第三十五話宴
長く間が空きましたね。「二ヶ月更新されていません」のタグが付いてしまいました。
恐らくポセイドゥン!に活力を持ってかれたせいかもしれません。
今回ヤツは登場しませんけどね。
では本編へどうぞ!!
「うわ……」
「凄いわねぇ。」
予想外の状況に俺とリンは目を丸くする。案内されたヴィニシュの屋敷だが、確かに本人が貧乏貴族と自称する通りラサゾールの屋敷程の豪華さは無い。しかし俺達が驚いた原因は別に有った。
門の前には使用人達が整然と並び、中央にはヴィニシュと彼の父親らしき四十絡みの男性が俺達を迎えた。後ろではメイドらしき衣装を纏った二人が垂れ幕を広げている。
「タケル、あれ何て書いてあるの?」
「……。」
こちらの文字の読めないリンの代わりに垂れ幕の字を読む。こちらの言語で、『熱烈歓迎!タスニアの救世主タケル様一同』と書いてあった。
「さすがに仰々しいだろ。これは…。」
むしろ恥ずいぞ。観光旅行の団体様みたいだ。
「ラサゾールが失脚して、一番恩恵を受けたのが彼らだからな。確かに領民も重税などの影響を受けていたが、ヴィニシュの父は告発した息子の功績を認められて爵位が上がったのだ。そのきっかけになったタケルにはかなり感謝していたぞ。」
「成る程…それでこれ…か。」
「うむ。」
レイアの解説で納得はいったものの、垂れ幕は早々に下ろして欲しい。屋敷に着いた俺をレイアが紹介すると、ヴィニシュの父親は破顔して俺に握手を求めた。
「初めましてタケル様。ここタスニアを預かるヴィクスと申します。この度は息子に力添え頂き感謝のしようも有りません。」
「そう畏まらないでくれ。俺は友人の手助けしただけだから。」
「いやいやご謙遜を。お若いのに大したものです。さすがはラサゾールの策略を打ち破り不正を暴いただけの事はあります。奴には我々も度々煮え湯を飲まされてきました。奴の失脚を聞いた時には飛び上がって歓喜したものです。」
平身低頭で感謝を述べるヴィクスさん。よほどラサゾールに対する鬱憤が溜まっていたらしい。
「お久しぶりですタケルさん。」
次に話し掛けて来たのはヴィニシュ。
前に会ったときの旅服とは違って、今日は貴族らしい服を纏っている。
「ああ、ヴィニシュか。取り敢えずあの垂れ幕を下ろすように言ってくれないか?」
高らかと掲げられているこっぱずかしい垂れ幕の撤去を頼む。
「ははは。良いじゃないですか。タケルさんはタスニアでは英雄扱いですよ。」
「照れるなよー。きゅ・う・せ・い・しゅ・様♪」
「うるせぇよ!」
からかうアインをコブラツイストで締め上げる。
「ぐえーー!!なんだこれ!?動けねぇ!!」
ミシミシッ!
「往年の技・コブラツイストを喰らいやがれ。」
「ノオオオオオオォォォォー!!」
アインにとどめのブレンバスターをかました後、俺達はヴィニシュの屋敷で歓迎を受けた。
「恐るべしコブラ・ツイスト…。身体がもげるトコだったぜ。」
門の前でダウンしていたアインも復活し席に着いていた。テーブルには港町ならではの魚介料理が並び、ヴィクスさんが再度代表で挨拶をしたあと宴は始まった。
「ふむ…中々美味いのう。」
料理を口に運び、感嘆するエリス。
「城だともっと高級な食事だろ?」
「確かに食材や料理人の腕は王宮の方が上等じゃが、こういう家庭料理にも似たものも趣が有って良いものじゃ。」
普段、高級料理ばかり食べている人間がジャンクフードを珍しく感じるみたいなもんか。
「何より、妾はあまり城から出して貰えんからな。場の雰囲気だけでも新鮮じゃ。」
楽しげに辺りを見回し微笑むエリス。箱入りな彼女は立場上、外に出る機会が少ない。今度遊びにでも連れて行くか?変身魔法で姿を変えてやれば面倒事に巻き込まれる心配も無いだろう。城にはダミーを置いておけば良いか。
「そういえば、リン。お前アルベルリアに着いたらどうするつもりだ?」
勢い…と言うか、さも当然のように俺に同行してきたリンだが、今後の身の振り方については聞いていなかった事を思い出す。
「そうねぇ…」
飲んでいたワインのグラスを置き顎に手を当てる。
「取り敢えずはタケルみたいに冒険者でもして貯金しようかしら?さすがに先立つ物が無いと動きようが無いものね。あっ!そうだ!タケルのとこに永久就職って手も有ったわね。」
「勝手に候補に加えるんじゃ無い。」
「うん?何じゃ永久就職とは?」
聞き慣れない単語に首を傾げるエリスにリンが意味を教えた。
「な、ならんぞ!タケル!確かに今はボインボインのたゆんたゆんかも知れぬが、大きい乳もいつかは垂れるものじゃぞ!」
「失礼ねぇ。張りと艶は本人の努力次第で十分長持ちするのよ?」
「フン!乳ならば妾も将来性が有るわ!妾と姉上では母が違うからの。父上の話では妾の生みの母様は大層立派な双山をしていたそうじゃからの!」
ガクッ
俺はエリスの妙な返しにずっこける。エリスは現時点でもレイアよりは膨らんでいる胸を、自慢気に突き出していた。しかし王様、娘と何て会話をしとるんだ。そしてそこにレイア母の王妃さんが加わる光景が容易に想像出来る。
「それに乳は大きさではなく形であろう?膨らんでるだけではただの水風船じゃ。」
「フフン。形が互角なら結局のところ決め手は大きさなのよ。男性も揉むなら手に余るくらいのボリュームが有る方が良いでしょう。ねぇタケル?」
「ノーコメント。」
いつの間にか乳談義を繰り広げる二人。止めないぜ?自称オッパイマイスターのこの俺が貴重な会話を終わらせる訳が無い。むしろ女性の生の意見が聞けて眼福いや、耳福です。
しかしその会話も長くは続かなかった。大きく音を立ててテーブルにグラスを置いたレイアが二人を一喝する。
「二人ともいい加減にしないか。食事の場でする話ではないだろう。」
「う、うぐっ…。」
「そ、そうね…ゴメンなさい。」
おお…久しぶりのレイアの絶対零度の眼差し。彼女の視線を浴びて悪乗りしていた二人が硬直する。スレンダー代表のレイアとしては面白くない内容か?
「それに胸など見せる相手が満足ならばそれで良いであろうに…」
最後にレイアがこちらを見て呟いた言葉は、俺には聞き取れなかった。
俺はアインとゲイルと話す為に席を移動した。形式ばった会食とは違い、話したい相手の所に移るのも自由だ。レイア達3人はガールズトークの真っ最中なので邪魔する必要も無いだろう。
「ゲイル、さっきは言い忘れたがおめでとう。」
「ん?ああ、わざわざ済まないな。」
ミアンの懐妊祝いだと思い至り、珍しくゲイルが表情を崩す。
「ケッ!デレっとしやがって。幸せ満載ですかコノヤロー。」
僻み満載のアインは実に飲むペースが早い。既にほろ酔い状態だ。
「タケル~、仲間はお前だけだぜ。独り者の俺達は今度綺麗どころを集めて飲み明かそうぜぇ。」
「綺麗どころと宴会は魅力的だが、アインはがっつきそうだからな。女の方が逃げそうだ。」
「タケルが連れて来たリンだっけ?彼女もかなりの美人じゃねぇか。長く一緒に船旅してたんだろう?もしかしてそういう関係か?」
「邪推してるみたいだが、リンは同郷の友人だ。アインの想像するような事は無いな。」
唇は奪われたらしいがな。人工呼吸はノーカンだとしておこう。絡むアインは既にボトルを2本空けていた。
「それに綺麗どころなら今も、レイアと…一応エリスも居るだろ?」
「い、いやぁ…さすがにお姫様に手を出すのは…」
そこはビビリなのな。
「腰抜けだな。」
「うむ。腰抜けだ。」
同じ感想を並べる俺とゲイル。
「うるせぇー!こうなったら、次はギルドのルイーズちゃんを落してやるぜ!」
あーギルドの受付嬢の娘か。きっと営業スマイルであしらわれるんだろうなコイツの場合。
宴の半ば、俺はテーブルの料理を持って外に向かった。屋敷の外ではレイアの部下達が警備にあたっていた。今回はエリスも居るためか、普段レイアが連れているよりも数が多い。
「よう。ウェルス、久しぶり。」
「タケル殿?お久しぶりです。どうかしましたか?」
屋敷の入り口で部下に警備の指示を出していたのはレイアの副官ウェルス。
「屋敷の警備ご苦労さん。差し入れだ。さすがに酔い潰れたら拙いから酒は無いけどな。」
「あ、ありがとう御座います!わざわざ我らの為に持ってきてくれたのですか。」
ウェルスは料理を受け取り、部下にも配るよう指示した。
「タケル殿、今回の件では本当にありがとう御座いました。」
「そんなに腹が減ってたのか?」
「いやいや、そっちではなくレイア様の事です。本来ならば部下である我々が守らねばならなかったというのに。それにタケル殿が庇っていなければレイア様は生きていなかったとも聞いています。」
「ああ、そういう事。」
「なのに我々はタケル殿にあのような因縁を付けて。私は自分の行いに恥じいるばかりです。」
ウェルスはパーティーでの一件をまだ後悔しているようだ。俺は気にするなと言って話を変える。
「ところで実行犯だった魔槍隊の奴らはどうなったんだ?」
「魔槍隊ですか。隊長のセルデスと副隊長のバトスは既に捕らえられて、近くラサゾールと共に処分が下される予定です。隊員は減俸され再教育ですね。奴らは魔法至上主義で凝り固まった連中ですから。そういう面も矯正するそうです。実は我々騎士団と魔槍隊は犬猿の仲でして、今回の事では私達も胸がすく思いでした。」
魔槍隊は普段から横柄な態度を取って騎士団を見下していたらしい。ウェルスは料理を口に運びつつ愚痴を洩らし、俺はそれに相槌を打った。
―レイアSIDE―
私は二階のテラスへと出た。心地良い風だ。タスニアは港町なので海風が吹き、ワインで火照った身体を冷ましてくれる。下を覗くと屋敷の入り口で雑談するタケルとウェルスの姿が見えた。
「フッ……」
以前はタケルを敵視していたウェルスが親しく話す様子を見て思わず笑みが零れた。
タケルがこの国に来てまだ半年も経っていないというのに受けた影響は大きい。ウェルスなどあれ以来一皮剥けたようで人としても幅が出たように思う。妹のエリスも懐いていて兄のようにタケルを慕っている。
なにより私自身タケルに二度も命を救われた。しかも二度目は私を庇いタケルでさえ命の危険があったというのに。
身を挺して人を守れる優しさを持ち、冒険者としても一流以上の実力を併せ持つ。ただ創造魔法という規格外の魔法が扱える事だけがタケルの魅力ではない。
そして私とタケルとは馬が合う。まるで十年来の付き合いのように。
立場上、私にとって何の打算や気負いも無く自分に付き合ってくれる相手は貴重で得がたい存在だ。
居心地が良い為、孤児院でタケルと過ごす事も多くなっていった。
「しかし皮肉の一つも言ってやるべきだったな。」
タケルはラサゾールの悪事を暴く為に守護の指輪を外すという無茶をした。
私のためにやってくれた事だとは分かっているが、そのせいで魔槍隊の者に殴られ攫われた。指輪を嵌めていたら飛ばされる事も無かったかもしれないというのに。
能天気にウェルスと笑い合っているタケルを見ると、当時の怒りがまた少しだけ湧き上がってくる。
「あら?貴女もここに居たのレイア?」
「ん?リン…か?」
後ろから聞こえた声に振り返る。そこにはタケルの旅に同行していたリンの姿があった。
「少し飲み過ぎたから風に当たろう思ったのだけどレイアも同じみたいね。」
「そのようだ。」
リンは汗ばむ首筋を手で扇ぐ。その姿は見るからに色っぽく、体つきも女性としての魅力に富んでいる。彼女は私の隣に立つと、下で談笑しているタケルに目を向ける。
「本当に変わったわねぇ。」
タケルを視線に捉え嬉しそうに目を細める。その顔は私が妹に向けるものに似ていた。
「変わったとは?」
「タケルの事よ。まさか彼がこんな風に人間関係を築くなんて、ちょっと前なら信じられなかったわ。」
「そうなのか?私はこの国に来てからのタケルしか知らないのだが。」
「フフッ、聞きたい?」
「ああ。」
リンは私の知らないタケルの過去を知っている。同郷なのだから当然だ。しかし何と無く心がザワつく。
「その前にレイアはタケル事をどれくらい知ってるの?」
「そうだな…何度か共に仕事をしたが、恐ろしく腕が立つ事。そして創造魔法という規格外の魔法を扱う事くらいだ。」
「過去については?」
「あまり話したがらないからな。前に信用していると言われた事は有るが、それでも過去については聞いていない。未だに私に対する信用は不足しているのかもな。」
そう思うと少し気分が落ち込む。対してリンは余裕を感じさせる微笑を湛えていた。これが過ごしてきた時間の差というものだろうか?
「クスクス……成る程ね。安心して良いわよレイア。タケルは貴女の事を十分信用している筈よ。いえ、それどころか信頼しているとさえ言えるでしょうね。」
「そうだろうか?」
「でなければ真っ先に私を紹介したりしないし、この国にも定住はしなかったでしょうね。」
「ならば過去を隠す必要は有るまい。」
「多分それはレイアに対する信用とは別の理由よ。タケルの過去…私がここに居る理由とも繋がるのだけれど、かなり突拍子も無い話だからタケルも話しようが無かったのね。」
突拍子も無い…か。創造魔法以外にもまだ隠し玉があるというのか。
「私も教えるからレイアもここに来てからのタケルの事を話してくれる?」
「分かった。」
私とリンはタケルに関して互いの情報を交換した。
タケルがこの国に来た理由、不運体質、ここに来る以前の行いなどだ。
しかし出身が異世界だとは流石に驚いた。しかもタケルを送った者は神だという。創造魔法もその神から賜ったものだと聞かされた。
「確かにとんでもない話だ。だがこれでタケルがこの世界の常識を知らなかった事の説明が付く。」
タケルが我が国とデイモートの不仲など、国家間の情勢を知らなかったのも当然だ。何せ世界が違うのだ。他にも私達の知らない歌や料理もその世界で得たと考えれば合点がいく。普通ならば到底信じられるモノではないが、私はそれを信じるに値するだけのものを見てきた。
「ね?これでレイアが信頼されてる事が分かったでしょう?」
「ああ。」
「それにね?昔のタケルならこうやって人の輪に入るような事自体有り得なかったのよ。本人曰く『不運に巻き込まないように』らしいんだけど。あの頃の人を寄せ付けない雰囲気のタケルも良かったけど、私はここに来てからのタケルの方が好みね。」
リンは再び下で談笑するタケルを嬉しそうに見つめている。
「リンは…やはりタケルを好いているのか?」
そんなリンの姿を見て、私は思わず口走っていた。無粋だとは思うが聞かずには居られなかった。
「そうよ。貴方もでしょうレイア?」
「む……。」
即答するリン。私は聞き返してきた内容に押し黙る。
ラサゾールの屋敷でタケルが死んだと聞かされた時は膝が震えた。あの場で無ければおそらく崩れ落ちていた事だろう。師やエリスの母が亡くなった時以上の喪失感だ。
何とか事後処理を終えて部屋に戻ると、タケルから連絡が届いた。その時は思わず目頭が熱くなったのを覚えている。
二ヶ月ぶりに会った今日もタケルの顔を見た瞬間、自分が驚くほど浮かれていたのに気付いた。
「そう…だな。恐らく私もタケルに惚れているのだろう。」
「恐らく?曖昧ねぇ。」
「仕方あるまい。私はあまり色事には通じてはいないのだ。正直なところ、自分でもこの感情を持て余している。」
「クスクス……成る程ねぇ。」
やはり余裕が有る。私はリンの顔を見てそう思わざる得なかった。
恋愛の経験も女性としての魅力も、私はリンには到底及ばないのではないだろうか。
だが負ける訳にはいかない。
『私がタケルに惚れている。』言葉に出してみると想像以上にそれがしっくりくるのだ。
まるで感情がその言葉を肯定するように。
私はやっと自分の想いを自覚したのだった。
「あ、そうそう…レイア。」
「どうした?」
「タケルの唇は私が先に貰ったからね?」
「なん……だと!?」
最後の最後に投げ掛けられた言葉が、私にとっては一番の暴露だった。
どうしてこうなった!?
宴の回は結構あっさりと終える予定だったのに、レイア視点を書いてみようと思ったらこの有様です。
女性の視点とか激ムズです。しかもそれが色恋だと更にハードルが…。
ぐだって無いかかなり心配。
良いんだけどね。駄文だし(卑屈)ww