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第二十六話空から失礼

予告通りに『なんでも屋ローランド』へようこそとコラボします。


視点がコロコロ変わりますが、ご了承ください。

「うーん。油断したぜ。」


俺は腕組みしながらラサゾールとのやり取りを反省している。


反射的にレイアの前に立ちはだかったものの、気が付けば別の場所へと飛ばされていた。恐らくはラサゾールが持っていた魔力の塊が原因だろう。状況から見て強制的に相手を転移させる魔法具か?


「というか、レイアには守護の指輪が有るから庇う必要は無かったのか?」


しかし守護の指輪が守るのは物理攻撃と魔法攻撃だ。強制転移が魔法攻撃と判定されるかは怪しいところだ。


「反省はこの位にして、打開策を考えねば…。」


実際のんびりとしていられる状況でもないのだよ。現在俺は雲より高い場所に居る。天国?そうじゃない。高度1万メートルほどを丸腰(日本刀は返して貰ったが)でスカイダイブ中だ。


確かにこのまま黙って身を任せたら天国に逝けるだろう。地面へ激突してトマトジュース(果肉入り)になってな。


「一度死んだ身としては二度も自分の死に様を想像なんぞしたくないぞ。」


二度目は『美人の上で腹上死』。もしくは『畳の上で大往生』でお願いしたい!


そう言ってる間にも地面が迫って来ている。俺はパラシュートを創造し、背中に背負う。


バシュ!


「ふう。これで一安心。」


因みに飛ばされた時は夜中だったはずが、もう太陽が昇っている。時差がある程遠くに来てしまったようだ。


パラシュートが開いた所で一息付いた俺は辺りを見回す。幸い着地出来そうな開けた場所がある。森に落ちて木に引っかかるなんてマヌケな醜態は晒さずに済みそうだ。


「誰かこっち見てるな。」


馬に乗った金髪の男がこちらを見て驚いている。でも妙だな。男が着ている服はこちらの世界では存在しない筈の迷彩柄のミリタリージャケット。もしかして同郷(地球人)か?







―ショウサイド―


今回の依頼は盗賊団の討伐だ。依頼人は商人の男性。彼は商いで国々を回っていて、王都へ来る最中に盗賊に襲われて奥方と娘を失ったそうだ。


そこで俺達に盗賊を皆殺しにして欲しいと泣き付いて来た。勿論、命のやり取りとなる仕事は報酬も高額だ。俺は断るつもりで金額をふっかけたつもりだったが、後日彼は私財を投げ打ってまで報酬を用意して来た。


報酬が用意出来て、尚且つそれを提示したのがこちらでは断る訳にも行かない。結局俺達は依頼を請けるハメになってしまった。


「要は復讐ですか。ですが、亡くなった奥方と娘さんが願うのは貴方の幸せでしょう。これだけの大金を有るのならば、新たに再出発する事も可能なのでは?」


「復讐で家族が喜ばないことは分かっているつもりです。ですが、奴らを野放しにしたままでは私は新たな気持ちで人生を踏み出す事は出来無い。このままではまた妻や娘の様な被害者が出てしまいます。それを防ぐ事を妻と娘も願っているでしょう。」


以上が依頼を請ける決め手となった事務所での会話だ。ただの自己満足だけではない。その後の被害まで憂慮していたからこそ俺は依頼を請ける気になった訳だ。


そして今日、俺はオルソンと共に盗賊が出没するとされた街道付近へと出向いていた。


「まだ標的は見当たらないか…。」


辺りに警戒しながらも煙草に火を付ける。


「ほう……。」


一息目の煙が風に流された頃、先行していたオルソンが愛馬のジュピターに跨りこちらへ戻ってくる。


「どうだ、標的は確認出来たか?」


駆け寄るオルソンはどうにも微妙な表情だ。困惑とも言える。


「いや…居ない。居ないんだが…ちょいと妙な状況でな。」


首を捻るオルソン。


「何だ?はっきりしないな。」

「俺には判断が出来ないから見たままを言うぞ?」

「ああ。」

「…サムライマンが空から降って来た。」

「はぁ?」


俺はオルソンが指を差す方角を見て、そのシュールな光景に目を丸くしたのだった。








―タケルサイド―


ズシャアアアアア!!


「ふう…着地成功。」


俺はパラシュートを消して立ち上がる。


「おい!あんた!」


馬に乗った二人組みが俺に声を掛けてくる。落下中から見えていた俺に驚く二人の男達だ。


「なぁ、お前さん…もしかして地球人か?」


白人の金髪男性が、人懐っこい笑みを浮かべて近付いてくる。しかしその身のこなしは明らかに訓練されたものだ。にこやかな雰囲気ながらも警戒は怠っていない。こちらに害意が有ると判断すれば途端に身を翻すだろう。


そしてもう一人、彼は日系人…いや、明らかに日本人の顔つきだ。俺は敵意の無い事を伝えるために男に答える。


「ご名答!というか、俺の他にもこの世界に地球人が居るとは知らなかったな。」

「やっぱりそうか!いやー驚いたぜ。何せサムライ・ルックの人間がパラシュートで降りてきたんだからな。空からとは中々派手な登場だな。」

「それについては色々と訳有りでね。」

「へぇ…聞いても良いのかい?」

「別に問題ないさ。そっちもこちらに敵意が無いのを知っても貰わないと警戒を解いてくれないんだろ?」


二人とも傍に寄りつつも俺の刀の攻撃範囲には決して入らない。恐らくは彼らも前世界では裏に深く関わってきた人間だなのだろう。


「成る程な…。という事はお前さんも?」

「一応。けど、いつまでも『お前』や『あんた』じゃ座りが悪い。自己紹介と行こうか。」







互いの事情を話し合うタケル、ショウ、オルソン。


「へぇ…それじゃ、お前さんも神に連れて来られたクチか。」


タケルの話を聞いたショウがタバコの煙を浮かべて微笑む。


「ああ。オマケに創造魔法なんてものまで追加してくれてな。」

「何ぃ!?ショウと同じかよ!」


タケルの言葉に驚くオルソン。


「え?じゃあ、ショウもじいさん(神)に創造魔法を貰ったのか?」

「じいさん?違うな。俺が会った神は若い男の格好だったぞ。」

「もしかして、出会った神が違うのか?」


そこに二人の疑問を解消する声がショウへと届く。


『へぇ…また珍しい人間と会ったもんだな。』

『知ってるのか?』

『その兄ちゃんを送ったのは俺の親父だ。』

『神にも家族が居るのか?』

『まぁな。しかし親父は殆ど人間界には干渉しないんだが、そこの兄ちゃんはよっぽど特殊らしい。少し前に一人そっちに送ったとは聞いていたが、まさかお前と出会うとは思わなかったぜ。』

『特殊ってのはどういう意味だ?』

『なぁに、危険は無い。実はこっちのミスでな。タケルっていったか、そいつは前の世界で運を全く持たないで生まれちまったのさ。』

『運を持たない?』

『ああ。それって結構悲惨なんだぜ?戦場を生きたお前なら想像が付くだろ?』

『確かにな。』


銃弾の飛び交う戦場では運という要素はかなり重要だ。仲間の傭兵達が自慢げに九死に一生を得た経験を語るのを良く聞いたし、実際に自分もそういった巡り合わせで助かった経験は有る。


『親父曰く、「奴という人間が生まれたのが奇跡なら、成人するまで生きたのも奇跡」だとさ。』

『羨ましくも何とも無い奇跡だな。』

『だからアフターフォローとして、不幸体質を修正して第二の人生をプレゼントしたって訳だ。』

『オーケー。事情は大体分かった。』


交信を終えたショウを見てタケルが口を開く。


「さっきから黙りこくってるけど、もしかして神が何か言ってたかい?」

「ああ。なんでも俺達を送った神と、お前さんを送った神は親子だそうだ。」

「やっぱり関係者だったか。」


疑問は解けたが、オルソンはまだ納得出来ていない様子だ。


「何でお前らだけ創造魔法なんだ。俺は身体と魔力の強化だけだぞ!?


二人は顔を見合わせるとニヤニヤしながら、オルソンから一歩さがる。


「君、こっからこっちには来ないでくれる?」

「な、何故だ!?」

「何故って…なぁ?」


タケルの問い掛けに、ショウも意地悪く頷く。


「線引きだな。」

「差別だ!!」


地団駄踏むオルソンの声が響いた。







「しかしタケル、お前が庇ったというお姫様には連絡しないで良いのか?」


散々オルソンを弄った後、ショウがタケルに聞く。


「話からして心配してるんじゃないか?」

「あー。まぁ…確かに。」


気まずそうにタケルはポリポリと頭を掻く。誘拐の件や強制転移でレイアは相当おかんむりだろうと考え、中々踏み出せないでいたのだ。


かといって、何の連絡も無しでは心配してくれてるであろうレイアに対してあまりに不誠実だ。タケルは意を決してレイアへと念波を送る。


「……あれ?」

「どうしたタケル?」

「念波が使えねぇ…。」


もしや指輪か強制転移の影響で創造魔法が使えなくなったのか?とも考えたたが、先程パラシュートの創造は出来た。その線は薄いだろう。首を傾げるタケルにもじいさん(神)からの通信が入る。


『困っておるようだのうタケルや。』

『じいさん?』

『うむ。』

『念波が使えないんだが?』

『経過は見ておったよ。細かい説明は省くが、原因はお主が受けた強制転移じゃ。起動中に対象がレイアお嬢ちゃんからお主に替わったじゃろ?その際にお主の能力の一部が置き去りにされたのじゃ。切り離されたのは【送る】能力じゃな。転移ならば身体を。念波ならば言葉や意思を送るからのう。具体的には今のお主は転移・転送・念波が使えぬ状態じゃ。ちなみにワシと交信出来ているのはこちらから念波を飛ばしてからじゃぞ。』

『うげー。それじゃ戻るには直に移動するしか無い訳か。』

『そうじゃの…今お主が居る場所とアルベルリアがある大陸は別じゃからな。飛行機でも創造すれば早いが、目立ち過ぎるのう。船でも創ってのんびり帰ったらどうじゃ?』

『…そうする。』

『ま、少々長めのバカンスとでも思う事じゃな。それとお前の切り離された能力の行方じゃが、共に転移の影響を受けたお嬢ちゃんに移ったようじゃ。』

『レイアに?大丈夫なのか?』

『一応教えておいた方が良いじゃろう。無意識な発動で事故が起きんとも限らんしのう。今回はワシが仲介して交信させてやるわい。』


交信先が神からレイアへと変わる。


「まだ怒ってんのかな…。」


レイアの凍りつくような視線を想像して身震いするタケルであった。







―レイアサイド―


私はタケルが消えた後ラサゾール・セルデス一派を捕らえ、事後処理に当たった。明日からはラサゾールの屋敷を捜索し、証拠の洗い出しに掛かる予定だ。


「姫様、お疲れのようですね。少々顔色が悪う御座いますよ。」

「そうか…。」

「緊急とはいえ、遅くまで働き過ぎです。今夜は早くお休み下さい。」

「ああ。」


言葉少なに頷く私に侍女長が頭を下げ、部屋から出て行く。


トサッ…


ベッドへと倒れ込む。


以前にタケルの作った回復薬が有れば睡眠も入らぬのでは?という問いに、精神力が回復しても心の養生は別だと言った理由が良く分かる。


そして私の疲労の原因はタケルそのものだ。ラサゾールは言った。飛ばされた先は海底かマグマの大地かと…。如何にタケルが強くとも、そんな場所へ飛ばされては命は無いだろう。しかもタケルは守護の指輪も身に着けていないのだ。


現にタケルからは何の連絡も無い。無事ならば念波で連絡するか、直ぐにこちらへと戻って来れるはずだ。


「…いかんな。悪い想像しか浮かんで来ない。」


薬指に光る指輪を見て、一人呟く。


エリスにはどう説明するべきだろうか?エリスはああ見えて中々鋭い。私が希望的観測で話しても現状を見抜いてしまうだろう。見たままを話すしか無いのかもしれない。だがエリスはタケルを気に入っている。確実に悲しむだろう。私も同じ気持ちだ。そう思うと掛けるべき言葉が見当たらない。


「タケル…生きているならば早く戻って来てくれ…。」

『悪いな。少し時間が掛かりそうだ。』

「なあっ!?」


私の仰天した!届くはずの無い願いに答えた声に。


『い、生きていたのか…タケルッ!?』


出来るだけ平静を装うが、声が震える。


『ああ。悪いなちょっと問題が有って連絡出来なかった。』

『問題?まさか、何処か怪我でもしたのか!?』

『いや、怪我は無い。ただ……』


私は今夜もう一度驚く事になる。








『私に創造魔法が…』

『とは言っても転移と念波系だけだけどな。』

『ちょっと待て。ならば今はどうやって念波を送っているのだ?』

『あー、偶々居た知り合いに仲介して貰ったんだ。』

『ほう…タケル以外にこれを扱える者が居るのか?』

『今回だけだがな。』

『そうか。しかし私の魔法でこちらから迎えに行けぬのか?』

『いや、転移は行った事のある場所にしか行けないからな。それに場所が遠すぎる。レイアの魔力量じゃここまでは来れないだろうな。』 

『…そうか。』

『…。』


落胆と共に話が途切れる。


『タケル、ラサゾール邸での事だが…』

『スマン!悪かった!色々とレイアに心配を掛けた!』


私が切り出すと同時にタケルが大仰に謝罪する。そういえば私はタケルの無茶に怒っていたのだったな。しかしここまで平身低頭で謝るとは。タケルの無事を知って怒りなどとうに霧散しているというのに。


『…もういい。タケルの行いは私のためにやってくれた事なのだからな。だがこれ程の無茶は、もう止してくれ。今回ばかりは寿命が縮んだぞ。』

『悪かった。許してくれるか?』

『ああ。』

『ありがとな。』

『礼を言うのは私の方だろうに。私の為に尽力してくれて感謝する。いつもいつも、私はタケルには助けられてばかりだ。』

『そんな事は無いさ。』


そうして、話は帰還の方法へと移る。


『移動手段は俺が創る船で帰る事になる思う。』

『期間はどれ位だ?』

『アルベルリアとは別の大陸らしいからな。調べておくから定期的にレイアから念波を繋いでくれ。その時に教えるよ。』

『分かった。私もこの念波というのを練習しておくとしよう。』

『頼んだぜ。そう難しい物でもないからな。それじゃ、事件の方の後始末も有るだろうけど頑張ってな。』

『あ…タケル…。』

『ん?』


そのまま会話が終えるのが惜しくなり、思わず呼び止める。


『…お前が無事で良かった。あの時、助けてくれたのだろう?私をラサゾールから庇って。転移したのが私ならば死んでいたかもしれん。』

『…。レイアが無事ならいいさ。俺も生きてたしな。』

『フフッ・・・これで命を救われたのは二度目だな。この恩、どうやって返せば良いか見当も付かんよ。』

『そこまで恩に着なくても…。』


きっと向こうでタケルは照れて頬を掻いているのだろうな。


『とにかくそういう事で後は頼んだ。』

『了解した。』


名残惜しくも念波は終了する。私は安堵のためか暫く放心していた。


「生きていたのだなタケル…。良かった…本当に。」








―タケルサイド―


『無事で良かった』か。心配してくれる人間が居るってのはありがたいもんだね。レイアとの話を終えた俺が感慨に耽っていると、ニヤニヤしながらこちらを見るショウとオルソンに気付く。


「何だよ。」


二人は向かい合うと、オルソンが身体をクネらせながら…


「タケル…お前が無事で良かった!」

「…レイアが無事なら良いさ。俺も生きてたしな。」


オルソンの演技に俺を真似て返すショウ。こいつら聞いてやがった!


「おいこらじいさん!何でこいつらが聞いてるんだよ!?」

『現状把握に良いかと思ってのう。』

「余計なお世話だコノヤロー!」

『フォッフォッフォ!』


俺はこれをネタに二人に暫く冷やかされた(特にオルソンに)。






―後書きという名の言い訳―


レイア…デレてますね完全に。ていうか、書きたい事が有りすぎて視点が飛び過ぎ!!


そしてどうだったでしょうかブレイズさん。私が書くショウとオルソンはこんな感じです。キャラ崩壊はしていないと思うのですが。


ショウとオルソンにはもう少しお付き合いして貰う事になると思います。次回戦闘シーンまで行く……かもしれない。行ければ良いな。



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