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第四十五話感謝

今回糖分多めです。

「ううーん……ん?」


「ウフフ…おはよタケル…」


朝、目覚めて最初に俺が見たのはリンの顔だった。それも起こしに来たのでは無い。何故か俺の横で同じ布団の中に入っていたのだ。


「ぐう…」


「こらー寝るなー。」


グニグニと俺の頬を指で突っつく。


「えいっ!」


こら、脚を絡めるな。


「今日は公演に連れて行ってくれる約束でしょ?」


「張り切り過ぎだ。時間潰そうにもこんな朝からじゃ店もやってねぇよ。」


こっちにはコンビニが有るわけじゃないし、開いてるとしたら朝市くらいのもんだ。


「ま、そりゃそうね。」


俺の指摘に頷くリンは、再度身体を横にした。


「お前も寝るんかい。」


「だってタケルったら気持ち良さそうに寝てるんだもの。私も眠くなっちゃた。」


こいつ、いつ来たんだ?段々忍び込むのが上手くなってる気がする。


「あふっ…9時になったら起こしてぇ。」


隣で眠ろうとするリン。少し無防備過ぎやしないか?

彼女は俺が創ったネグリジェを着崩したような格好で、綺麗な首筋のラインを見せている。もう少し男が危ない事を知った方が良いと思う。


「リン、男の寝床に入り込むのは止めたらどうだ?いつか本当に襲われるぞ。」


「平気よぉ…これでも組み手もそこそこやるんだから。」


「それが毎回通じるとは限らないだろうが。」


俺は布団を剥がしリンに覆い被さる。


「……あっ!」


「くっくっく!こうやって押さえつけられたら抵抗出来まい。」


リンの両腕を押さえ付け、獰猛な笑みを浮かべてみせる。


「フッッフッフ。男が獣だと分からせてやろうか。」


「そうね…。確かに私もタケルが相手じゃ敵わないわね。」


……あれ?


えらく神妙だな。いつもなら含み笑いでもしながらあしらいに掛かると思ったんだけど。


「それでどうするの?このまま押さえ付けるのが獣のやり方?」


「も、もちろんこの後…泣き叫ぶリンを犯してだな。…無理矢理…俺の女にしてやるんだよ。」


「ん…良いわよ…。」


はい?


「だから犯すんでしょう?タケルが私の身体を散々弄んで…自分のものにするんでしょ?」


「あの…リンさん?」


「きっと色々変態的な行為を強要されて、肉欲の限りを尽くされるのね。孕まされちゃうかもしれないわ。そして飽きたら路地裏に捨てられて…」


「ちょっと待てー!誰だその鬼畜野郎は!そこまで言ってねぇよ!」


「クスクス…冗談よ。」


リンがいつもの調子で微笑みイタズラっ子のように舌を出す。


すっかり毒気を抜かれた俺は、リンを解放するとベッドに体を沈めた。


「ハァ…もう良いや。」


ちょっと脅かして注意を促すつもりが、すっかり手の上で転がされてしまった。


「ねぇ、タケル?私だって誰にでもこんな事をするわけじゃないのよ。アナタだからこうして忍び込んだりするの。その辺り分かってる?」


「ん?そりゃ1人でこんな異世界に放り込まれたんだ。不安にもなるよな。」


「全然分かってない!」


「うおっ!」


リンに襟首を掴まれ押さえ付けられる。さっきとは真逆の体勢だ。

間近にリンの顔が迫る。からかっていた時とは打って変わって、彼女の表情はいつに無く真剣だった。


「あんまり鈍いからはっきり言うわね。私は貴方が好きだから部屋に忍び込んだり、襲っても良いなんて事を言うの。決してからかってやろうなんて思ってる訳じゃないのよ。」


「えーと……リンが俺を好き?そう言ってるのか?」


思いも寄らぬ告白だった。


「そうよ。好き。大体考えてもみなさいよ。あっちの世界で2回。こっちの世界でも2回助けられたんだもの。そりゃ惚れもするわよ。」


「いや、その…スンマセン。」


何だか俺の方が悪いみたいだ。助けたのに。


「以前、私がテロ組織に捕まった時も助けてくれたわよね。肩に銃弾を受けてまで…」


「そんな事あったなぁ。」


まだ地球に居た頃の話だ。


「見捨てれば怪我なんかしなかったのに。」


「いや、でもあれは俺の不運が招いた事で、リンとは関係無いし。」


「お陰で助かったのは事実よ。」


「ふむ…」


しかし惚れられる程の要因には思えないのだが…。というか、2回?


「おい、リン。こっちで助けたのって奴隷にされてたときだろ?何で2回なんだよ。」


「ああ、2度目は宿屋でよ。」


「宿屋?」


「腕…貸してくれたでしょ?」


「寝るときの事か?あんなの助けでも無いだろ。」


「ふふっ、不安だった私にしてみれば、凄く嬉しかったの。体じゃなくて心を救ってくれたってトコかしら。」


そういうもんかねぇ。


「今にしてみればあのとき抱かないでくれて良かったわ。どうせなら、ちゃんと私の気持ちを知ってから抱いて欲しいから。」


「……。」


「ね…タケル…貴方は?私の事好き?恋人にしたい?」


「俺は…」


答えが出なかった。


リンは俺の数少ない知り合いの中でも親しい人間だ。けれど女としてとか、恋人としてか、そういう感覚が俺には未だ分からない。


前の世界ではそれどころじゃ無かったからだろう。有る意味、今回ほどかつての自分の体質を恨んだ事は無いかもしれん。まったく二十歳にしながら恋愛経験ゼロとは情けない話だ。


それにレイアとの事も有る。彼女からも想いを告げられて未だ宙ぶらりんの状態だ。こんな状況で安易にリンに答えるのはどちらにも不誠実だと思うのだ。


「答えられないんでしょ?」


長らく無言が続いた俺はリンに図星を指される。


「悪い。」


「ふふ…やっぱりね。」


リンは不甲斐ない俺を責めるでも無く、むしろ柔らかく微笑みかけてくれた。


「分かってたのよ。不運体質は改善したけど、やっとまともな人間関係を築けるようになったばかりなんだから。そこに突然2人から告白されても答えられないわよね。」


「ああ。2人の気持ちは正直嬉しいけど…って、何でお前がレイアとの事知ってるんだ!?」


盗聴器でも付けてやしないだろうな。無いか。そんなもん。


「貴方達が公演に行った日の夜に、本人が念波で報告して来たわよ。」


「ぬがっ!」


「何か誰かに話さないと居ても立っても居られないって感じでね。」


「まさか喧嘩とかしてないよな?嫌だぞ俺が原因で仲違いとか。」


「してないわよ。それどころか私達、戦線協定結んだんだから。お互いに抜け駆けは無しってね。」


俺の預かり知らぬ場所でそんな話が進行していたとは。恐るべしガールズトーク!


「タケル、今はまだどちらにも答えなくて良いわ。ゆっくり私やレイアの事を知って、愛しいと思えたら、そのときに答えてくれれば良いから。だけどこれだけは約束して。」


リンは声のトーンを落とし、真剣な口調になった。


「どちらか一方に気を遣って答えないのは無しよ。私もレイアもタケルがしっかりと考えて出した結論なら受け入れる覚悟は有るから。例え自分が報われなくてもね。」


「…分かった。」


断る相手を下手に気遣えば優しさが仇になる。リンは言いたいのはそういう事なのだろう。


「ん。宜しい。じゃあ、キスしましょうか。」


「はい?」


最後の意味が分からん。何故キス?


「だってレイアとはしたんでしょう?1度目は魔力風邪だっけ?治療の為らしいけど、2度目はしっかりと想いを告げてしたそうじゃない。」


「まあ…そうだけどさ…」


「だから…ね?平等に私ともして。」


「いや…けど、こんな連続でってのは…」


俺が女を誑かす酷い奴みたいじゃないか。


「むう…四の五の言わずやらせなさい!」


「ちょっと!」


強引に唇を重ねてくるリン。まるでこっちが襲われてるみたいだ。


「んっ…チュッ…んふっ…れる…んる…」


こいつ舌入れてきやがったー!


差し込んだ舌で、俺の口内を隅々まで掻き回して、おまけに唾液まで飲ませてからやっと離れるリン。


「…ふぅ…ご馳走さま。」


「やり過ぎだろ。もう少しで本当に押し倒すとこだ。」


「それは残念。」


まったく…敵わないな。


「ムラムラした?」


「うっせ!俺は寝るぞ。起きるのは9時だったな。」


手玉に取られた上に気恥ずかしさもあり、不貞寝する。


「タケル…また腕かしてくれる?」


無言で差し出すとリンはそれを抱き締めた。


「リン。」


「ん?」


「ありがとうな。」


「クス…あのときとは逆ね。」


俺はリンの優しさと気遣いに感謝しながら目を閉じた。



一番タケルを理解しているのは彼女かもしれませんね。

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