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第三話実験台?熟年夫婦のメロドラマ

漸く主人公の装備が揃います。


「ふう~。やっと一息付けた~。」


俺はレイアと別れた後、門番をしている兵士に宿屋の場所を聞いた。幸い兵士の兄ちゃんは愛想良くこの宿屋を紹介してくれた。宿賃は1日銀貨7枚。

レイアに訊いていた相場より安く、またサービスも良かった。夕食も美味かったし。俺の不運はちゃんと改善されていたようだ。よかったよかった。


部屋の椅子に座り、一息付いた事で気分も落ち着いた。今後の方針を決めよう。


「さて、どうするか…」


プラン1・この際、はっちゃけて創造魔法の能力全開で世界征服。

プラン2・創造魔法で金を偽造(完全な本物と変わらないコピーだが)で豪遊。

プラン3・レイアの言う通りギルドに行く。


「どう考えても3だな。」


この世界には来たばかりで不慣れだし、まだまだ情報も足りない。ギルドで仕事を受けるかは分からないが、ここは地球でいうファンタジーの世界だ。何か面白いものが見られるかもしれない。


プラン1は死亡フラグ乱立っぽいし。プラン2は後ろめたい感じが精神安定上良くない気がする。


「そうだ!今のうちに色々創っておくか!」


この身1つで異世界に来たんだ。今後何かと必要になる物を創ろう。必要に応じて創り出すことも出来るが創造魔法は俺の切り札だ。あまり他人には見せるべきではないだろう。


「まずは武器だな。」


ファンタジーといえば『剣と魔法の世界』だが、魔法はあるが剣は持って無い。まあ、そのお陰でレイアには信用してもらえたんだけど。


「剣か……良し!」


俺はイメージを固め、ソレを創造する。

キイイイイイーーン!


出来たのは片刃で反りのある、叩き斬るためではなく切り裂く剣。日本刀だ。


「やっぱり日本人ならコレだね!」


見た目はあまり意匠を凝らしたものじゃなく、白鞘に白柄のシンプルなもの。パッと見、この世界の人間には只の棒にしか見えないかも。柄を握り、かざしてみる。


「おお~!凶悪な輝き!これは良く切れそうだぜ!」


日本刀独特の切れ味を追求した剣。波紋は無く、実践向きに特化した直刃。

そのギラリとした輝きは、「フッ、俺に触れると怪我するぜ。」とでも言っているようだ。


「ヤッパ俺も男の子~♪武器を持つとテンション上がるぜ~。」


正眼に構え、振りかぶる。


サクッ・・・


やべ!天井が切れた。後で直しとこう。


さて、次に創るのは、回復薬だ。

アレ?防具は?と思うかもしれんが、実はもう創ってある。レイアに渡した指輪だ。アレをもう1つ創っておいた。ダメージを受ける程の攻撃には、自動でバリアが展開するという機能を追加して。


街には、いかにも『私戦士です!』って感じの鎧を着た人も居たけど、邪魔だし動きにくそうだから。

人に訊かれたら防壁魔法だって言い張れば良いさ!


「とにかく回復薬だ。」


イメージはオロ〇ミンC。怪我だけじゃなく、病気や呪いにも効く、疲労回復のおまけ付き。


キイイイイイーーン!


「創り過ぎた…。」


出来たのは茶色い小瓶が30本。さすがに手に余る。取り敢えず一本を手に取り、腰に手を当て…。


「グビ、グビ、プハー!」


一気に飲み干すと今日1日の疲れが吹っ飛ぶ!味はまんまオロ〇ミン。


「あれ?コレ、魔力も回復してないか?」


体力と別に、地球に居た頃には感じなかった魔力の感覚。明らかにそれも回復している。


「理屈は解らんが悪いもんじゃないし、コレはコレでいいか。」


至れり尽くせりの回復薬だし、金に困ったら売ろう。


「さて、こんなものかね。」


必要そうな物は大体できた。後はギルドを覗いてみて、そのつど対応して行こう。

俺は刀とオロ〇ミンを片付けると、ベッドに横になる。そして今日の出来事を反芻しつつ目を閉じた。


「ハァ…濃い1日だったぜ。」


せっかくの魔法なのに、物を創ってばっかだな。これじゃ創造魔法というより錬金術じゃね?






翌日、目の覚めた俺は簡単に身なりを整え部屋を出る。

四十代後半の男性、店主のマイルさんが朝食の準備を始めていた。


「おう、お早うさん。早起きだね。」

「どうもマイルさん。少し早すぎたかな?」

「いや、そうでもないさ。ここに泊まる客の殆どがギルドの登録者だが、連中は皆、生活が不規則過ぎる。タケルさんも冒険者に成るつもりなら、この位の時間を心がけた方がいいぜ。」

「ハハハ。」


どうやら此方の世界でも、日本人の几帳面さは美徳らしい。


「それじゃ直ぐに朝食を用意するからな。待っててくれよ。」


そう言って厨房へ歩いて行くマイルさんの足は、昨日は気付かなかったが、若干引きずっているように見える。


「マイルさん。もしかして足が悪いのかい?」


呼び止めるようにして訊くと、マイルさんは振り返り苦笑する。


「まあな。若い頃は俺も冒険者でね。魔物に襲われてた今のかみさんを助けたのが、縁で一緒になったのさ。」


お陰でこの怪我には感謝してると笑い飛ばす。うむ、豪気だ。


「けど、もしもその足が治るとしたらどうよ?」

「うん?そりゃ治るならそれに越した事はないが…。今でこそ多少は歩けるが、当時はかなりの大怪我だったんだぞ?」

「ちょいと待って。」


俺は夕べ創った回復薬を一ビン、部屋から持ってくる。


「マイルさんこれ、騙されたと思って飲んでみて。」

「何だこのビンは?」

「回復薬。効果は保証する。モノは試しに飲んでみて。」


マイルさんは訝しげながらも、恐る恐る回復薬を口にする。


ゴクッ…ゴクッ…


「んんん!?」


目を見開くと無言で足を動かし確かめ始める。歩き方も前と違いスムーズだ。


「こ、こりゃすげぇ!治るどころか傷もねぇ!」


驚嘆するマイルさん。良かった。ちゃんと効いたみたいだ。まだ怪我には効果があるか試して無かったからな。自分で怪我して確かめるとかは、さすがにちょっと……ねぇ。


「おいニア!ニア!ちょっと来てみろ!」


大喜びで厨房に声を掛けるマイルさん。ややあって、厨房から四十代半ばの女性が顔を出す。たぶん、この人が話しにあったマイルさんの奥さんだろう。


「何を騒いでるのよ。ハッ!…あんた!?」


跳び跳ねるマイルさんを見て驚く。


「あんた足は!?」

「すげぇだろニア!?タケルさんに貰った回復薬飲んだらこの通りよ!」


軽快にステップを踏むマイルさん。


「ああ!本当に…良かった……。」


泣き崩れるニアさん。


「おい!どうしたんだニア!?」

「ずっと…私のせいであんたが足を悪くして冒険者を諦めたと思っていて…それが申し訳なくて。」

「よせよニア!怪我をお前のせいだとは思ってねぇし、後悔してないんだからよ。」


抱き合う熟年夫婦。俺の前では純愛ドラマが繰り広げられていた。愛だねぇ、うん。





しばらくして、ニアさんが落ち着くと、マイルさんがこちらに顔を向けた。


「すまねぇなタケルさん。こんなすげぇ薬貰っちまって。」

「いや、礼には及ばないさ。」

「でもこりゃ秘薬だろ?俺も治すために色々と探し回ったが、教会で売られてる秘薬は相当な額のはずだぜ?それも一般人には手が出ないような…。」

「大丈夫。実はこれ、俺が創ったんでね。材料もタダみたいなもんだし。」


まったくタダです。はい。


「これを作った!?すげぇなタケルさん!あんた何者だい?」

「そこは、まぁ秘密というこで。」

「そうか。いいさ。俺も深くは訊かないでおくよ。」

「うん、助かる。」

「だが、あんたは恩人だ。何もしないんじゃ俺の気が収まらねぇ。」


そうは言われても大した労力も掛かってないしな。マイルさんには悪いが実験的な意味だった訳で。

ウ~ン。愛ならぬ、感謝が重い(笑)。


「本当に気にしなくていいよ。どうしてもっていうなら、その分は、朝食に期待させてもらうよ。」

「ハッハッハッ!あんた本当に面白い人だな!判ったよ。こっちも気合いを入れて作ろう。」




その後、出てきた朝食は、この小さな宿には不釣り合いなほど、豪勢なフルコースだった。

一応、完食した。朝はきっちり食べる方だから。


ゲフッ……





主人公の装備を整えるための、蛇足的な話でしたね。

相変わらず魔法の用途は、エセ錬金術ですし。

タケルはもっと規格外な能力者のはずなんですが、際立たせるのがムズいです。

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