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第四十九話復讐とそれから…

とあるサイトで本作が紹介されていました。そこでは、


【特に他の異世界召喚モノと比べて特徴があるわけではないのですが、読みやすい文章で誤字脱字も少なく安心して読めるのがいいですね】

と書いて有りました。


本当に特徴不足でスミマセン!そして違うんです!誤字が無いのは読者の方々のご指摘の賜物なんですっ(滝汗)!


【更新が不定期なのがちょっと不満です】


遅筆で申し訳ない(土下座)!


こんな欠陥だらけの本作ですが、この度お気に入り数が4000件を突破。

これからも筆者と主人公共々ご愛好下さい。


アルベルリアとデイモート。二つの国の境界にある森で、一人の男が抜き身の刀を手に佇んでいた。切っ先からポタリポタリと鮮血が滴り、足元に広がる紅い海へと還っていく。


「やはり斬るならば魔物なぞより人に限る。」


男は斬り捨てた死体の山を見渡し薄く笑う。まるで成果を誇る狩人の如く。


「そうは思わぬかウズメよ。」


いつの間にか背後には女が立っていた。長く、ムラのない銀色の髪をした女だ。その特徴的な髪は、朝日に反射しキラキラと輝いていた。


だがそんな涼しげな姿とは逆に、表情は酷く険しい。


「まだこのような愚行を繰り返していたのですか…。」


女の声には落胆と軽蔑。そして僅かに郷愁の念が込められていた。


「愚行?己が業を振るうに賢も愚も無いであろう。在るのは血肉への渇望と生死の違いのみ。」


男は身勝手な持論を展開し、女の言葉を見当違いだと断じる。


「やはり貴方は剣鬼と成り果てた。少なくとも師は、生を弄ぶ行いを我らに授けてはいない。」


「フンッ!我が剣のサビとなった老人の戯言よ。」


「師を貶すとはそれでも武士の端くれか!」


男の侮蔑に激昂する女。彼女は腰に差した長物へと手を掛ける。鯉口を切り、今にも男を両断せんと身構えた。


「ククク…変わらぬなウズメ。相も変わらず真っ直ぐだ。」


女の反応を懐かしみ且つ嘲る男。彼は殺気を浴びてなお享楽の極みに居た。


「そして美しい。会わぬ間にもその美貌は磨かれたと見える。どうだウズメよ。俺の女に成らんか?共に血肉を斬り裂く快楽を貪り尽くそうではないか。」


「外道の誘いに靡く程腐っては居らぬ!」


男の誘惑を一喝にて押し退ける。


昔ならばその言葉に心動いたかもしれない。共に切磋琢磨した頃の、自分が憧れた兄弟子の言葉ならば。

だが今、目の前に居るのは外道に堕ちた狂人。そして同胞達の仇だ。己の背には彼らの無念と怒りが背負わされている。女は僅かに残った未練を振り払うように刀を抜き放つ。


「残念だ。我らはきっと良い連れ合いに成れたろうに…」


女に呼応し血にまみれた刀を構え直す。男の目にはもう、相手はただの獲物としか映っていない。


「ハアアアアッ!!」


男が上段から叩き付けるような一撃を浴びせる。女は半身でそれを避け横薙ぎに胴を打つ。


「フッ!」


男が下がり女の剣閃は空を切った。


「クク…やはり性根と同じ真っ直ぐな技だ。それでは俺は斬れん!」


男は女の兄弟子であり、その癖も太刀筋も知り尽くしていた。だから自信がある。自分が勝つと。斬る算段も付いていた。


「斬れぬかどうか試してやろう!父の!師の!同胞の仇!今こそ討つ!」


女が駆ける。二度三度と斬り結び、男は僅かに刀を弾かれた。


「勝機!」


勝負を決めようと女が刀を振るう。しかし男はニヤリと頬をつり上げた。


それは誘いだった。怯んだように見せかけ女を懐に誘う為の。体勢を崩したようでいて、その実、男の腕には女の身体を斬り裂くだけの余力を残していた。


「さらばだウズメ。」


男の刃が女目掛けて振り下ろされる。


「ゴフッ!な、何故…!?」


女が刀の餌食になる事は無かった。逆に男の背中からは刀の切っ先が伸びている。


大地に膝を着く男。口から出る多量の血が内臓の損傷を物語っていた。


「貴方が誘っている事は百も承知。それを逆手に取らせて貰いました。」


「フフッ…まんまと一杯食わされたか。」


自嘲気味に呟く男。


「確かに策は弄しました。ですが、昔の拙者ではあのまま斬り捨てられていたでしょう。勝てたのは貴方を追うこの二年の間に研鑽積んだ成果です。対して貴方はただ斬り易い者を斬るだけ…」


「確かに…な。稽古なぞ国を出てから数える程しかしてはおらん。フッ…敗因は自身の怠慢か。」


加えて女の成長が勝敗を分けた。女の太刀筋は、男が知るかつてのものとは段違いの鋭さを誇っていたのだ。


ドサリと地に伏す男。もはや身体を支える力も残ってはいない。


「お前の勝ちだウズメ…」


弱々しい男の声。対峙した時の生気は欠片も感じられない。彼の命が尽きるのは時間の問題だろう。


「だが…お前はこれからどう生きる?風の噂に聞いておろう。改革は成り…仕えるべき祖国は潰えた。今帰れば…お前も逆賊として処されよう。」


「分かっています。そして帰れば一族にも責が及ぶ。ならば拙者はこの地にて果てましょう。」


「ククク…それを知ってなお仇を取りに来たのか。不器用な女め。…ならば東へ向かえ。この大陸でもっとも勢いのある…異人にも寛容な国だ…。」


「何故そのような…」


「なに…成長を見せた妹弟子への手向け…だ。あの世にて…お前の生き様を…眺め…て……」


男が事切れる。女は刀を納め、虚空を見つめる男の目をそっと閉じた。


そして穴を掘る。兄弟子とその犠牲者を弔う為に。


全ての始末を終えた女は東へと歩き始めるのだった。






数日後、ウズメはアルベルリアのギルドに居た。フラフラと覚束無い足取りで何とか歩く。空腹だ。もうここ何日もまともな食事を取っていない。更に先立つ物も無いので、何とか食事代を稼がなければ。


「…ぬぅ…」


ギュルギュルと鳴る腹の虫に辟易としていると、不意に目先を掠める着流しの着物。


「そこな御仁…うっ!」


ウズメは久しく見なかった故郷の光景に反射的に振り返る。しかし急激な動きに身体が付いて行かず崩れ落ちてしまった。


「おっ?どうした?」


床に倒れる筈の身体が何かに受け止められた。意識が遠退く瞬間、その何かが呟く。


「猫耳?」


「猫ではなく狐でござ…りゅ…」


訂正を終え、ウズメの意識は闇に落ちた。






「うぬ…」


「あ、起きた。」


「ひゃっ!?」


目覚めると眼前に男の顔があった。唐突な出来事に跳ね起きるウズメ。フラつく頭をブンブンと振り我に返る。


「ここは?」


周囲は気を失った時に居たギルドではなく、見たことのない部屋…孤児院の談話室だった。


「ここは孤児院さ。いきなりぶっ倒れたから俺が連れてきたんだ。」


タケルの言葉で状況を知ったウズメはハッとする。脳裏に気絶する直前の事が過ぎり、目の前の人物が自分を介抱してくれたのだと思い至った。


「これはとんだご無礼を!」


佇まいを正し、寝ていたソファーの上で三つ指を付くウズメ。


「いや、そこまで恐縮しないでも良いぞ。」


ウズメの大仰な態度に若干驚きつつも、タケルは礼節をわきまえた相手だとウズメを評価する。


一応、彼女がどんな人物か判断が付かないため、子供達を近付けないでいたが問題は無いようだ。少なくとも悪人には見えない。


「拙者はウズメ・アマノと申します。東方よりこの地に参った流れ者で御座る。」


「俺はタケル・カミジョウだ。一応この孤児院の代表みたいなものだ。」


互いに自己紹介が済むとウズメはタケルに尋ねる。ギルドで見た時から考えていた事だ。


「不躾で申し訳ないのですが、タケル殿のその格好…もしやジャッポンのご出身では?」


「ジャッポン?ジャパンじゃなくて?」


「いや、ジャッポンで御座る。」


「うーん…」


タケルはウズメの格好を眺めながら思案する。男物の着物姿はまるで時代劇に出てくる侍のような出で立ちだ。腰に刀を差せばまさしくである。恐らくこの世界にも日本に似た文化を持つ国が在るのかもしれない。


「残念だけど違うな。この服はウズメの言うジャッポンと同じような文化を持った国の服なだけで、俺自身はジャッポンの出じゃないよ。」


本当はこの世界ですらないのだが、それを言ってもウズメが混乱するだけだ。タケルは遠回しにウズメの憶測を否定しておく。


「そうで御座るか…」


もしや同郷かと期待したウズメは落胆した。同時に頭に生える銀色の狐耳がヘニャリと力無く垂れ下がる。どうやら感情と同期しているようだ。


「可愛いな…」


「ん?何か申されましたか?」


「いや…何でも。」


頭にちょこんと乗っかるように生えた狐耳。時折ピクピクを動いていて、何やら琴線に触れるものがあった。


正直、撫で撫でしたい。


「それより腹が減ってるんだろ?今、うちの人間が飯を作ってるんだ。食っていけよ。」


「い、いや!それには及びません!そこまでして頂いては…。」


「いいから食っていけって。寝ている間もキュルキュルなってたぞ?」


「ぬぅ…。」


腹の音を聞かれていたのを知ったウズメが赤面する。まったく恥ずかしい所を見られた…いや、聞かれたものだ。武士として生きたウズメだが、中身は年頃の女性なのだ。それを同世代の男性に聞かれて平然としていられるほど達観してはいない。


やがて部屋には台所から食欲をそそる香りが漂ってきた。本来なら遠慮するべきだと思うものの、今のウズメには抗いがたい誘惑である。


「俺も食うからついでだ。遠慮するな。」


「では、ご相伴に預からせて頂きます…。」


本当ならまだ食事の時間ではない。タケルは自分が気兼ねしないよう気を使ってくれたのだろう。ウズメはその心遣いに感謝する。彼女には苦笑する目の前の青年がとても好人物に映るのだった。





「しかし何でまた、ぶっ倒れる程腹を空かせてたんだ?」


「はい…それなのですが…。」


食後、茶を飲みながらこれまでの経緯を語るウズメ。出された茶は緑茶。約二年ぶりに飲む故郷の茶だ。気分が和み、久しぶりに腹も満たされたせいか自分でも驚くほど口が回る。


ウズメが語ったのは自分が仇討ちの為にこの大陸へと渡った事、仇を討ち果たした事。そして何故行き倒れる程困窮していたのかだ。


「つまり仇討ちは成功したものの、路銀が尽きたと?」


「はい。ですがこれでも狩りは得意なのです。街に着くまでは獣を狩って凌ぐ算段でした。しかし何故かここ数日獲物に巡り合えず…。困り果てていたところ、行商人を名乗る者達の馬車に乗せて貰ったのですが、彼らは行商人とは名ばかり。隙を突いて拙者を売ろうと襲い掛かってきたのです。」


「そりゃ、不運だったな。」


「然り。なんとか追っ手は振り切ったものの、刀は置き去り…一生の不覚で御座った。」


今になって思えば仇討ちを果たした事で気が緩んでいたのかもしれない。


「しかしこうしてタケル殿に会えたのは天の助け。このウズメ。ご恩は必ずお返し致す。」


深々と頭を下げるウズメ。律儀な娘だ。一本気な性質なのがこれまでの会話で十分に伝わってくる。


「飯一食にそこまで畏まらなくてもいいさ。それよりこれからどうするつもりだ?」


「ふむ…一応ギルドにて仕事をこなし、態勢を立て直す心算で御座る。」


「故郷には帰らないのか?」


「いえ…拙者が戻れば一族に迷惑がかかりますので。」


一瞬寂しげな表情を浮かべ瞳が揺らぐのだが、タケルは敢えて深くは問い質さなかった。


「でも一文無しなんでしょう?ギルドの登録にもお金が掛かるわよ?」


途中、口を挟んだのは台所で洗い物を終えたリンだ。服の上からを纏うエプロン姿が板に付いている。誰が見ても美人な若妻だと思う事だろう。事実ウズメも彼女がタケルの妻だと誤解している。


「…う…。確かにお内儀の仰るとおりで御座る。」


「お内儀って、また古風な言い方ね…フフッ。」


ウズメの返事ににこやかに微笑むリン。こうして初対面の人間が自分とタケルを夫婦と誤解するのが、彼女のこのところのお気に入りである。


「タケル、貸してあげたら?登録料なんて大した額でもないでしょう?」


「あいや!それには及びませぬ!」


倒れたところを介抱してもらい、食事まで用意してもらったのだ。これ以上迷惑をかけることは出来無い。


「でも得物も無いんでしょう?」


「け、獣を狩って売れば幾ばくかは用意出来ます。」


「それじゃ宿代にも成らないわよ?」


「…野宿は慣れておりますので。」


「そんな生活で満足に働けると思う?」


「う、うぐぅ…」


どんどんやり込められていくウズメ。彼女の性格上、リンに口で敵うはずが無いのだ。タケルは冷や汗を掻くウズメに助け舟を出すことにした。


「まあ、ウズメ。お前の言う事も分かる。だからここは俺の依頼を請けてみないか?」


「依頼ですか?」


「そうだ。それなら対等だろ?」


「ふむ…。」


完全に情けを掛けられた状態ではあるが、それでも無償で金を借りるよりはマシだろう。


「女性が一文無しから稼ぐなんて、あとは娼館ぐらいのものよねぇ。」


「う、請けさせて頂くっ!」


リンの脅しにも似た後押しで提案を呑むウズメ。傍らではしてやったりとリンが微笑むのだった。


「して、依頼というのは?


「ああ、簡単だ。お前も刀を使うんだろう?」


「ええ。」


「俺と戦えばいいのさ。丁度練習相手が欲しかったんだ。」


「ほう…」


戸惑いと驚きの多かったウズメの相貌に、剣士としての生気がみなぎる。刀を失おうとも彼女は根っからの武人なのだ。


やっと新キャラが書けました。長かった…ずっと前から登場させたかったキャラなんです。


それと今回、新キャラ登場で些か勢いで書いた感が否めません。誤字等あればバンバンご指摘下さい。


で、でも優しくしてネ!

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