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第五十五話フライトは精霊と共に

盆休みくらい更新頻度を上げたかったんじゃよ。

孤児院に戻ったタケルは、レイアやリン、弟子のユウなど、仲間達にウズメの故郷へ向かう事を告げていた。


「へぇ~、ウズメちゃんの故郷のジャパン…じゃなかったジャッポンにねー。」


「そういう訳で暫くは留守にするから宜しくな。」


「ジャッポンかぁ…ウズメちゃんの感じからして、江戸時代みたいな雰囲気なんでしょうね。着物とかかんざしとか。興味有るわぁ。」


「留守番は頼むぞ…って、お前付いて来るつもりだろリン?」


タケルの言葉をスルーして、ジャッポンに思いを馳せているリンは、態度からも同行する気満々であった。


「当然でしょう?」


「残念だが、今回行くのは俺とウズメだけだ。」


目的はウズメを故郷に送り届ける事だが、ジャッポンの政府側に見つかれば面倒な事になりかねない。隠密性を重視する旅なので同行する人数は最低限で有るべきだろう。


「大丈夫よぉ!私だって隠密行動には自信があるんだから!」


「フフフッ…そうはいかんぞリン。お前には大事な仕事が残っているのだからな。」


這い寄ってきたレイアが肩を掴む。彼女の言う仕事とは、医療技術提供についてだ。医術の講義や指導、器具の製作など、リンは結構多忙な日々が続く予定なのだ。


「延期…出来ない?」


「ならん。既に各方面の専門家に呼び掛けてある。頼むぞリン先生。」


「やっぱりそうなるのね…。」


ガックリ肩を落とすリンだった。






ジャッポンへの旅立ちの前日、タケルは非常に困っていた。彼は自室の中央にポツンと座り、その周りを二人の女性が囲んでいる。


「タケルの能力があるとはいえ、それなりに長旅になるようだな?」


「ああ、そうだな…いや、そうです。」


レイアからの問い掛けに敬語で答えるタケル。何故かそうせずには居られない凄みを、今のレイアは纏っているのだ。


「それもウズメちゃんと二人で?」


「うん…いや、はい。」


同じく剣呑とした雰囲気で尋ねたのはリン。彼女は自慢の特大果実の前で腕を組み、タケルを見下ろしていた。


「うら若い女性と想い人が長旅に出るというのは、私達としては何かしらの行動をとっておくべきだと思うのだが、どうだタケル?」


「いやいやいや、ウズメを故郷に送るだけだし何も無いだろうよ。」


レイアの疑惑を否定しようとタケルが左右に手を振る。


「そりゃね?1ヶ月近く私と旅しても、手を出さなかったんだから信用してるわよ。」


「あ、ありがとう?」


「でも、こっちは当分タケルと会えないのよね?」


ずずいとタケルの前に迫るリンの顔。


「会えないというのは、お前が考えているよりも辛いものなのだぞ?」


レイアの顔も隣に揃う。


「えーと、お二人は俺に何を求めてらっしゃるので?」


顔を見合わせた美女達が、ニンマリと微笑む。


「タケルには、会えない間の私達の寂しさを補う義務があると思うのだ。」


「フフッ、そうよ。少し長くても大丈夫なくらい…とっても濃ゆ~~いのが…ね?」


妖艶に光る双眸が二つ。プルンと瑞々しくしっとり艶やかなリップがタケルを追い詰める。


「あっ!そういえば旅の準備がまだだった!」


無理矢理口実を作り、わざとらしい態度で立ち上がるタケルだったが、思惑はすぐさま阻まれる。


「逃がすかぁ!!」


「ぬおおおっ!?」


リンがタケルの両足にタックルを食らわせる。横倒しになり、足にしがみ付くリンを引きずりながらも、タケルは逃走を続けていた。


「うおおおおおおっ!離せぇ~!!」


「レイア!今よ!一番槍は譲って上げるわ!」


「うむ!リン!お前の犠牲は無駄にはせん!」


「ちょっ!待てレイア…んむ…ッ!」


この後、何が起きたのか。それは三人にしか分からない…。





ジャッポンへの出立当日、タケルとウズメは港町のタスニアへと来ていた。何故タスニアかと言うと、これから出す乗り物の性質上、海の方が都合が良いからだ。


「この辺で良いか。」


人気のない海岸に着くとタケルが手を翳す。


キイイイイイィィーン!


作り出したのは飛行艇。真っ赤にカラーリングされたサボイアS.21だった。かつてシュナイダーレースで、パイロットの急病から欠場となった悲運の名機である。


「これは…船で御座るか?」


プカプカと海に浮く飛行艇を不思議そうに見つめるウズメ。さすがに空を飛ぶという発想は出来ないようだ。


「船は船でも空を飛ぶ船だぞ。これなら遠いジャッポンでもひとっ飛びだ。」


「ご、ご冗談を!こんな重そうな物が空を飛べる訳が御座らん。鳥や竜でも有るまいし。」


タケルは揚力や推進力について説明しようとして、止めた。理解を得るまでに時間が掛かりすぎる。


「乗ってみれば分かるさ。」


運転席に乗り込むタケル。彼に続いて前に作られた助手席にウズメが乗る。


「う!?…タ、タケル殿…」


「どうした?忘れ物か?」


「そ、そのぉ…少々、席が狭くて…ですな…」


助手席用に空いたスペースが思いのほか小さく、ウズメの臀部が収まりきらなかったようだった。


「…安産型だな。」


座席を再度調整して彼らは出発するのだった。





「お、おぉ…本当に飛んでいる!」


飛行艇が走り出し水面から離れると、漸くウズメはタケルの言葉が事実だと分かった。


「どうだウズメ。気持ち良いだろ?」


「はい!まるで鳥になったようで御座るな!」


初めてのフライトだがウズメにも緊張は無く、空の旅を楽しんでいるようだった。これが高所恐怖症などであれば、旅の予定を大幅に変更しなければならないところだったので、一安心である。


「けどウズメ、ジャッポンの正確な位置は分かるのか?」


「そういえば…」


タケルに分かっているのはジャッポンが東にあるという事だけだ。そのためタスニアから東を目指しているが、それはおおざっぱな方角に過ぎない。世界地図も存在していない世界なので、もっと具体的な指針が必要だ。


「拙者も仇を探して行き着いた先が、偶々この国だっただけに御座る。案内となると難しいで御座るな。」


「仕方無いな…ナビゲーターを呼ぶか。」





「フハハハハハ!お待たせした!一億六千万のファン達よ!そう!我が輩こそ!ぶらざぁの!心の友!ポセイドゥン!!である!」


飛行艇の翼の上で仁王立ちしながらポージングをキメているのは、水の精霊ポセイドゥン!だった。彼こそ今回の旅のナビゲーター役である。


どういう原理なのか高速で飛行しているにも関わらず、落ちる気配はないポセイドゥン!慣性と重力を完全に無視している。


「お前、ジャッポンまでの行き方、本当に分かってるんだろうな?」


「フハハハハ!愚問であるぞぶらざぁ!七つの海の覇者である我が輩が知らぬ訳があるまい!水清き島ジャッポン!我が輩のお気に入りすぽっとであるぞ!」


ダブルバイセップスを決めながら高笑いのポセイドゥン!初めて彼という黒ビキニの精霊を見たウズメの反応は、意外なものだった。


「これが精霊殿で御座るか…」


「悪いな。多少ウザったいが我慢してくれ。」


タケルとしてはウズメが不快に思っていないか心配だったのだが、杞憂だった。


「何と神々しい!正に神秘の存在に相応しいで御座るな!」


ポセイドゥン!を誉めちぎるウズメ。タケルの想像とは真逆の反応である。てっきり仰天し逃げ惑うと思っていたのに。


「ほほう!我が輩の魅力を分かるとは!やるな娘よ!」


上半身だけを振り返らせながらビシリとウズメを指差すポセイドゥン!


「勿論で御座る!貴殿…あいや、ポセイドゥン!殿のような精霊は、この世界では憧れの存在!まさかお会い出来ようとは。このウズメ、感激で御座る!」


「マジかよ…」


感動しているウズメに頭を抱えるタケルだが、実はこの世界の人間としては、当たり前の反応だったりする。


精霊は格の高い存在として敬われ、信仰の対象なのだ。初めて会ったときはタケルとリンという地球出身者だけだった為、その価値に気付けなかったのだ。


「しかしぶらざぁも隅に置けぬな!リン殿という美しいすてでぃが居ながら、お次はこんなぷりてぃな娘と空の旅とは!…月のない夜は注意すべきであるな!フハハハハハ!」


「うるせぇよ筋肉精霊。」


「タ、タケル殿、精霊殿に失礼で御座るよ!」


ウズメの帰郷の旅は、予定よりも大分賑やかしいものとなったのだった。





「ぬ、ぬう…」


「タケル殿、何やらポセイドゥン!殿の様子が…」


「ん?」


旅を初めて二時間程経った頃、これまでしつこいくらいポージングを決めてはしゃいでいたポセイドゥン!に異変が起きていた。力無く座り込み、船体に片膝を付いている。


「どうした?筋肉精霊。乳酸溜まり過ぎてオーバーワークか?」


「抜かったわ!我が輩…水の精霊故、水場から離れるとどうしても調子が悪くなるのである!水!水!筋肉!水!」


「ど、どうしましょうタケル殿。一旦水帰しますか?」


まるで丘に上げた魚みたいだ。


「とはいえ、二時間おきに水に入れるのもなぁ。」


さすがに何度も離着水を繰り返しては面倒である。かといって、彼は大事な案内役だ。手放す訳にもいかない。


「我が輩の事は気にするなぶらざぁ!請け負った以上、任務は全うする!例えこの筋肉が干からびようとも!」


「うるせぇよ。その調子じゃ着く前にカピカピじゃねぇか。俺に良い案が有るから任せろ。」


「良い案とは何で御座るか?」


タケルはニヤリと口元を釣り上げ、亜空間倉庫から縄を取り出したのだった。





「フハハハハハ!快適快適!我が輩の筋肉がかつて無い速度に打ち振るえておるわ!」


水上を疾走するポセイドゥン!彼の無駄に逞しい胴回りには縄が巻かれていた。


「さすがはまいぶらざぁ!凡人には出来ぬ発想である!」


縄は遥か上空のタケル達の乗る飛行艇と繋がっており、ポセイドゥン!を引っ張っている。これならば彼を海から離す事なく同行出来るだろう。


一方、空ではウズメが怪訝な顔で下を見下ろしていた。


「確かにポセイドゥン!殿は海に触れておりますが…これは少々…いや、かなり不敬では御座らぬか?」


端から見れば飛行艇でポセイドゥン!を引きずっていて、拷問にも見えなくもない。いや、相手が人間なら拷問そのものだろう。


「大丈夫だろ。本人は喜んでるんだし。」


「フハハハハハ~!」


かなり上空の筈なのに聞こえてくるポセイドゥン!の高笑い。


「ぶらざぁ!我が輩が居らぬからといって、ウズメ殿といちゃいちゃは程ほどにするのであるぞ!」


「……。」


ブゥーーン!


無言でスロットルを開ける。


「ふおおおおおー!速い!速いぞぉ!水渋きが礫の様である!ふぬうううう!負けるな我が筋肉!!フンッ!フンッ!フゥーンッ!!」


生身による三百キロ近い水上スキーだが、彼には好評だったようだ。





何故だろう。ギャグパートはこんなにすんなり書けるのにシリアスだと筆が止まる。何でなの?教えて小説の神様!


神「才能ないんじゃね?」


爆裂「……!!?」


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