第三十四話帰還
お待たせしました。やっとタスニアに到着。そして今回は意外なサプライズも。
海平線の先に陸地が見えてきた。長い航海も今日で終わりだな。
「あれがタスニアねタケル?」
「多分な。」
「わはははは!我が輩の予測通りであろう!?」
甲板に仁王立ちしているポセイドゥン!が高笑いする。コイツはフラッと居なくなったと思ったら、また船に乗っていたりと頻繁に俺達の前に現れるのだ。
「それでは我が輩はそろそろ海へ還るとしよう!」
「あら?降りるの?」
「うむ!リン殿と別れるのは惜しいが、我が輩は精霊!本来は人の目に付く事は少ない神秘の存在なのである!」
「神秘ねぇ…。」
ちょくちょく飯時に来て食事に参加してたので、まったくそうは見えない。
「では、ぶらざぁ!何か困った時には我が輩を呼ぶが良い!力になるのでな!」
「力に?」
「うむ!我が輩はお主らが気に入ったのでな!具体的には、水の有る場所で華麗なポージングを決めながら、高らかに我が輩の名を呼ぶのだ!そう!ポセイドゥン!と!!」
「分かった。機会が有ればな。」
絶対呼ばねぇ。
「然らばさらばである!むはああああ!」
ドボーーーン!!
奇声を上げたポセイドゥンが、海に波紋を残して去っていた。
「タケル、この世界にはああいった存在が沢山居るの?」
「いや、俺も精霊を見たのはアイツが初めてだ。でも筋肉…じゃない水の精霊というなら他にも火とか土とかにも居るのかもな。」
「まさか全員があんなじゃないわよね?」
「…違うだろ。ってか違うと思いたい。」
他のもマッチョ精霊とか嫌過ぎる。しかもアイツ、ちゃっかり再登場のフラグ立てて行きやがったしな。
「何が違うと思いたいのだ?」
「だから、あのポセイド…ってレイアか?」
「久し振りだなタケル。」
突然俺の横に現れたのは、約二カ月振りに会うレイアだった。
「港から船が見えたのでな。転移してみたのだが予想通りだ。」
「結構使いこなしてるんだな。」
「ああ。最初は手間取ったが便利な魔法だ。」
「タケル?」
レイアの姿に首を傾げるリン。俺は二人にそれぞれ紹介する。
「リン、こっちが前に話したレイアだ。レイア、彼女がリンだ。仲良くしてやってくれ。」
「レイア・アルベルリアだ。タケルに話は聞いている宜しく頼むリン殿。」
「リンで構わないわよ。宜しくねレイア。」
二人が自己紹介を終えて話に花を咲かせている様なので、俺は上陸の準備に移る事にした。
船を港に着け、二ヶ月ぶりに陸地を踏み締める。
「タケルー!!」
「おっ?エリスじゃないか。お前も迎えに来てくれたのか?」
護衛の騎士達の中から駆け寄って来たのはエリスだった。まさか姉妹で迎えに来るとは予想外だ。よく過保護な王様が許したもんだ。
「本当に久しぶりじゃ。ラサゾールとの一件を聞いた時には心配したのじゃぞ?」
「悪いな。お詫びにまたケーキを作ってやるから勘弁してくれ。」
「ほほう。それは楽しみじゃ。」
俺がエリスの機嫌を直していると、レイアとリンが後に続いて船を下りる。
「あら?可愛い娘じゃないのタケル。」
「むむっ!?もしやそなたがリンか?」
何故かリンに対して高圧的な態度を取るエリス。
「フフッ…そうよ。宜しくね。それで貴女は?」
「妾はレイア姉さまの妹、エリス・アルベルリアじゃ。お主…タケルとはどういった関係じゃ?」
「気になるの?そうねぇ…二ヶ月も船で二人っきりで過ごしてきた関係よ。分かるでしょう?年頃の男女が二ヶ月も一緒なの…。」
何で思わせぶりな態度なんだ?旅の半分以上はポセイドゥン!が居たから、二人きりとは言えない気がする。だがリンの戯言を真に受けたエリスが俺に詰め寄る。
「タケルー!お前という奴は!姉上というものが有りながらー!!この色魔!そんなにボン!キュッ!ボン!が好きかぁ!乳か!?やはり乳なのかっ!?」
「はぁ!?意味が分からんわ!」
いきり立つエリスに襟首を掴まれ揺さぶられる。
「クッ!こんな事ならば早々に姉上を焚き付けておくべきじゃった。」
「コラ!エリス!タケルが困っているではないか。折角お前が来たいと言うから連れて来たというのに。そんな態度ではもう次は無いぞ。」
「あ、姉上ぇ…。」
レイアがエリスを引っぺがす。
「済まないなタケル、リン。妹が失礼した。」
「ゴホッ…まあ、良く分からんが気にするな。」
「ウフフ…構わないわよ。」
取り成すレイアに俺とリンは頷く。
「タケル!やっぱり生きてやがったか!さすがにしぶといなぁ!」
「無事で何よりだ。」
エリスとの会話で遠慮していたのだろう。遅れて向かえたのはあの日、共にラサゾールの屋敷へと踏み込んだアインとゲイルだった。
「よう!二人も来てたのか!」
「一応関係者だからな。レイア様が誘ってくれたんだ。」
「あれ?でもミアンが居ないな。二人だけか?」
パーティを組んでいるから三人で来る筈だ。何よりレイアの誘いをミアンが断るとは思えないのだが。
「あ~~その…ミアンはな…」
歯切れの悪いアインに代わり、答えたのはゲイルだった。
「……ミアンはおめでただ。」
「は?」
ゲイルの言葉に暫し思考が滞る。
「おめでたって?この?」
俺は腹が膨れたゼスチャーで返す。
「その…おめでただ。」
「誰との?」
「俺だが?」
「マジ?」
ここ一番の驚きだ。まさか二ヶ月の間に、そんな風に状況が変わっているとは思いもしなかった。
「まだ大して腹は目立って居ないがな。大事を取って留守番させている。」
「本人は最後まで行くって聞かなかったんだがなぁ。ちなみにここ最近のこいつらの糖度は半端じゃ無いぞ。甘ったる過ぎて、慣れてる俺でも口から砂糖を吐きそうだったぜ。」
アインがそう言うのだから二人のイチャ付き具合は相当なものだろう。確かに独り者の俺達には堪えるな。幸せの絶頂期にある乙女は背中にお花畑背負ってそうだ。
「色々と話す事もあるだろうが、一先ずヴィニシュの屋敷に向かおうぜ。あいつの親父さんが歓迎の宴を開くってさ。」
アインの話では、ここを治めるヴィニシュの父親が俺の活躍にえらく感謝しているそうで、是非会って礼をしたいとの事だ。既に屋敷では使用人総出で宴の準備をしているのだとか。
「見て驚くなよ?相当気合入れてるからな。」
そんなに?
という訳でミアンのご懐妊が判明。タケルだけで無く、書いてる作者もビックリです。