第四十一話公演の前に
ネタをくれた読者に感謝。
手術後、待たせていたリリィを迎えに行き、俺達はお暇する事にした。帰り道はレイアが手配した馬車に乗る。
道中、リリィが不思議がっていた転移魔法や俺とレイアの関係について説明した。
「転移魔法の事は秘密で頼むぞリリィ。」
「はい!大丈夫です!でもタケルさんがレイア様の直属の部下だなんて。凄いです。私、今日で何度驚いたんだろ?」
レイアの部下というのは少し違うのだが、一般人から見たらそう映るのかもしれないな。
「ね…タケル?公演の券はまだ残ってるんでしょう?」
一通りリリィへの説明が済むと、リンの言葉で話題は楽団の公演へと移った。
「ああ。リリィに五日分貰ったけど……何だその物欲しそうな目は?」
向かいに座ったリンが上目使いで俺を見つめる。
「初日がレイアなら、次は当然私だと思うの。」
両手を前に出して『おくれ』とゼスチャー。
「レイアにはお礼としてやったんだがな?」
別にあげても良いんだが、貰って当然って感じの催促に少し抵抗してみる。
「ぶー。ここは惜しみなく渡して器の大きさをアピールするか、さり気なく誘うのがセオリーでしょ。」
「渡さないって選択は無いのな。」
「良いじゃない。二人も美女とデート出来るのよ?」
「へいへい。分かりましたよ。」
臆面もなく自分を美女と言う辺りがリンらしい。それでいて厚かましさも感じさせないのだから不思議なもんだ。
俺は懐のチケットをリンに渡す。
「フフッ、ありがと。」
「余らすのも勿体無いし、ユウとセラにもやるか。」
「名案ね。きっと二人とも喜ぶわよ。」
日取りや公演の前後の予定を話し合う。
何故か公演後にディナーまで奢るハメになったのは俺が甘いのか。それともリンの交渉が上手いのか。
ユウとセラが行く日は子供達の世話も代わってやらないとな。
「あの…もしかしてお二人はご夫婦なんですか?」
「は?」
リリィの唐突な質問に、俺はポカンと口を開けたまま首を傾ける。
「あ、違ってたらすいません!一緒に住んでるみたいですし、息が合ってるからそうなのかなって。」
「あらぁー良い事言うわねリリィったら。ご褒美に飴あげるわ。」
「ありがとう御座います。…あむ…わぁ!甘ーい!」
餌付けされとる。
「リリィ、騙されるなよ。リンと俺はただの腐れ縁だ。最近は俺が出資者みたいな真似もしてるが、基本的にそんな感じだ。」
「はぁ…成る程。…リンさんも大変ですね。」
「分かる?いつもこうなのよ。」
したり顔で肩をすくめるリン。
何でコイツが大変なんだ?そこは俺だろ?
―エリスSIDE―
盲腸手術の翌朝、エリスは自室のベッドで養生していた。正確には麻酔から覚めたのが深夜だった為、そのまま就寝したのだ。
「ふぁー!……良く寝たのう。」
とはいえ既に窓から日が差しているので、もう昼に近い時間帯かもしれない。
コンコン…
「エリス、身体の調子はどうだ?」
扉の向こう側から姉の声が聞こえてきた。
「どうぞ。入ってきて下され姉上。」
部屋に入ったレイアがエリスの顔を覗き込む。
「ふむ……どうやら問題なさそうだな。顔色も良い。」
「そうですな。まだ少し痛みますが。」
「それは仕方が無いだろう。何せ腹を開いたのだからな。」
「う……あまり詳しくは聞きとう無いです…。」
思わず顔を引きつらせるエリスにレイアが苦笑する。
「フッ…リンの話では二、三日はベッドから動かぬ方が良いそうだ。」
「あ、あの…厠には…。」
若干顔を赤らめ言い辛そうに訊ねる。動けないからといって、まさか漏らす訳にもいかない。思春期の少女としてはかなり重要な問題だ。
「それならばこれを使え。」
レイアが手にしたのは筒状の透明な容器。
尿瓶だった。
「こ、これに…」
「一人で出来るか?辛いならば手を貸すぞ?」
「いや!だ、大丈夫です!」
確かに身動きすると傷に響くものの、恥じらいの方が大きかった。レイアもそれを察したらしい。
「そうか。昼にはリンが診察に来る。それまで大人しくしていろ。」
レイアが優しく頭を撫でて席を立つ。
一人となったエリスは尿瓶を横目に自分の下着に手を掛ける。
「ん……?」
下半身に僅かに感じる違和感。
サワリ…
軽く大切な場所を一撫で。
「……。」
何かが足りない。
「にゃ……にゃああああーー!?」
ガタン!
「どうした!エリス!?」
叫び声を聞き付けたレイアが部屋へと引き返してきた。
「無い!無い!妾の…妾の……がツルッツルにーーー!?」
事前に剃るとは聞いていたが、意識が朦朧としていたせいで覚えていないエリスだった。
―タケルSIDE―
公演の初日、俺はリンと共に城へ。エリスの診察を見届けてからレイアと共に広場に向かった。
「公演まで結構時間が空くな。」
「うむ。少々出るのが早すぎたようだな。」
リンに急かされたせいだ。もう少し城で時間を潰しても良かった気がする。
「しかし…この格好は逆に目立つらしいな。」
道を歩くとすれ違った人間の殆どがレイアを見て振り返る。今日のレイアはいつも着ている騎士服でも、煌びやかなパーティードレスでも無い。小金を持っている商人の娘が着るような、平民の物より少しだけ上質の布で出来た服だ。
レイアが気兼ねなく公演を楽しめるようにと、リンが気を利かせたのだが逆効果だったらしい。
街中で普通によく見る格好だが、レイアが着ると意外すぎて人目を集めてしまっている。一部では遠巻きにこちらを見る集団が居て、暫くすれば人だかりが出来てしまいそうだ。
「やれやれ、有名だと暢気に街も歩けないんだな。」
「仕方が無い。それも王家の宿命だ。」
憮然とした表情で答えるレイアだが、やっぱり機嫌は宜しくない。
「なら…」
キイイィーーン!
俺はレイアに魔法を使う。
「む?何をしたのだ?」
「レイアを見る人間の認識を変化させた。他の奴らには普通の街娘に見えるようにな。」
「成る程。それは良い。」
歩みを進めると視線も無くなり、俺とレイアは完全に人波に溶け込んだ。
「フッ…これ程周囲の目を気にせず街を歩くのは始めてだ。」
機嫌を取り戻した様子のレイア。僅かに笑みを浮かべている。
「公演まで市でも覗いて時間を潰すか?」
「そうだな。行くとしよう。」
「あの…レイア?」
レイアが俺の腕を取って寄り添うように歩き出す。
「リンにはでーとというのはこうするものだと聞いたんだがな?」
「やっぱりあいつかよ…。」
俺は溜息混じりに頭を抱える。
「駄目なのか?」
「いや……行こうぜ。」
むしろ役得だ。気にしない事にする。
「えすこーとを頼むぞタケル。」
「ぜってーそれもリンの入れ知恵だろ。」
エリス
「どういう事じゃリン!わ、妾の…ゴニョゴニョ…を剃るとは!?」
リン
「ちゃんと説明したわよ?ね?レイア?」
レイア
「ああ。」
エリス
「…し、して、誰が剃ったのじゃ?」
レイア
「私とリンで剃ったな。」
リン
「ええ。綺麗にトゥルットゥルにしてあげたわ。ウフフ♪」
エリス
「何故そんなに嬉々としておるのじゃああー!」
リン
「あ、もしかしてタケルに剃って欲しかったの?若いのにマニアック過ぎないかしら。」
エリス
「意味は分からぬが馬鹿にされとるのは分かるぞ!」
リン
「でも、世の中には無いほうが好みの殿方も多いそうよ?」
レイア
「何?そうなのか?」
リン
「タケル、貴方はどっちかしら?」
タケル
「ノーコメント」
レイア
「ふむ、どうでも良いが何故中腰なのだ?」
タケル
「ノ、ノーコメント……。」
やらかしました。スイマセン(汗)。