第四十話手術の成功と『T』による誤解
今回で目出度く四十話を迎えました。
感想にてネタを下さった方々に感謝。そして読者の皆さんの御愛好にも感謝。
「あ゛~~疲れた!」
エリスの手術が終わると俺は椅子に座り込む。
「フフッ…やっぱり緊張してたのね?」
「戦って血を見る事は有っても治すのは初めてだからなぁ。」
執刀したのはリンで俺は補助しただけだ。それでも神経を使う。物も人も壊すより治す方が難しいというのは本当なのだと実感した。こんなのはもうゴメンだな。性に合わない。
「医院を作るなら医師の育成も考えといた方が良いぞ。俺はやらないからな。」
「そうねぇ。いずれ後続の育成も考えないといけないわね。」
「二人とも礼を言う。お蔭でエリスを失わないで済んだ。」
心底安堵した顔で感謝するレイア。俺は気にするなと手を振り、リンは微笑を浮かべた。
「あ、レイア。明日から5日の間に暇な日は有るか?」
「ん?ちょうど明日は休暇を取る予定だが?」
「ならコレをやるよ。」
俺はリリィから貰ったチケットをレイアに渡す。
「俺が居ない間にユウが世話になったそうだな。孤児院の方にも気を使ってくれてたみたいだし、お礼だ。」
「これは……悠久の唄の有料席の券か。カイゼス広場で公演が有ると聞いている。」
しかしチケットを確認したレイアがそれを返そうとする。
「だが受け取れん。私はタケルに借りを作ってばかりだ。その程度の事でこんな物を貰う訳にはいかん。しかもこれは貴族でも入手困難な最前列の券だぞ。相当高かったのではないか?」
「そう遠慮するな。さっき俺と来たリリィって娘が居るだろ?あいつは悠久の唄の楽団員なんだ。前に縁があってタダで貰ったのさ。」
「いや、しかしだな…」
「もう!強情なんだからレイアは。ちょっと来なさい!」
―レイア&リンside―
リンがレイアを伴いタケルから離れる。
「レイア、ここは素直に受け取るべきよ。」
「しかし私はタケルには返しきれぬ程の恩が有るのだ。その上、こんな貴重な物を貰っては…」
「だーかーら、逆なんだってば。タケルに感謝する気があるなら、これを受け取っておくべきなの。」
「どういう事だ?」
リンは内心溜め息を付く。彼女は何故こうも色恋沙汰に鈍いのだろうか。しかも自分はそんな恋敵に肩入れしているのだから変な話だ。
「これは所謂デートの誘いよ?受け取ってあげる事自体がタケルにとってのお礼になるの。」
「ふむ?デートとは何だ?」
「横文字が通じない事があるんだったわね。そうね……こっちで言えば……逢い引きよ!」
「あ、逢い引き!?」
リンの表現には少々語弊があるのだが、それを一々気にするリンでは無い。
「それはもしや…恋人同士が仲を深めるという…」
「そそ。だからレイアは遠慮する必要は無いのよ。もしそれでも気が引けるなら、こう考えれば良いの。デートでタケルに楽しんで貰うのが恩返しになるってね。」
「成る程。そういう事か。」
多少強引な説得ではあるが、レイアはタケルの誘いに応じる事にした。
「タケル、この券はありがたく貰う事にする。」
「そうか。無駄にならずに済んで良かった。」
ホッとするタケルの笑顔を見て、レイアは受け取って正解だったと思う。
「さてと……二人ともそろそろ着替えない?早くこの窮屈な手術着を脱ぎたいんだけど。」
「だな。」
三人は着替えるために別室へと向かった。
仮に用意された更衣室でレイアとリンが手術着を脱ぐ。
「……。」
「ん?どうかしたレイア?」
リンが自分の姿を見つめる視線に気付く。
「リンの下着なのだが、少々…いやかなり大胆ではないか?意匠は素晴らしいが、後ろはほとんど隠せていないようだが?」
その下着はリンが自分でデザインし、タケルに創ってもらった特別製だ。他にも色や模様等に拘った品をタケルに創らせていたりする。元々結構な衣装持ちであるリンには、こちらの世界の下着は簡素で技術遅れなので肌に合わなかったのだ。
「ああ、Tバッグだものね。ウフフ…」
リンが得意気にポーズを取る。自慢のヒップラインを強調するような艶めかしい体勢だ。
某神様が見たら思わず手を伸ばす事だろう。
「てぃーばっく?」
「私達の世界の文字の事よ。同じ形だからそう呼ばれてるの。」
「ほう…しかし見れば見るほど扇情的だな。」
「魅せるのを趣旨にした物だから当然よ。」
「…まさかそれでタケルに迫ったのでは無いだろうな?」
「一回だけね?上手くかわされちゃったけど。」
「ホッ……だが男はこういう物に劣情を抱くのか…。私ももっと積極性を…いやしかし…」
羨望の眼差しを送るレイア。更衣室では女性が女性の下半身を凝視してブツブツ呟くという、不思議な光景が広がっていた。
「レイアも作って貰ったら?」
「好いた男に下着を作らせるのか?さすがにそれは……」
リン程達観出来ていないレイアには難しい話だ。
「男ならむしろ燃えるんじゃない?」
「それではタケルが変態みたいではないか。」
「純情ねぇ。男は程度に差はあれ基本、変態なのよ?」
「そう…なのか?」
こうしてリンの影響でレイアの知識は偏っていった。
「そう言えばタケルの渾名も『T』だったわね。」
「なっ!何だそれは!」
「まぁ、こっちの『T』はタケルのイニシャルなんだけど……って、あれ?居ない?」
ダダダダダダッ!バンッ!
「タケル、見損なったぞ!なんと卑猥な二つ名だ!そんなにTバックが好きか!?」
「何の話!?って、今着替え中!」
レイアは見た。見てしまった。
今まさにタケルが下着を履こうとする直前に…
「~~~~っ!…ス、スマン!!」
慌て部屋を出るレイア。
ハッキリクッキリジックリと、その御尊顔を見てしまったのは彼女だけの秘密だ。
「くっ!これでは今日は眠れそうに無いではないかっ!」
「クスクス……面白い事になってるわねー。」
陰ながら一部始終を見たリンが、実に楽しげに笑っていたとか。
知ってるかい?本当なら今回の主役はエリスの筈だったんだぜ?
予定と違う!
だってキャラが勝手に動くんだもん!