第四十七話緊張のタケルと恍惚のリン
戦闘シーンを期待した人ゴメンなさい
※時系列がおかしかったので修正しました。
コンサートからの順序は、
1日レイア→2日エリスお見舞い→3日リン→4日ユウ&セラ→5日ゲイル&ミアンです。
申し訳ないっす。
タケルとリンが転移した場所は、街の中でも倉庫が多い地区だった。商会が資源や資材を保管する場所で、長方形の小屋が幾つも立ち並んでいる。当然人気は少なく、良からぬ事を企むには絶好のポイントだ。
タケルは中の様子を窺う為、リリィが居るであろう小屋の屋根へと飛び上がる。
足音を殺し側面に開けられた空気口から中を確認した。
「居た居た。って…あいつかよ。」
倉庫内には見知った顔が二つ。一人はリリィ。猿轡を噛まされ床に転がされている。もう一人は以前にリリィに絡んでいたところをタケルに撃退された歌王子ことライトだった。
その他にガラの悪い連中がライトの周りでくだを巻いている。数は五人。楽に制圧出来る数だが、リリィに害が及ばぬようにリンと連携を取る事にした。
「これで良いんですかいライトの旦那。」
倉庫内でリリィを攫ったチンピラのリーダーが自慢気に成果を報告する。
「ああ、良くやった。お陰でまた客は俺の美声に酔いしれるだろ。」
気怠そうに髪を掻き上げながら報酬を渡すライト。それは彼がもっとも気に入っているポーズだ。この仕草と微笑みで数多くの女性を魅力してきたと自負している。
悦に入っているライトの足元ではリリィが彼を睨み付けていた。
殺されかねない状況で気丈に振る舞うリリィだったが、内心は恐怖に怯え今にも泣いてしまいそうだ。
「それでこの娘、どうしやす?」
「そうだな…お前達の好きにしろ。犯して殺すか、何処か余所の国に奴隷として売っても良い。とにかく楽団に戻って来ないようにしろ。」
冷酷に言い放つライトに周囲の男達はニタリといやらしく笑う。
「犯るなら先ず俺からだ!一度この女を犯ってみてぇと思ってたんだ!」
「馬鹿野郎!最初に犯るのは俺だ!」
「てめぇからだとすぐ壊しちまうだろうが!」
チンピラ達の会話に青ざめるリリィ。そんな時、倉庫の扉が開け放たれた。
「こんにちは~」
「だ、誰でぇ!?」
扉の前に立っていたボブカットの美女に、倉庫内の全員が注目する。
「アンッ…もう…そんなに怖い顔しないでよぉ…」
ツカツカと歩み寄る女性。
「お兄さん達、何してるのぉ?こぉんな辛気臭いとこに居ないで…私とぉ…楽しまない?」
ほっそりとした腰に手を当てて妖艶に微笑む。
「ほぉら…」
スカートの端をつまみゆっくりと引き上げる。スネから膝、膝から太股へと徐々に露わになる脚線美。
「お、おぉ…」
誰かがゴクリと喉を鳴らす。
「へへ…どっかの娼婦か?イイぜ、丁度金も入ったところだったんだ。」
「んふふ…そうなの?それじゃ…」
チンピラの一人が彼女の射程圏内に入った瞬間、男を魅了してやまない美脚が凶器へと変貌する。
「逝きなさい!ただし一人でね!」
「ぐほっ!」
視線を釘付けにしていた脚は鋭く跳ね上がり、男の顎を蹴り砕いた。
「なっ!?どういうつもりだ!」
「こういう事。」
「あっ!?」
後ろから声を掛けられ混乱する。
男達がリンに意識を取られている間に、タケルがリリィを助け出していた。
「久しぶりだねぇライト君?」
「ひっ!お、お前は…」
ライトの脳裏に先日の恐怖が蘇る。
「尻の火傷はもう治ったかな?」
ニッコリ笑いかけるタケル。ただし目は笑っておらずライトは怯えながら後ずさった。
「誰だお前!勝手に入ってきてデカい態度してんじゃねぇぞ!」
タケルと面識の無いチンピラ達は、恫喝し武器を構える。相手がどれだけ恐ろしく理不尽な存在が知らずに。
「ぐふぅ…」
「いてぇ…」
十秒足らずでリリィを攫った者達は床の上に転がっていた。息はある。しかし誰もが気絶するか立ち上がれない程に打ちのめされていた。
「さて、歌姫様を解放しますか。」
拘束を解かれたリリィは、一直線にタケルの胸へと飛び込んだ。
「ダゲルざぁん!怖がっだでずぅ~!」
「おっと…よしよし。もう大丈夫だぞ。」
泣きじゃくるリリィの頭を撫でてあやすタケル。孤児院に来てからというもの子供の扱いに慣れたような気がする。
ひとしきり泣いたところで、漸くリリィが落ち着きを取り戻した。
「そろそろ公演が始まるな。いつまでも泣いてると客に心配されるぞ?」
「は、はい…」
公演と聞き、リリィは涙を拭いて顔を引き締める。思いのほかプロ意識は高いようだ。
転移で会場に戻ると三人は直ぐに事の次第を楽団長に報告した。
「そんな事になっていたのか…。」
「犯人達はまだ倉庫で気絶している。後の事はそちらに任せるぞ。」
「ああ。済まない。直ぐに衛兵に連絡する。」
話を聞いた楽団長もさすがにライトの所業に腹を据えかねていた。恐らく捕らえられ半年以上は国での奉仕義務が課せられるだろうとの事だ。
「しかし困った。ライトはあれでもうちのメインだ。人気が出てきたとはいえ、リリィ一人で穴が埋まるかどうか…」
「あのぅ…楽団長。それなら私に一つ提案が有るんですけど。」
リリィの提案はかなり突拍子も無いものであった。
「あのな…リリィ、何故俺がステージに居るんだ?」
「もちろんタケルさんに歌って貰う為です。」
「素人だぞ俺は?」
「大丈夫です!タケルさんの歌なら皆喜んでくれますよ。」
「ハァ~~」
ステージ脇でギターを肩に下げているタケル。彼はリリィの推薦によって公演に参加する事となった。
「うふふ、頑張ってねタケル。」
話し合いに参加していたリンも乗り気で止める事は無く、むしろリリィと共に出演を求める側に回っていた。
孤立無援となったタケルは渋々承諾。そして現在に至る訳だ。
「しかし、こんな人前で…」
ステージ脇から観客席を覗き込んだ瞬間、タケルの顔から血の気が引く。想像以上の人集りに眩暈を催した。
考えてみれば今までの人生でこれほど多くの人の前に立った事がなかった。逆に人目を忍んで動く事が常だったのだ。
「悪い…リリィ、やっぱ無理。」
「そんな、ここまで来てそれは無いですよ。」
「無理だー!あんなに視線浴びて演奏なんか出来ねぇって!」
「お城では歌ってたじゃないですかー!」
「あれは酒入ってたし宴会芸だっ!」
ステージの柱にしがみ付くタケルとそれを引っ張るリリィ。
公演のオープニングセレモニーの脇で、二人はコントじみたやり取りを繰り広げていた。
「本当に勘弁してくれ!緊張で指が動かん!」
「そんなぁ…」
「ハァ…仕方ないわね。タケル、こっちに来て。」
リンがだだをこねるタケルをステージの裏へと呼び寄せる。
「少し待っててリリィ。タケルの緊張を解してくるから。」
「お願いします!十分後には出番ですから!」
ステージの裏に回ったタケルとリン。
「少し驚いたわ。タケルでも緊張するのね。」
「自分でもビックリだよ。まさか人前に立つのがあんなに緊張するとは…」
タケルが憔悴した様子で壁を背にもたれ掛かる。
「クスクス…」
リンとしてはタケルの違う側面が見れて少し嬉しかった。それは弱味では有るが幻滅には繋がらない。逆に親近感が湧くくらいだ。
「でもこれじゃ演奏どころじゃないわね。」
「リン?」
「静かに。じっとしてて…お姉さんが…緊張を解してあげるから。」
ね?と片目を瞑りながらリンはタケルの前へと跪いた。
そして…緊張で強張った場所をそっと口に含む。
「お、おふ…」
「さあ、続きましてはカミジョウ・タケルの登場です!知らない方も多いかとは思いますが、彼は先日王宮でもその歌を披露し高い評価を受けた逸材です!さらには人気急上昇中の歌姫、リリィの師でもあります!一風変わった彼の曲の数々をとくとご覧下さい!」
「うおおおおおおっ!アルベルリア!俺の歌を聴けっ!」
十分後、緊張から解放されたタケルが意気揚々とステージへ挑む姿があった。
登場直後こそ困惑や野次が飛んだものの、タケルが歌い始めるとそれらは直ぐに収まった。リリィや楽団長から見ても客の反応は上々である。
「あぁ…やっぱりイイわぁ!歌ってるときのタケルの切なげな顔…最ッ高だわ…」
ステージ脇ではリンが身体をクネらせていて、ウットリと恍惚の表情。ご満悦である。この公演を一番楽しんでいるのは間違い無く彼女だろう。
「堂々としてますねー。さっきまであんなに緊張してたのに。どうやったんですかリンさん?」
「ん?ウフフ…ヒミツよ。」
ぽってりした厚い唇をチロリと舐めるリン。その仕草は同性のリリィから見てもゾクリとさせられる色気を放っていた。
どうやって緊張を解したかって?
いやん!そんなの作者の口から言える訳ないじゃないっ!