第五話初依頼 ちょっ!難易度高けぇ!
初戦闘です。
俺とレイアとギルドを出て街の大通りを歩いている。
「タケル。このままヴィアズの森へ向かうつもりか?」
「うん、まあ。」
「しかし得物はどうする?まさか、その腰の棒切れで戦うのか?それとも魔法に自信でも?」
「ああ、これね。」
やっぱ棒に見えるのね。俺は刀を抜いて見せる。
「ほら。これが俺の武器だ。」
「ほう。変わった剣だな。触っていいか?」
さすがお姫さま兼騎士。むしろ指輪のときより食い付きがいい。
「気を付けてな。切れ味が半端じゃないから刀身には触れないように。」
大業物を想定して創ったから自重だけで指が落ちる。
「確かに恐ろしく鋭いが、細くて頼り無いな。折れたりしないのか?」
「一般の剣と違って重みで叩き斬るんじゃない。切り裂く剣だ。使い手の技次第かな。」
「なるほど…。」
ジッと刀身を見つめる。
「美しいな…。」
「レイア?」
「ハッ!」
なんかアブない目になってた。
「スマン。惹き込まれるような不思議な魅力があってな。」
「あ~気持ちは分かる。俺の故郷でも切れ味に魅了されて、人切りを目的にする人間が居たし。大きな力を得ると人はそれを振るいたくなる。正しく使うには、それ相応の心の強さが要る。そして大きな力ほど大きな責任が付き纏う。」
あれ?何を驚くレイアさん。
「…凄いな。タケル。お前は常識は無いくせに時折、異常に賢しいことを言う。」
「普通だろ。そんな関心されること?あと前半は貶してね?」
「剣に魅入られるとは、私もまだまだだ。大きな力には大きな責任か……我が国の人間にも聞かせてやりたいものだ…いや、つまらん事を言った。」
国政が上手く行ってないのか?姫だものな。
訊いて欲しくなさそうだしスルーしよう。俺は空気の読める男なのだ。刀を受け取りつつ話題を振る。
「話は変わるけど、ヴィアズの森ってどの辺だ?近いのか?」
「南に徒歩で一時間ほどだ。ちょうど私達が昨日通った道の逆だ。往復に二時間、狩に一時間。昼過ぎには帰れるだろう。」
「じゃ、弁当は要らないか。」
「あれ!?タケルじゃん!」
街に門、出入り口に差し掛かった所に居たのは、回復薬で助けたアイン、ゲイル、ミアンの三人パーティー。
「出掛けるのか?」
とゲイル。
「ああ。三人も?」
「西の山まで鉱石を採りにな。」
「懲りないね。」
「この程度で懲りてたら冒険者はやってられないぜ!」
ガッツポーズでアイン。
「ちょ、ちょっと!」
レイアに気付いたミアンが二人を諌める。
「「レ、レイア様!!」」
目を剥く二人。畏まり見事に直立する。
「気にしなくて良い。今は私もただの冒険者だ。」
「は、はぁ?」
俺はアインに腕を引かれた。
「おい!タケル!どうしてレイア様と一緒なんだ!?」
「何でって…。臨時パーティーのメンバー?」
「メンバーって…あの誰とも組まない姫騎士が?」
「姫騎士?」
「レイア様の二つ名だよ!あと戦姫とか、棘まみれの薔薇とか。」
姫騎士とか、まんまやん!
「戦姫はともかく棘まみれの薔薇って…」
「問題はそこじゃねぇ!どうやってあの姫騎士を誑し込んだんだ!?」
「誑し込んでねぇ!」
こいつはアレか?レイアのファンか?異様に絡んでくる、うぜっ。
「そのくらいにしとけアイン。」
ゲイルがアインを諌める。
「ハァーハァーハァー」
アインの目がヤバイ!アレだ!アイドルにのめり込み過ぎたファンの目だ。もしくは新興宗教の狂信者。レイアの魅力恐るべし!
「それで、タケル達はどこへ行くんだ?」
ありがとうゲイル。ようやく話が進む。
「ヴィアズの森。」
ピクリとアインが反応する。
「ベルウルフ…」
唸るゲイン。
「もしかして……」
「ああ。俺がやられた森だ。討伐対象はフォズゴブリンだったんだが、倒した直後に囲まれてな。」
悔しげなアイン。
「けれど凄いですね!登録初日にBクラスの依頼、しかもレイア様と!回復薬といい、タケルさんて何者ですか?」
羨望の眼差しを送るミアン。
「回復薬?」
それまで静観していたレイアが聞き返す。
「はい!うちのアインがベルウルフにやられて、死に掛けていたのをタケルさんが持っていた薬で助けてくれたんです!」
「成る程。タケルが回復薬で助けたのは君達だったのか。しかし既に実害が出ていたとは。急いだ方が良いな。タケル、行くとしよう。」
むんずと襟首捉まれ引きずられていく俺。
「骨は拾わんが頑張れよ~。」
アインがハンカチ持って手を振る。
「クッソ~薄情者め~!」
死んだら毎晩、枕元で「マッチョ」って囁いてやる!フハハハハ!油ギッシュな筋肉に囲まれる夢を見るがいいわ!
「姫騎士か~。」
「……二つ名か?」
「あと、戦姫はともかく棘まみれの薔薇はな~。」
「こんな性格だからな。よく父上にも女らしくしろと言われる。」
自嘲気味に笑う。
「誤解だな。レイア優しいのに。」
「…優しいか?私が…。」
「何度も助けてくれただろ。最初と、街でと、ギルドで。」
指折り数える。
「最初のは、騎士としての義務だ。街でのことは交換だった。ギルドではパーティーを組んだだけだろう?」
「いやぁ。最初だってどう見ても怪しい俺を保護してくれたろ?」
「怪しい自覚はあったんだな。」
「うぐ…。それに銀貨だってくれるの前提だったし。ギルドでも今回の仕事は一人で十分だった筈だろう?感謝してるよ。」
俺の言葉に顔を背けるレイア。
「…恩に思うならば、仕事で役に立ってくれ。」
あれ?照れてる?レイアの違う側面が見れて少し嬉しいぞ。
「ベルウルフは素早いからな。足を引っ張られると私でも守りきれんかもしれんぞ?」
「任せろ!」
「ほう、頼もしいな。」
「逃げ足には自信がある!」
「……。」
あれ?スルーっすか?レイアにツッコミは荷が重かったか?
「囮には最適だな。」
「ハハハ。ボケにボケで返されたぞ。」
「…。」
「ボケだよね?」
「毒には気を付けろよ。」
「イーーーーーーヤーーーーーーー!!おうちかえるぅーーーーーーー!!」
あ、家無かった……
―――???視点―――
税の横領に対する監視の目が日に日に強くなっている。つい先日も徴収税の見直しが提案された。これが可決されれば、各領土で徴収できる税が制限される。
特に平民からの徴収量を引き下げる方針で、ここ数年の豊作でもたらされた利益を還元する狙いらしい。この案は第一王女レイア姫の進言に因るものだ。レイア姫は度々政治に口を出してくる。昨年実施された領土検地でも徴収量は減らされたのだ。平民の税など絞れるだけ絞り取れば良いものを。忌々しい。
しかし暗殺しようにも女だてらに騎士団長まで務め、実力・国民の支持、共に高い。
何度か刺客を送ったが、返り討ちに遭うだけだった。
だが、そんなときだった。デイモートからの申し出があったのは。
内容は、我々がレイア姫の動向を探り報告。そしてデイモート側が腕利きの刺客を派遣するというもの。どうやらあの女は、デイモートにも相当疎まれているようだ。
そして好機は巡ってきた。今日、レイア姫はギルドで仕事を請け、ヴィアズの森にへ行くらしい。
最近は騎士団と共に行動することが多かったため、機会に恵まれなかったが、今回の同行者は新米
冒険者が一人。
私はすぐさまデイモートの暗殺者に命じた。
「姫が冒険者を伴いヴィアズの森に向かった!機を見て二人を殺すのだ!」
「フフフ…了解した。」
「ククク…。」
「ケケケ。」
暗殺者の男達は、三様に声を漏らし、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべる。
「大丈夫なんだろうな?相手はあの姫騎士だ。失敗は許されんぞ?」
「心配は無用だ。俺達はデイモートでも最高の暗殺者だ。フフフ…この魔法で殺せない者はいない。」
奴らは自信ありげに頷き部屋を後にした。
―タケル視点―
「話がちげぇ!なんっだよこの数!」
ヴィアズの森に入って十分ほど。直ぐに奴らは見つかった。いや、見つかったのはこっちだな。俺たちは周囲をベルウルフに囲まれいる。その数は、約10体。依頼数の倍だ。
その姿は文字通り狼。ただサイズが狼より一回りでかい。サーベルタイガーの様な大きな牙が口からはみ出すように生えている。
グルウウウウウウウウ!!
威嚇と共に牙の先端からビュルっと毒を出す。
「運がよかったな。タケル。全て倒せば報酬は金貨4枚だ。しかもベルウルフの牙はギルドで売れる。」
「これを運が良いと言いますか。死ななければだろ?」
「なに、依頼と数が違うことなど良くあることだ。特にコイツ等は群れる習性がある。」
俺達は互いに背中合わせで、ベルウルフ達と対峙している。
「ハァ…そういう事は先に言って欲しかったぞ。」
「それは悪かった。来るぞ!」
グガアアアアアアアアア!
最初の1体が口火を切り、次々襲い掛かってくるベルウルフ!俺はまず動きを観察し、その攻撃パターンを把握する。
こちらの喉笛を噛み千切ろうと口を使う。押し倒すために前足で飛び掛る。基本この二つ。毒を飛ばしたり、火を吹いたりはしないみたいだ。
狼との相違点はガタイのデカさと毒の牙のみ。確かに巨体は捕まれば脅威だが、その分遅い。身体強化の魔法は要らないな。自身の反射神経だけでかわせる。
グガアアアア! ヒョイ!
グウウウウウ! ヒョイ!ヒョイ!
スレスレでかわしつつ、挑発してみる。
「ヘイヘイヘ~イ!鬼さんこちら!」
一方、レイアは既に3体を倒し、4体目に取り掛かっていた。流石Aクラス。
「我が力、炎と成りて敵を撃て!ファイア・アロー!! 」
ゴオオオオオオオオオーーー!!
レイアの手から放たれた炎の矢が、ベルウルフに直撃する。
攻撃魔法だーーー!!人が攻撃魔法使ってるの初めて見た!
グガアアアアーーー! !
おお。燃えてる燃えてる。元が毛むくじゃらなだけに良く燃える。
「ふう…。」
構えていた剣をレイアは下ろした。
「タケルもそろそろ戦ったらどうだ?」
「あれ?」
ベルウルフはレイアの攻撃魔法にビビッたのか、彼女を避け、俺の周りに集まりだした。
「フッ、どうやらタケルの方が組みし易いと踏んだようだな。」
この根性なしども!!おまえらも魔物なら(?)当たって砕けんかい!
「仕方ないなぁ。」
俺は刀の柄を握り、低く構える。
「む…?」
攻撃態勢に入った俺の姿に注目するレイア。
グガアアアアーー!
3体のベルウルフの同時攻撃。
「ハアッ!」
シュバッ!ズシャーーー!
初手の居合いで1体を切り捨てる。2体目を袈裟斬り、3体目を斬り上げる。
残り4体。
「速い!」
「なぁ、レイア。さっき魔法使ってたよな?」
「…ああ。」
「威力はあれが最大?」
「いや、もっと、強い魔法も使えるが?」
「そうか。」
だったら俺が使っても違和感は無いはず。
「我が力、全ての敵を撃つ炎と成れ!ファイア・ボール!!」
イメージは火球。自動追尾機能付き。詠唱とか要らないんだけどね。レイアの見てたら、カッコイイから真似てみた。直径1メートルの火球が出来上がる。
ドゴーン!ドゴーン!ドゴーン!ドゴーン!
「全弾命中!トラ・トラ・トラ!」
「なに!?」
声をあげて驚くレイア。やべ!やりすぎた?
「タケル。」
「ナンデショウカ?」
「今の魔法はなんだ?威力も凄いが、4つ同時に発動。しかも敵を追い掛け回す魔法など、聞いた事がない。」
追尾機能が仇になったか。
「俺って普通の人より魔力が多いらしくてね。魔法は当てる自信が無かったから、追尾機能を追加しただけなんだけど。」
「なるほど追尾機能か・・・しかし我が国の魔法士でも、そんな都合の良い魔法は持たないぞ。」
さすが神の力。少しの力でも規格外の性能になってしまう。
「回復薬の件もだが、お前は賢者か?」
「いや、ただの一般人さ。それより敵は倒したんだ牙を拾おう。」
そそくさとベルウルフの死体に近づく。
後ろでレイアが「しかし…」とか「これなら…」とか呟いてるけど、気にしない気にしない。
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多少なりとも読んで下さる方がいると分かり、
作者は涙がちょちょ切れる思いです。