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第四十四話お見舞い

次はリンの出番と思ったあなた。ハズレです。


レイアとの仲が進展した前回ですが、私的には今回の方が好きかも。

「ぬぅ…暇じゃのう…」


レイアの妹である第二王女エリスは、寝間着姿で自室のベッドの上に居た。正確には体はベッドに接して居らず、1メートル程宙に浮いている。

暇潰しにタケルから教わった浮遊魔法を使っているからだ。姉に使用は禁じられているが、自室ならば余人に見られる心配も無いだろう。


盲腸の手術は経過も順調で、暫くは静養する事になっている。勉強をやらなくて済むと一旦は喜んだものの、じっと横になっているだけなので直ぐに飽きてしまった。


「そういえば昨日、姉上はタケルと楽団の公演に行ったそうじゃの。ふふふ…仲睦まじくて結構結構。」


二人をくっつけようと画策しているエリスとしては、この上なく良い方向に進んでいた。


だが今は二人の仲よりも、公演の事の方が重要だった。


「妾も行きたいのう。というかこの暇が失せるならば何でも良いわ。」


暇だ暇だとぼやきながら寝間着で部屋を漂う姿は、ちょっと外では見せられないようなだらしない格好だ。


コンコン…


「むっ!?」


扉がノックされると、エリスは病人とは思えない素早さでベッドに滑り込んだ。


「エリス、私だ。」


「どうぞ姉上。」


部屋を訪ねてきたのはレイアだった。浮いているのを見られれば叱られるので間に合って少しホッとする。


「体調はどうだ?」


「問題ありませんぞ。ですが少々暇を持て余しおります。」


「フッ…ならば早く治す事だ。」


「ふむ…」


エリスはレイアの態度に違和感を覚えた。レイアの微笑みが優しげだったのだ。


いや…いつも自分に対しては優しいのだが、昨日からその笑みにそこはかとなく浮かれたものを感じていた。

それは肉親にしか分からないような僅かな差異だが。


「姉上、何ぞ嬉しい事でもありましたか?」


「む?何故だ?」


「昨晩から姉上が妙に嬉しそうに見えたものですからの。」


「そうか?いかんな。気が弛んでいるのか?部下に示しがつかんな。」


レイアは顔の筋肉を引き締め直していた。

まぁ、姉を敬愛する兵達ならばその笑みで有る意味イチコロだろう。と、エリスは内心呟く。


「さて、私は詰め所に戻るとしよう。」


「もう行ってしまわれるのですか?」


話し相手が居なくなり、また有閑地獄になるのを懸念したエリスが顔を曇らせる。


「昨日は休暇を取ったせいで仕事が溜まっているのだ。昼頃にはまた来くる。それまで大人しくしているのだぞ。」


いつものようにエリスの頭を一撫でするとレイアは部屋を出て行った。


ポツンと一人取り残された気分のエリスは更に呟く。


「…暇じゃ。」





昼になると約束通り姉は顔を見せたが、多忙で直ぐに仕事へと戻ってしまった。


「ぬ~~何もせんのがこれほど辛いとは思わなんだ。」


部屋での静養にいい加減嫌気が差した頃、ノックの音が聞こえてきた。それも扉とは逆方向。窓の方からだ。


「ん?おおっ!」


窓から訪れた救世主をエリスは満面の笑みで迎えた。






-タケルsideー


レイアとのキスという大事件の翌日、俺は朝からユウに稽古を付けていた。


「刀と木刀はやっぱり感覚が違うだろ?」


「そうですね。木刀より軽いですから振り易いですけど。」


今回はユウに刀の扱い方を伝授している。刃物は間違った使い方をすると思わぬ事故にも繋がるからな。それにユウの使う刀は俺が創造した特別製で扱いにはいっそう注意が必要だ。


「重い木刀を振ってたからそう感じるのさ。良かったな。素振りの成果が出て。」


「そりゃあれだけ振らされて成果が出なかったら落ち込みますよ。」


「そんじゃまぁ、試しに何か斬ってみるか。」


キイィーーン!


俺は試し斬り用に案山子を幾つか創造する。


「よし。斬ってみろユウ。」


「はい!実はそろそろ使ってみたかったんですよ。」


ユウは嬉しそうに刀を構える。


「どんな形でも構わないからな。一刀で真っ二つに出来たら今日の修行は終わりで良いぞ。」


まだ無理だろうけど。


「本当ですか!?」


「ホントホント。セラと遊びに行くも良し、一日中昼寝してグータラしても良しだ。」


「やった!約束ですよ。」


意気揚々と案山子に向かうユウ。刀を抜き放ち上段に構え振り下ろす。


「でやあああああっ!!」


ザクッ


「あ、あれ?」


残念。


ユウの刀は案山子に当たるも刃が食い込むだけで、途中で止まってしまった。すると案山子の頭からポンッ!と旗が飛び出した。


旗にはこう書いてある。


『下手クソ』


「ちょっと師匠!中に鉄でも仕込んでないでしょうね!?あとこの案山子腹立つ!」


「仕込むか!この案山子はな。試し斬られ君DXといって、ちょうど人間と同じ位の耐久力の特別製なんだぞ。」


「じゃあ何で斬れないんですか。」


「力み過ぎだ。斬るときに体の軸がブレて、上手く刀に力が伝わってないんだよ。それに刀は剣とは違うって説明したろ?叩き斬るんじゃなくて切り裂く感覚だ。」


「違いが分からないですよ。どっちも斬るんでしょう?」


「そこは感覚を体で覚えろ。」


「む~~~。」


俺の解説に納得がいかないのかむくれるユウ。


「ちなみに達人になれば、刃のない木刀でも斬れるんだぞ。」


「えー!さすがにそれは無理でしょう?刃が無いのにどうやって斬るんですか。」


「刀を超高速で振れば良いんだよ。」


「またぁ。もう騙されませんよ。」


信用してないなコイツ。


「仕方ないな。手本を見せるから参考にしろよ。」


俺はユウの木刀を持って案山子に向かう。


「フッ!」


ズバッ!!


袈裟斬りにした案山子の上半身が地面に落ちる。残った下半身からまたもポンッ!と旗が飛び出した。


『いよっ!世界一!イケメン!キャー!抱いてぇ~!』


「……何か虚しいな。」


このギミックはもう止めとこう。悲しくなってくる。


「参考になったか?」


「…無茶言わないで下さいよ。速すぎて見えませんでした。今度はもっとゆっくり斬って下さい。」


「お前が無茶言うな!」


俺は超能力者じゃねぇ。





ユウには練習用の試し斬られ君DXを大量に作って自習させておき、俺は昼からは城に向かった。目的はエリスの見舞いだ。


「出来ればまだレイアには会いたくないな。」


どんな顔で会えば良いのか未だに分からないからだ。


城に入ると俺はレイアと鉢合わせしないように回り込み、外からエリスの部屋の窓をノックする。


「ん?おおっ!タケルではないか!暇で暇で仕方なかったのじゃ!さあ!早よう中へ!」


思ったより元気…というよりも元気過ぎるエリスに招かれ部屋へと入る。


「しかし何故窓から来たのじゃ?お主ならば使用人も直ぐに取り次ぐであろうに。」


「いやまぁ…そこは気にするな。それより元気そうだな。」


「うむ…しかしいかせん退屈で仕方無い。全く…こうもじっとしていては苔が生えてきそうじゃ。」


「そう思って楽器を持ってきた。前に歌を聴かせてやるって約束したしな。」


用意していたギターを見せると、エリスの表情がパッと華やぐ。


「おおっ!それは願ってもない事じゃ!」


実はリリィの公演に影響されて俺も演りたくなったんだよなー。


「どんなのが聴きたいんだ?」


「明るいのが良い!」


「ん、了解。いくぞ!」


俺はギターをかき鳴らした。







―エリスSIDE―


タケルが妾の為に歌を歌ってくれた。聴いているだけで楽しくなるような元気で明るい曲じゃ。


共に歌おうかとも思ったが、知らぬ曲であるし傷に響くので大人しく聞き入っていた。


「~♪~♪~…って感じかだな。」


パチパチパチ!


「良い歌じゃのう。楽しかったぞ。」


妾は手を叩いて称賛を送る。何より妾の為に歌いに来てくれた事が嬉しかった。


「次は何が良い?」


「そうじゃの…今度は逆に静かで綺麗な曲が聞いてみたいのう。」


「バラードか。良し…」


~♪~♪~♪~♪


タケルは手にした楽器を指で爪弾く。先程のかき鳴らすのとは別の奏法のようじゃ。一本ずつ弾いた弦がそれぞれの音を発し、重なり合う事で美しい旋律を生み出していく。


「♪~♪~♪~♪~♪」


タケルが伸びやかに歌い始めた。






「どうだった?」


曲が終わり余韻に浸る妾にタケルが感想を尋ねる。


「綺麗な曲じゃな。しかし…少し、物悲しいというのかの?切ない気持ちにさせるのう。」


妾の言葉にタケルがクスリと笑う。


「この曲は作曲者が恋人を失った時の想いを元に作った曲だからな。」


「成る程…切ないのう。歌詞は異国のものでまったく分からぬが、人が抱く想いには通ずるものがあるという事じゃ。」


「だなぁ。」


曲の雰囲気に呑まれたのかしんみりとした空気が漂う。


「しっかし選曲が悪かったな。こりゃお見舞いには合わない曲だったわ。」


バツの悪そうにポリポリと頭を掻くタケル。そんな姿が妾には妙に可愛く見えたのじゃった。


「ときに、タケルよ。お主はどんな女子が好みじゃ?」


「ん?唐突だな。好み?」


「例えば年上と年下。どちら好みじゃ?」


「好みねぇ…」


やはり年上か?姉上やリンとタケルと近しい者は皆年上じゃからの。


「うーーーーん……分からん。」


暫し間を置いてタケルが出した答えは不明瞭極まりないものじゃった。


「なんじゃそれは。ハッキリせん奴め。」


「そう言われてもな。俺は色々あって今まで極端に人と接する機会を制限されてたんでな。」


恋人どころか友人が出来たのも最近だと笑うタケル。こやつ…一体どんな生き方をしてきたのじゃ。


「兎に角そういう訳で、好みと言われても良く分からないんだよ。」


「そうか。ならば妾が年下というものがどんなものか…教えてやろう。」


身を乗り出し、妾はタケルの口元に唇を寄せ…。


ガシッ!


唇を寄せて…


グッ…


「何をする~~!!」


妾の顔はタケルの手によってそれ以上進む事を阻まれた。


「うるせっ。俺に幼女趣味は無いわ。嫁入り前の娘が軽々しくそういう事するんじゃねぇよ。もっと大事な時に取っとけ。」


「ぬぅ…」


ならば乙女の顔面を鷲掴みにするのは良いのか。甚だ疑問じゃが、妾は一先ずタケルから離れた。


「妾はこれでも各国の王族・貴族の子息からはたびたび縁談の誘いが来るのじゃぞ?」


「でもレイアより少ないんだろ?」


「ぬぐっ!」


この卑怯者め。姉上と比べられてはグウの音も出ぬわ。


「さてと、次はもっと簡単な曲にするか。エリスも傷が治ったら歌ってみな。」


「ほう?」


「童謡だけどな。」


「妾は子供では無いっ!」


タケルよ、妾が成人の儀を迎えた時は覚悟しておくのじゃぞ?






―レイア&エリスSIDE―


仕事を終えたレイアは自室へと帰ってきていた。夕食までに体を清めようと湯浴みの支度をしていたところ、ノックもなく扉が開かれた。


バンッ!


「姉上ええええ!!」


「…エリス?」


普通ならばはしたないと注意するのだが、エリスのあまりの剣幕に口をつぐむ。


「妾は負けませぬぞ!」


バンッ!


「何が?」と聞き返す暇も無く部屋を出て行くエリス。


「何か……あったのか?」


「さ、さぁ…?」


レイアは支度を手伝う侍女と共に首を傾げた。








後書き書くことあったけ?


あ、そうだ。PV総アクセスが300万突破。また記念に外伝挟むかも。

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