第三十六話過去
今回少々グロ表現と鬱展開が入ってます。
前半何のことやら分からないかも。
読み飛ばしても見失わないと思われますので、苦手な人は読まなくても大丈夫です。
「ハァ…ハァ…!」
「ハァハァ…ゼェ…ゼェ…!」
真夜中の森を二人の子供が走っていた。正確には逃亡。彼らの後ろからは暗視スコープを着け自動小銃を装備した大人達が追いすがる。
子供達は孤児だった。預けられた場所は孤児院とは名ばかり。裏では人身売買を請け負う組織の末端。
二人はそこから違法研究を行う研究所へと送られたのだ。当然事実を知った二人は逃げ出した。
時には従順な飼い犬を演じ、時には変態的な嗜好の局員に媚を売り、逃亡ルートを調べ監視の隙を突いたのだ。僅か十歳とは思えない行動力で。
「うああああぁぁっ!!」
突如子供の片割れ、少女が太股を押さえ倒れた。
「お、おい!」
少年が助け起こした少女の脚には、はっきりと銃創が刻まれ狙撃された事を物語っている。少女は痛みに全身を震わせ少年の襟を掴む。
「に、逃げるんだ!」
激痛に耐えながら少年に逃亡を促す。
「お前はどうするんだよ!?」
「私はもう走れない…だから、ここで仕舞いだ。」
「そんなっ!」
「行くんだ!」
少女は監視から奪った拳銃を少年に向け威圧する。
「私が時間を稼ぐ…だから…行け!」
「でも…」
「ふ…。」
少女は汗だくで優しく微笑み、少年と唇を重ねる。
「んっ!?」
目を見開き驚く少年に再度微笑む。
「ふ…ぅ…私の最初で最後のキスだ。仕方が無いからお前で我慢してやる。」
少女は感じていた。自分の最後を。少年は理解した。少女の覚悟を。
「さぁ!行くんだっ!!」
「クッ!」
「そうだ。行け…見付かるなよ。」
少年の背中を見つめ満足気に微笑む。
「さぁて…どうするか?」
このまま投降すれば懲罰という名の拷問か?それとも問答無用に射殺だろうか?いや、このまま犯され嬲り者にされる可能性も有る。
「だが!私の全てはあいつにやった!貴様らにやるものは何も無い!何も…やるものかあああぁぁぁ!!」
少女は銃を構える。
追いすがる敵に。
全てを託した少年の為に。
「ゼェ…ゼェ…」
少年は走った。追っ手から確実に逃れられる安全地帯まで。街にさえ着けば人の群れに紛れ込める筈だ。
一心不乱に走った。降り出した雨に濡れながら。泥濘に足を取られ膝を擦り剥こうとも。
やがて森を抜け、明かりが視界を照らす。
「着い…た?」
目の前にある街並み。そこには二人が目指した光景が広がっていた。
「着いた。着いたんだ…」
けれど、少年に喜びを分かち合う筈の相手は居なかった。
そこで少年は逃げる間ずっと自分の襟を握り締めていた事に気付く。
そっと手を開く。少女が最後に掴んでいた場所を。
襟は赤く染まっていた。
少年は襟を見たまま力なく膝を着く。
「う、うああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!」
―十年後―
「よう。待たせたな。」
一人の青年がそう語りかけた。
だが、呼びかけに答える声は無い。
「……悪い。随分掛かった。」
少しだけ申し訳なさそうな声。返事は無い。
それでも青年は話し続けた。
佇む彼の目に映っているのは一つの試験管。中に入っているものは嘗て人の一部だったもの。
この場所にはいくつものそういった試験管やホルマリン漬けのボトルが並んでいた。他にも無数の研究機具やコンピューターの類が並び、部屋の中央には手術台も設置されている。
そして彼が撃ったのだろうか。
床には頭部を撃ち抜かれ絶命した白衣の骸達。脳漿の混じった血溜まりが徐々に拡がる。
「十年掛かったよ。お前を見付けるのに。もう少しヒントぐらい残しても良いだろう?」
片手の拳銃を玩び、からかう様な口調。
「無茶言うなって?ははっ!そうだよな。」
無言で返す室内。やがて外で鳴り響く警報がこの場にも届き始める。非常事態を知らせる音だ。けれど青年には関係の無い事だ。
今、自身の生涯を掛けた悲願が身を結ぼうとしているのだから。
「…お前は余計な事をしやがってって言うんだろうけどな。でも悪い。これしか生き方を見付けられなかったんだ。」
青年が片手を上げる。手には幾つかのボタンの付いたリモコン。彼の親指がボタンに触れた直後、建物の至る所で激しい爆発が起きる。
「送り火にしちゃ盛大過ぎるけど…構わないよな?局長の奴は先にお前の所に送ってやったよ。今日は珍しくついてるんだぜ?奴のアホ面に落書きしても邪魔が入らなかったしな。お前もあの世で恨みを晴らしてやれ。」
爆発の余波で揺れる部屋。幾つかの器具が棚から落ち音を立てる。
「十年分の送り火だ。お前もやっと安心して眠れるだろ?」
ヒュバッ!
リモコンを捨ててライターを取り出すと無造作に放り投げる。
予め可燃性の液体を撒いていたのだろう。試験管を置いてある棚が燃え始める。
「…じゃあな。相棒!来世ってやつがあるなら今度は達者でな。」
炎に背を向けた青年が扉へと向かう。しかし…
ドッ…
不意に予想だにしない銃弾が青年の頭部を穿つ。
声も出さず倒れる青年。
その顔は満足気に微笑んでいた。
何処か時間軸さえも違う異世界。王宮で一つの命が生まれていた。
「王様!お生まれになりました。女の子です!」
「おお!!そうか!」
王と呼ばれた男性はバネ仕掛けの人形の如く飛び上がり、大急ぎで愛する妻の元へ向かった。
「シェラル!!」
けたたましい音を立てながらドアを開ける王の前には、赤ん坊を抱く一人の女性が居た。
「見てくださいあなた。可愛い女の子ですよ。」
「おおっ!!これが俺達の娘か!」
王は渡された赤ん坊を嬉しそうに見つめる。
「この子は美人になるぞ!」
「名前はもう考えているのでしょう?」
「勿論だ!この子の名はレイアだ!レイア・アルベルリアだ!」
―タケルSIDE―
タスニアでの歓迎を受けた翌日、俺は馬車に乗りアルベルリアの王都へと向かっていた。
「……ん…。」
「あら?起きたのタケル。」
俺の顔を覗き込むリン。
「ああ。いつの間にか寝てたのか。」
「良く寝てたわね。二時間位は寝てたわよ。」
そんなにか。
「ほら、襟を引っ張ってたらシャツが伸びるわよ。」
「癖だよ。ほっとけ。」
お前は母ちゃんか。
「む?姉上、姉上もまた襟を掴んでおりますぞ。」
同じ様に服の襟を掴むレイアをエリスが窘める。
「うん?ああ…すまん。子供の頃から直らんのだ。」
レイアがバツの悪そうに手を引っ込める。
「くっ…同じ癖って、何か妬けるわね。」
何を言ってるんだか。
シリアスを書いてみたかった!ただそんだけ!
何か浮かんだ内容を勢いだけで書いたらこの有様です。
前半から中盤に掛けてだけ読んだら、オイオイ爆裂!どうしっちゃったの!?って感じですよね。
けどたまにはこういうのも良いかなって。
次話からはアルベルリアに戻ります。
ユウも出ます。彼の修行編にするか、それとも新キャラを登場させるか思案している最中です。