表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/70

第三十話出立

なかなかの難産。気が付いたら結構な間が…。それでも見放さずに読んでくれる方が居れば幸いです。

「本当に跡形も無ぇな。」


消滅させた砦の跡を見渡すオルソン。


「もしかして、タケルとショウが居れば世界征服が出来ちゃったりして。」


半ば冗談交じりにリン。


「興味無いな。」


「ってか、面倒臭い。」


即答するショウと俺。


世界征服ってのは、世界を自由に出来るという意味では無い。ヒーローものの悪役が企てる単純なものとは違うのだ。世界を征服。つまり世界全てを自分の管理下に置く事を意味する。その世界に問題が有れば解決しなければ成らないし、失敗すればその責任を負う事になる。要は究極のお節介だ。


誰が好き好んで他人の世話まで焼かないかんのだ。


知り合いの王族が国でさえ管理に苦労してるのを見てるから尚更だ。


征服じゃなくて滅亡を目指すならやりたい放題だろうが、自分が住んでる世界を壊したら元も子も無い。


「依頼は完了だな。王都へ帰るぞ。」


ショウの声で全員が帰還準備を始める。しかし……


「タケル、帰るのは良いんだけど…」

「うん?どうしたリン?」

「アレ…。」


リンの指差す方向には俺とリンが乗ってきたドゥカティGT1000……だった残骸スクラップが。


「どあっ!?俺の愛車が!!」

「どうやら爆破の巻き添えに為ったらしいな。」


冷静に考察するショウの横で頭を抱える。さらば我が愛車。走行時間約半日。


「オーマイガッ!!」

「祈るのは良いが相手はアノ神だぞ。」


そうだった。白髭で尻フェチのじいさんだ。


『呼んだかの?』←じいさん


「呼んでねぇ!!」


『呼んだか?』←神(ショウ担当の方)


「そっちでもねぇ!」









盗賊討伐を終えて王都に帰り着いた俺達。


ドゥカティはスクラップだったが、それを元に創造すると修理が出来た。媒体が有るせいか、魔力も創った時程は消費しなかった。万能だな魔法。


「俺達はこれから後処理と依頼人への報告に回るが、タケルとリン嬢はどうする?」

「夕食にはまだ早いな。少しこの王都を観て来ようかな。」


来た時は夜だったし、行った場所と言えばなんでも屋ローランドの事務所と酒場、それに教会だけだ。あ、宿屋もか。


「そうね。私も異世界の街って興味あるわ。」


リンも乗り気なので、俺達は仕事の打ち上げを兼ねた夕食の時間だけを決めて別れる。


「タケル、時間も勿体無いし、そろそろ行きましょ。」

「分かったから引っ張るな。」


腕を引かれ店の多い繁華街へと向かった。








翌日、宿屋の一室で寛いでいた俺の元にショウがやって来た。


「あら、いらっしゃい。依頼人には満足して貰えた?」


何故か当たり前の様にリンも居るが、もう何も言うまい。


「その事なんだがな…」


珍しく言葉を濁すショウ。何か問題でも有ったのか?


「二人とも、悪いが少し付き合ってくれ。」

「「何所に?」」









ショウ、オルソンに連れられてやってきたのはこの国の城だった。何でも盗賊を討伐した事が王宮の人間の耳に入ったらしく、「王から一言お褒めの言葉を。」との事だそうだ。


族の規模から本来なら国が軍を率いて討伐するべきなのだが、近く戦争を控えていた為にまま成らなかったのだとか。


面倒くせぇー。


軍がしなければいけない事を代わりにして貰ったのだから、礼だけでも言わないと面子が立たないのは分かる。だが、礼を言うのに相手を呼び付けるってのはどうなんだ?


「ショウ、俺らは単なるサポートの臨時雇いって事で。」

「ああ、分かってる。俺も創造魔法についても話すつもりは無い。適当に誤魔化すさ。」

「サンキュー。」


俺達の能力を知られると、必ずそれを利用しようとする者が現れるだろう。だから創造魔法については秘密にして置くに限る。ショウはその辺まで汲み取ってくれているので厄介事は起き無いだろう。こういう時に同郷だと話しが早くて助かる。


謁見の間に案内されると、宰相だか文官だかが『何でも屋ローランド』の功績について長々と語り始めた。一応、直立不動でそれを拝聴する俺達。

要約すると「忙しいこっちの代わりに盗賊倒してくれてサンキュ」だ。何で態々回りくどくするんだろうな?


あ、鼻が痒い。掻いても良いかな?良いよな。


そぉーーーっと…


ペシッ!!


手を叩かれた。リンに。目が「大人しくしなさい」って言ってる。俺は子供か。


周りに立っている取り巻きの貴族がこっちを睨んでる。


良いだろ鼻くらい。痒いんだよ。


「本来ならば我が国が行うべき、賊の排除への協力に感謝する。」


焦れている俺達に長々と語る宰相と違って、短く簡潔な王様のお言葉。空気が読める王様だね。

二つ名を付けるなら『空の王』か?それだと中身が空みたいだよな。『空気王』?存在感無い感じ。

『スカイ・リーディング・キング』でどうよ?もしくは『エア・リーディング・キング』とか。







やっとこさ謁見が終わり、俺達は揃って門へと城の廊下を歩いていく。


「ああー肩凝った。偉くなると話しが長くていかん。」

「全くだ。礼を言われる方が気を使うってのは変な話だぜ。」

「……。」


オルソンと不満を零しつつ進んでいく。しかし何故かショウは落ち着かない様子だ。その理由は直ぐに分かる事になる。


「ショウ!!」

「お?」


煌びやかなドレスに身を包んだ銀髪の美女が、ショウの顔を見るなり表情を輝かせる。女性は一直線にショウの元へと歩み寄った。


「今回は盗賊の討伐に向かわれたとか。お怪我は有りませんか?」

「あ、ああ…。見ての通り五体満足だ。」

「そうですか…。良かった。」


ショウとこの女性の周りだけ雰囲気が違う。何より女性のショウを見る目が。


俺は即座にオルソンに目配せする。

 

『このお嬢さんは?』

『ショウのコレだ。』


オルソンがさり気無く小指を立てる。


『付き合ってるのか?』

『いやいや、そこまでは。』


パタパタと手を振る。


『少なくともお友達以上ですか。』

『ご明察で。』


『ニヤニヤ…』←俺


『ニヤニヤ…』←オルソン


暫くショウと言葉を交わしていた女性が、見慣れない俺とリンに気付く。


「あの…こちらの方々は?」

「初めまして。ショウと同郷でタケル・カミジョウだ。同じくこっちはリン・ウィストン。」

「リン・ウィストンよ。」

「初めまして。シルヴェスタ王国 第一王女エルザ=ラル=シルヴェスタです。」


互いに自己紹介を交わす。


「偶々縁が有って今回の盗賊討伐に協力して貰った。」

「そうですか…。」


ジッとリンを見つめるエルザ。


「クスクス……3人とも少し待ってて貰える?」

「ん?」

「エルザさん、こっちに…」

「は、はぁ?」


リンがエルザを連れ少し距離を開ける。









―リン・エルザSIDE―


男性陣から離れた二人の、声を潜めた会話。


「あ、あの?」

「フフ…心配しなくてもショウは盗らないから安心して?」

「ええっ!?そ、そうなのですか?」

「どちらかと言えば私は…ね…。」


チラリとタケルに視線を移すリン。


「ああ。成る程。」


リンの態度に合点が行ったふうなエルザ。


「そういう事。」

「ふふ…頑張って下さいね。」

「貴方もね。」







―タケルSIDE―


少し離れた所でリンとエルザが何やらヒソヒソと言葉を交わしていた。時折こちらを見ては二人でクスクスと笑い合っている。どうせリンの事だ。また禄でもない事でも話してるのだろう。変な事を吹きこんでないと良いが。


ややあって、戻ってきたリンとエルザは意気投合していた。二人は初対面とは思えない程、距離感が縮まっている。


「何を話してたんだ?」

「乙女の話を詮索するのは無粋よ。」

「誰が乙女だって?」

「フン!!」


げしっ!


「痛ってぇ!!」


思い切り足を踏まれた。


リンをおちょくってる間にエルザがショウに話し掛ける。


「あの…ショウ、もし良かったらお茶でも如何ですか?今回のお仕事の話とか、聞かせて欲しいですし…。」

「いや…悪いが…」

「HA!HA!HA!何を言うんだいショウ!」


ぶっきらぼうに誘いを断ろうとするショウの声を遮る俺。


「今日は謁見以外に大した用事は無いって言ってただろう?なぁオルソン?」


俺の問い掛けにニヤ付きながら同調するオルソン。


「ああそうだな。くくくっ…俺達は先に帰ってるから相棒はお姫さんとお茶を楽しんでくれや。」

「オイ!!」

「そんじゃなー。」

「ごゆっくりー。」


俺達3人はショウを置き去りにするとその場を離れた。







漸くショウに一矢報いた俺は機嫌良く城の廊下を歩いていく。そろそろ出口という所で、突然リンの声と老人らしき男性の叫び声が響いた。


「何するのよ!?」

「ふおっ!?」


振り返るとリンが老人の腕を捻り上げている所だった。


「どうしたんだリン?」

「それが突然このお爺さんが私の服を掴んで来て…。」


みしっ…


「ふおおおーーー!極まっとる!極まっとるぞ!!謝る!謝るから手を離してくれいいいい!!」


絶叫する老人。俺は溜息を付くとリンを宥める。


「これじゃ話しが聞けないな。離してやれよリン。」

「仕方ないわねぇ。」


リンが手を離す。


「ふいー。酷い目に遭ったわい。もう少し老人を労わらんかい。」


解放されると悪態を付く老人。


「それで?何がしたかったんだじいさん?」

「ふむ。実はの…。」







話によると、このじいさんは国お抱えの学者で主に地理や異文化について研究しているらしい。リンに近づいた理由は、見慣れない格好に興味をそそられ思わず手を伸ばしたのだとか。


「いやはや、まさか手を伸ばした途端に捻られるとは思わなんだ。」

「そうだったの。私はてっきり痴漢かと思ったわ。」

「まあ、確かに触りたくなる良い形じゃな。」


じいさんの視線がリンの形の良いヒップに注がれる。


「…やっぱり痴漢でしょ?」


「それはともかくじゃ。これを見てくれんかのう。」


警戒するリンを無視し、じいさんは懐から取り出した古い地図を拡げた。


「これが我が国シルヴェスタ王国じゃ。ここから東の海の遥か向こうに未開の大陸が在ると云われておる。お前さん達の珍しい格好からして、もしやそこから来たのではないのか?」


「……。」


さて、どう答えたもんか。俺達の服は地球の物でこの世界の物ではない。ただ知らない人間からすれば別大陸のものと思うのも無理は無い。実際俺は地球、アルベルリア経由でシルヴェスタに来ているから、当たらずとも遠からずだ。


更に、じいさんが言う未開の大陸と、俺が飛ばされてきた方角とはほぼ同じだ。この地図が示す大陸がアルベルリアである事は間違いないだろう。しかし俺がこれを認めると、アルベルリアの存在が公けになる。国家規模の問題だ。俺個人で判断して良いことではない。何より俺の発言がきっかけでシルヴェスタにアルベルリアを知られ、侵略戦争でも始めたらシャレに成らない。


だがじいさんはそんな俺の考えを見透かしたように言葉を付け足す。


「心配せずともこの国では未だに大陸は一つであることが常識じゃ。お前さんが認めても誰も信じはせんわい。それに広大な海を渡る程の技術も無いからの。新大陸を見つようなどと考えるのは、余程の冒険家か狂人くらいじゃ。」


「だったら何故知りたいんだ?」


「それはの、ワシのひいひいひいひい…祖父さんがその大陸から流れ着いたと言われているからじゃ。そしてこの地図はワシの家に伝わる家宝でな。地図が本物なのかを知りたい。老い先短いじじいが己の原点を知る。ただそれだけなのじゃ。…協力してくれぬかのう?」


すがる様にこちらを見上げるじいさん。正直年寄りにそんな目で見られても何の魅力も感じない。だが、俺もじいさんの持っている情報が欲しい。それに大陸を探す術が無い以上、俺がここで話してしまっても何の影響も無いだろう。


他人に話されても耄碌じじいの戯言だろうし。


「今、失礼な事考えんかったか?」

「いや……。」


案外鋭い。


「じいさんの言う通りだ。詳細は言えないが、方角から考えて地図が示す場所は俺が来た大陸で間違いない。」

「おおっ!!やはりそうか!」


飛び上がって喜ぶじいさん。


「感謝するぞ若いの!これで先祖の墓に報告が出来る!ワシも心置きなく天に召されるというものじゃ!」


元気過ぎる。天に召すのは当分先だろう。


「こっちも聞きたいんだが、ご先祖様は何日位掛けてこの大陸に流れ着いたんだ?」


俺が知りたいのはそれだ。そろそろレイアから連絡がある頃だろうし、到着日を伝えておきたい。


「日数か、ふむ…」

「分からないか?」

「いや、分からん事も無いが…そうじゃ!お嬢ちゃんの尻を触らせてくれたら教えてやっても良いぞ?」

「やっぱり痴漢ね!?痴漢なのね!?」


青筋浮かべてベレッタに手を掛けるリン。


「良いだろ?尻くらい。」

「タケルが責任取ってくれるなら考えるわ。」

「…じいさん、却下だ。別条件を。」

「ちょっとー。どういう意味よ?」


ブー垂れるリンを黙殺しじいさんに向き直る。


「ま、まあ突然手を出したワシにも非は有るからのう。今回は特別に教えてやろう。」


隣で殺気を飛ばすリンに顔を引きつらせたじいさんは快く(?)了承する。


「先祖の残した自伝によれば、帆船で半年。難破してからは約三十日程漂流してたどり着いたと有る。」


約七ヶ月か。俺が創ったクルーザーなら帆船の何倍ものスピ-ドが出る。正確とは言えないが、順調に行けば遅くとも二ヶ月は掛からないだろう。


「ありがとよじいさん。参考になった。」

「いやいや、こちらこそじゃ。」


言いながらも手はリンのお尻へと……


みしり…


「ふおおおおおお!!折れる!折れるぞおおおおお!!ワシの腕がマッチ棒の如くううううう!!」


懲りないじい様だ。






宿に帰ると丁度レイアから連絡が入った。俺はレイアに大まかな到着予定日を伝える。


『二ヶ月か…余程遠くへ飛ばされたらしいな。』

「そうだな。俺の創る船だから遅くても二ヶ月程度で着くんだが、実際は帆船だと半年以上掛かるって話しだ。」

『フム…もう少し正確な日取りが分かれば、港まで迎えに行くのだがな。』

「いや、そこまでしなくても…」

『何を言っている。お前は魔法開発とジーグ、ラサゾールの逮捕。そして一応は王女である私の命を二度も救っているのだ。その功績に報いなければ我が国の恥だ。特にヴィニシュの地元、タスニアでは評判になるだろうな。』


「まあ、評判が良いに越した事は無いか。」

『お陰で私の方も孤児院設立に力を入れ易くなった。魔槍隊の予算削減で浮いた金とラサゾールから没収した財産が有れば十分に設立可能だ。』

「そいつは重畳。しかし…ククク…。」


俺は前にラサゾールが俺に言った言葉を思い出してつい笑ってしまう。


『うん?どうかしたか?』

「いや、前にラサゾ-ルが俺に取り入るために協力を申し込んで来たのを思い出してな。」

『そういう事か。フッ……まさに全財産を賭けて協力してくれた訳だ。』

「結果は目的とは真逆だったけどな。ククッ…。」

『フフッ…。』


やっているのは善行の筈なのに俺とレイアの笑いは微妙に黒かった。






そして出立当日、『なんでも屋ローランド』の口利きで旅の食糧を調達した俺はショウ達と別れの挨拶を交わしていた。


「お世話になったなショウ。また会えるか分からんが元気でな。」

「お前さんもな。」

「戦争に参加するらしいけど死ぬなよ?」

「流れ弾には注意するさ。」

「ぐほっ!!皮肉かよ!」


隣ではリンとオルソンが握手を交わし……口説いている。


「リン嬢、いっそこちらに住みませんか?俺と温かい家庭を…」

「あら素敵。そうね、貴方が二十歳だったら考えたのだけどね。」

「ぐはっ!タケル!おじさんその若さが憎い!!」

「何だその言いがかり!?」


俺達の別れは大して湿っぽくも無く、軽口を叩き合うことで終了。二人に見送られて俺とリンは海へと向かった。








―ショウ、オルソンSIDEー


「行っちまったな。」

「ああ。」

「しかし相棒、タケルの奴リン嬢を連れて行って大丈夫なのか?」


オルソンの言葉に思い当たる節を呟く。


「…向こうのお姫さんか…。」

「修羅場って奴にならなきゃ良いがな。」

「まったく、俺達の向かう先は戦場だが、アイツの行き先もある意味戦場かもな。」

「クク…違いねぇ。」


タケルの今後を想像し、二人に出来るのは無事を祈る事のみだった。








今回で『なんでも屋ローランド』とのコラボは終了です。


ブレイズさんの読者方にはお目汚しだったとは思いますが、どうか広い心で見て下さいませ。


次回から新章に突入!と言いたいところですが、相も変わらずズルズル行きます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ