。更に、漸く家族に会えると期待していた分だけ落胆は大きかった。



「大丈夫か?」


ウズメの気持ちを察したタケルが、彼女の肩に手を置く。


「だ、大丈夫で御座る!」


袖でゴシゴシと目元を拭い、努めて明るく振る舞う。


「しかし困りましたな!居を移したとなると、近所に聞き込んで行き先を調べねば!」


「そうだな。誰か知っている人を探さないとな。」


少し涙声だが前向きな意見だった。タケルは良い傾向だと思う。この程度で諦めるようなら頭の一つも小突いてやるところだ。


「手分けして探すか。」


「はっ!」


二人は昔、アマノ家に世話になった知人と称して、ウズメの家族の行き先を調べ回る。一時間後、ウズメの家族は母方の伯父を頼って余所へと引っ越した事が分かった。


「成る程。伯父上のところで御座ったか。」


「場所は分かるのか?」


「はい。コックラという、ここよりかなり南へと下った地に御座る。」


「コックラ?小倉じゃ無くて?」


「コックラに御座る。」


キッパリ言い切るウズメに対して、タケルは何ともいえない微妙な顔をするのだった。





二人は再度上陸した海岸へと戻り、そこからコックラを目指す事にした。


「で…何でお前がまた居るんだ?」


出航直後、上陸の際に別れた筈のポセイドゥン!がまたも甲板へと現れた。日に何度も見たい相手ではない。暑苦しい事この上ない。もはやタケルも作者も食傷気味である。


「フハハハハ!虫の知らせ…あいや!筋肉の知らせである!もしやぶらざぁが戻って来るのではと!このポセイドゥン!の勘が…あいや!筋肉が囁いたのである!」


「分かり難いわ!無理に筋肉に例えんな!」


「フン!フフンッ!フンッフンッ!」


自慢気なポセイドゥン!が果てしなくウザかった。


「次はコックラであったな!なびげぇとはお任せである!」






コックラ周辺の海域へ入ると、ポセイドゥン!は令の如く海へと還っていった。案内の報酬は以前と同じく醤油。薄口に濃い口までそれぞれペットボトルに1000mlずつ渡すと、ホクホク顔で去っていったのだった。


「はぁ…やっと静かになった。」


「ポセイドゥン!殿、お世話に成り申した。」


水の精霊の消えた海を見つめる二人。辟易した顔で見送るタケルと、厳かな態度で一礼するウズメ。実に対照的な反応である。。



筋肉精霊と別れたタケルとウズメは、コックラの港へと到着した。そこは貿易の拠点らしくタスニアとそう変わらない規模を備えている。辺りには幾つか貨物船が接岸しており、水夫達が忙しそうに荷を搬出している。


「あ、あれは…お、伯父上!」


港を一望していたウズメが不意に声を上げる。彼女の視線の先には、水夫を指揮している中年の男性が居た。


「待った。」


「ぬへぇ!」


駆け出そうとするウズメの襟首をタケルが掴む。


「な、何をするので御座るかぁ!?」


「阿呆。姿変えてるのを忘れたのか?」


「あう…そうで御座った。」


今のウズメは政府側に存在がバレぬようタケルの魔法で姿を変えている。結局、都に家族は不在で、今は都から遥か遠方に居るので取り越し苦労だったのだが。しかし今度は逆に知り合いに変わった容姿のまま話し掛けると面倒な事になってしまう。ウズメは変身を解いて貰ってから、改めて伯父へと歩み寄った。


「伯父上!」


「ん?…ハッ!ま、まさか…ウズメかっ!?」


水夫に檄を飛ばしていた男性が、ウズメを見るなり仰天する。ウズメと同様に彼にも狐耳があり、それはピンと張り詰めていた。が、男の狐耳なんぞ誰も得をしないので詳しい描写は省略する。


「お久しぶりで御座る。」


「生きてたんだな!良かった!仇討ちの旅に出たと聞いて心配していたんだぞ!」


ウズメの伯父は彼女を見るなり、厳つい顔に柔和な笑みを浮かべる。


「御心配をお掛けしました。しかし運良く本懐を遂げ、帰国した次第です。」


「そうかそうか!これは目出度い!ああ、こうしては居られん!早くミフユに知らせねば!」


ウズメの伯父は姪っ子の帰国に驚きながらも、仕事を部下に託し慌ただしく帰宅の準備を始める。


「ところで、後ろの彼は誰だ?」


ウズメの後方で二人の再開を見守っていたタケルに気付く伯父。


「タケル・カミジョウ殿に御座る。拙者の恩人でして、正直に申しますと今回拙者が無事に戻って来れたのも、タケル殿のご助力が有ればこそ。」


「何と!恩人!?それを早く言わんか!」


ウズメを軽く窘めつつ急いでタケルへと駆け寄る。


「挨拶が遅れて申し訳無い!儂の名はキジュウロウ・アマノ!我が可愛い姪を送り届けて頂き感謝致す!」


キジュウロウは律儀に頭を垂れタケルに礼を述べた。ハキハキとした物言いは、確かにウズメとの血縁を感じさせる。


「ああ、礼はそのくらいにして早くウズメを家族に会わせてやってくれ。」


「お気遣い傷み入る!ウズメ、家へ帰るぞ。ミフユと弟妹もそこに居るでな。タケル殿も是非おいで下され!」


キジュウロウに先導される形で彼の自宅へ向かおうとすると、直後、港にけたたましい音が鳴り響く!


「おらぁ!邪魔なんだよアマノのぉ!」


音のした場所では搬出中の貨物が横倒しになっていた。周囲には水夫を威嚇する男達。


「伯父上、奴らは?」


「エチゴヤの下っ端だ。商売敵の儂らに何かと難癖を付けてくるのだ!全く!折角、お前が戻ってきた目出度い日に!」


倒れた荷を足蹴にするチンピラ達に憤慨するキジュウロウ。


「少々待っておれ!いま叩き出してくる!」


「俺が行くよ。早くウズメに家族と会わせてやりたい。」


腕捲りをし現場へ向かおうとするキジュウロウに代わり、タケルが歩き出す。自分が一番早く場を収められるとの判断だ。


「カミジョウ殿!」


「大丈夫大丈夫。」


呼び止めるキジュウロウにタケルは軽く腕を振るのだった。


「ウズメ、カミジョウ殿は強いのか?」


「はい。恐らく一瞬で片付くかと。」


姪の恩人に怪我でもされては申し訳が立たないと心配するキジュウロウだったが、ウズメは確信を持って頷く。


「拙者でさえ、タケル殿には手も足も出ませぬ。」


「お前がか…」


キジュウロウはウズメの実力が確かなものだと知っている。そんな姪っ子が言うのだ。ここは任せてみても良いだろう。




「おらおら!」


「てめぇ!止めねぇか!」


倒した荷を更に踏みつけるチンピラと、それを咎める水夫達。荷の中身はキジュウロウの店が外国から輸入した食料や嗜好品だった。


辺りに一触即発の雰囲気が流れる中、突如チンピラの一人が尻を抱え飛び上がる。


「おあっ!誰でぇっ!?」


「あーあ、食料がグチャグチャじゃないか。食べ物を大切になんて、子供でも知ってるぞ。」


チンピラの尻を蹴り上げたのはタケルだった。彼は散乱する荷物に目配せし、その惨状に嘆息する。


「誰だてめぇ!アマノんとこの用心棒か?」


「知るか。物に当たる馬鹿に名乗る気はねぇよ。」


「んだとぉ!?」


タケルの物言いに激高するチンピラ達。矛先は水夫からタケルへと移り周囲を取り囲む。


「こっちは急いでるんだ。御託は良いから掛かってこい。ハゲ。」


「ぬがっ!言いやがったな!お前ら!この優男をぶっ殺せ!」


リーダー格の男はコンプレックスを突かれたらしく、ツルツルの頭部をタコの様に真っ赤にしながら激怒した。皆は人の身体的特徴を揶揄してはいけない。作者との約束だぞ。


「死ねや!」


「はいはい、何の捻りもない台詞をありがとさん。」


短刀を振りかざし襲い来るチンピラの手首を返し、地に投げ落とす。


「げふっ!」


後に続く連中も次々に顎や鳩尾に当て身を食らい、港には気絶したチンピラの山が築かれていくのだった。


「後はお前だけだな。」


「ぬ、ぬぐぐぐぐ…」


手下をけしかけたタコ頭はタケルと対峙したまま鼻白む。相手は瞬く間に手下十数名を打ち倒す男だ。勝ち目は無い。


「きょ、今日の所はこれで許してやる!覚えてろ!」


「そりゃ俺の台詞だろうが。」


タケルの刀が男の下半身を襲う。


「ぬあっ!?」


神速の域で煌めいた刃が男の胴体を斬り裂く。刀の通り過ぎた腹部からは鮮血が噴き出し内臓が零れ落ちる……様なことは無く、斬れたのは男の下穿きのみだった。


「あわわわ…!」


はらりと落ちた下穿きを慌てて持ち上げ、愚息を隠しながら男は這々の体で港を去っていった。




「タケル殿、もう少し自重下され。」


遠巻きに見ていたウズメが恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。勿論原因は最後のアレである。


「…凄まじいな。」


一方、キジュウロウはタケルの剣の冴えに驚嘆していた。刀を抜いたのは一度きりであったが、その実力を知るには十分だった。目で追うのがやっとの早業だ。ウズメ程剣術に精通していないキジュウロウだが、それでも尋常ではない腕であるのは分かった。


「お待たせ。行こうか。」


「タケル殿、流石に最後の追い打ちは如何かと。」


大立ち回りを演じ戻ってきたタケルをウズメが窘める。


「ああ、アレ?心配しなくてもウズメにはしないよ。」


「そそそ、そういう問題では御座らん!」


只でさえ別の場所は見られているのだ。このうえ下まで晒されたらと思うと、顔から火が出そうだ。


「ふむ…似合いよな。」


じゃれ合うタケルとウズメが、キジュウロウの目には十年来の友かそれ以上に映るのだった。




キジュウロウさんは四十絡みのナイスミドルとお考え下さい。イメージとしてはスタイリッシュな侍ではなく、もっと骨太な感じですね。

けどナイスミドルって何かカッコいい。響きつーか、韻が好きです。

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