第四十六話行方不明
PCの機嫌が良いうちに投稿しとこ。
「何故だ楽団長!俺はこの楽団のメインだぞ!?看板歌手の出番を削るとはどういうつもりだ!」
「だから言ってるだろう。他の団員にも経験を積ませる為だと。」
悠久の唄の楽屋裏で、楽団長に詰め寄っている男が居た。男はライトという。
彼は演目の変更で自分の出番が減った事に腹を立て、楽団長に異議を唱えているのだ。逆に最近自分と人気を二分しているリリィの出番が増えているのも気に入らない。
「アンタの魂胆は分かってる!今回の公演でリリィの奴を売り出すつもりなんだろう!?もしやアイツをメインに据えるつもりか!」
「確かに問題ばかり起こすお前よりは、あの子の方が良いかもしれんな。最近は人気にかこつけて客に手を出すばかりで、ろくに楽器にも触っていないだろう?」
「くっ…」
楽団長の言葉にたじろぐライト。彼は以前貴族の令嬢に手を出して手痛い失敗をしている。もう少しで首が飛ぶところを楽団長に取りなして貰ったのだ。しかし未だに懲りていない様子だ。
「最近は良からぬ連中とも付き合っていると聞いてるぞ。歌王子なんて持て囃されるのは今だけだ。もっと息長くやって行きたいなら、これからは腕を磨くんだ。」
「説教は聞き飽きたぜ。」
悪態を付くとライトは踵を返し楽屋を後にした。
「楽団長?」
「リリィか。」
楽器を抱えたリリィが顔を覗かせる。騒ぎを聞きつけて様子を見に来たところだ。
「またライトですか?」
「ああ。まったくしょうがない奴だ。才能はともかく、あの性格じゃいずれ足を掬われるぞ。」
「……。」
「クソッ!最近は腹の立つ事ばかりだぜ!」
楽団長との口論の後、ライトは行きつけにしている酒場で愚痴をこぼしていた。
彼の荒れる要因は多々ある。
貴族の令嬢に手を出した失敗や楽団長からの説教等々。だが何よりも、着実に人気を獲得していくリリィへの焦燥感だ。
全て実から出た錆なのだが、利己的に凝り固まったライトにはそれらを省みる事は無かった。
「よぉ!ライトの旦那じゃねぇか。どうしたんだい昼間っから一人酒たぁ、らしくねぇじゃねえか。」
「ふんっ。お前らには言われたく無いな。」
不機嫌そうに酒を煽るライトに声を掛けたのは風体の悪い男達。
彼らは荒事を得意としていて、羽振りの良いライトから甘い汁を吸う代わりに自慢の腕を振るってきたチンピラである。
これまでもライトの女性関係のトラブルや他のチンピラとのゴタゴタなど、いずれも暴力や恫喝という名の手段を用いて彼に協力してきた。
楽団長の言っていた「良からぬ連中」とは彼らの事である。
さすがに貴族の令嬢とのトラブルには手は出せなかったようだが。
「ひゅう!荒れてんなぁ。まだあの令嬢と拗れてんですかい?」
「チッ…そうじゃねえよ。」
「ライトの旦那には贔屓にして貰ってますからね。悩み事なら俺達が引き受けますぜ?」
ニタニタと不快な笑いを浮かべ椅子に腰掛ける男。
「……だったらやって貰おうじゃないか。」
「あん?」
ライトは黒い笑みを浮かべ男の器に酒を注いだ。
しかし彼は失念していた。つい数日前に遭遇した理不尽な存在に。
-タケル・リンside-
「さあ!行くわよタケル!」
「テンション高いなお前。」
「せっかくのコンサートだもの。楽しまないとね。」
リンが上機嫌なのは何も公演のせいだけではない。朝、二度寝前にした告白のようなやり取りが気分を高揚させている原因だろう。
彼女としては公演でムードを盛り上げてから告白へと移るつもりだったが、タケルのあまりの鈍感さに焦らされた結果、勢い任せに想いを告げてしまったのだ。
だがそれも誤差の範囲内だ。
むしろ自分を友人でなく女として意識してくれる分、良い雰囲気を作ってくれるであろう公演は効果的かもしれない。
そして夜は何処かの宿屋で甘い逢瀬を…と目論んでもいる。しかしレイアとの戦線協定を破る訳にもいかない。難しい所だ。
「おや?奥さん、今日はお出掛けかい?」
孤児院を出て直ぐ、近所に住む顔見知りの老人が二人に声を掛けてきた。彼はタケルがユウ達孤児と出会う前からユウ達を気にかけていた好好爺だ。
「ええ、これから広場で開かれる公演に。」
リンは自分が妻であるという老人の認識を敢えて訂正せずに答える。
これで夫婦と間違われるのは二度目。一度目はリリィだ。もしや第三者からはお似合いなのかもしれない。
老人の勘違いにタケルは微妙な顔をしていてたが、特に訂正はしなかった。
それなりに憎からず思われてはいるようでリンは表情を綻ばせる。
老人とは二、三世間話の後、二人は広場へと歩みを進めた。
広場に近付くと周囲では様々な出店が開かれている。
「あれは…」
ウィンドウショッピングのノリで出店を回っていると、急にタケルが怪訝な顔をする。
「どうしたの?」
視線の先では何かを捜すように、周囲をキョロキョロと見回す中年の男性が居た。
何かを探しているようで、よく見れば他にも数人、同じように辺りを探す者達が居る。
「ふぅん…知り合い?」
「知り合いって程じゃないんだがな。嫌な予感がするな。」
こういう場合タケルの勘が外れる事はまずない。過去の不運体質の影響で危険を察知する感性が磨かれた結果だ。
「ちょっと良いか?」
「構わないわよ。」
男性を追っていくと、着いたのは楽団の控え室だった。
「まだ見つからないのか?」
「はい。心当たりの有る場所には行ってみたんですけど…」
「もう直ぐ開演なのに、一体何処に…」
控え室から聞こえてきた深刻な声に首を傾げつつも、タケルとリンは中へと入る。
「邪魔するぞ。」
「誰だね。ここは関係者以外は立ち入りを禁止している場所だぞ。」
焦りからか語気の荒い楽団長の様子に、やっぱり何かあったなと確信するタケル。
「俺はリリィの友人さ。少し様子を見に立ち寄ったんだが。」
「おお!それではリリィが何処か知らないか!?もう直ぐ本番だというのに、リハーサルにも顔を出さなくて心配していたところなんだ。」
楽団長が身を乗り出して尋ねるが、会いに来たタケル達が知る筈もない。首を横に振る二人に落胆する。
「一体何処に居るんだ?」
「まさか浚われたのか?」
「確かに有り得るな。」
客の中には演者を好色な目で見る者も居る。その中の一人が暴挙に出る可能性は否定できない。
「もう一度探すんだ。次はもっと範囲を広げてだ!裏路地や人目に付きにくい場所をだぞ!」
最悪な結果を想像した団員達が慌ただしく控え室を飛び出した。
「済まないが君達もリリィを探してくれないか?今日みたいに公演に遅れる事は一度も無かったんだ。あの娘は真面目で才能もある。ここで終わらすには惜しい娘だ。」
楽団長は二人にそう言い残しリリィ捜索に向かった。焦っていたのだろう。タケル達部外者を残し控え室はもぬけの殻だ。
「心配ね。大丈夫かしら。タケル、心当たりは?」
「無いが、探す手は有るさ。」
タケルは懐から取り出した街の地図をテーブルに広げる。
「我が魔力により、友の居場所を示せ。サーチ!」
手を翳した地図に赤い光が点灯する。
「ここにリリィが?」
「ああ。あまり治安の良い場所じゃないな。急ごう。」
二人はリリィの無事を祈りつつ転移した。
何だろう、三人称の方が筆が進む。当分これで行こうか?