第十九話魔槍隊
敵の会話とか書くのシンドイんですけどね。こうでもしないとマンネリしそうだし。難しいトコです。
魔法開発二日目。今日はレイアも書物庫に居る。先日習得した浮遊魔法をエリスが披露したそうで、のけ者にされた様に感じたらしい。
「文献を調べていただけかと思えば、まさか既に開発までしていたとはな。しかも私を差し置いてエリスを助手に。」
ジロリと睨まれ俺は頭を下げるしかなかった。怖いですレイアさん。
「悪かったよ。偶々ノリで作った所にエリスが通りがかったものだからさ。」
「わははは!浮いている妾を見たときの姉上の顔といったら、今まで見た事のない驚きようじゃったぞ!」
盛大に思い出し笑いをするエリス。コイツはまた火に油を注ぐ真似を…。
「ほう、エリス。何やらタケルに怖い話を聞いたせいで、夜に私の部屋に来ておきながらそういう態度を取るのか。」
「うっ…」
「次からは一人で寝るのだな。どれ、タケルよ、もう一つくらい怪談があれば聞かせてくれ。」
「そうだな、とっておきのやつを…」
「や、やめてくれい!姉上!どうかお許しをー!」
涙目でエリスが懇願した。
「これはとある戦場跡での話しなんだが…」
「ひいっ!」
ガタガタ震えるエリスを見てレイアが微笑む。
「フッ…タケルその話はまたにするとしよう。」
「そうか。」
この辺で勘弁するらしい。
「ところでユウ。」
「は、はい?」
「何故お前は俺にくっ付いてるんだ?」
「気のせいです。」
いや、腕掴んでるし。
「何故膝が小刻みに震えている?」
「た、ただの筋肉痛です。」
「嘘つけ。」
お前も怖いんかい。
「では、本題に入るとしよう。タケルお前が開発した魔法はこの五つだな?」
レイアは俺が魔法について書いたノートを見て確認する。
「ああ。」
「今回は実用化に向けて話をしたい。ライトとウォシュ。この二つならば直ぐに発表しても問題ないだろう。」
「問題はフライとトークだな。」
「うむ。」
俺とレイアが頷くも、残されたユウとエリスは良く分かっていないようだ。
「何故じゃ?利便性で言えばフライとトークの方が上じゃろう?」
「フライなんて大発見ですよ?空が飛べるんですから。」
二人の疑問にレイアが答える。
「二人とも、このフライは確かに便利だが、逆にこれを盗賊や他国の間者に使われたらどうする?」
「そうか!簡単にお城や家に忍び込まれてしまいますね。」
「しかも、盗みが目的だとフライで運べるから根こそぎ持って行かれるぞ?」
補足する俺の言葉にユウの顔が引きつる。
「そ、それは悲惨ですねぇ。」
技術が発展すればそれだけ犯罪も進化する。それは魔法でも同じなのだ。
「では、トークに関してはどうじゃな?」
「やってみせよう。」
俺は外から小石を二つ持ってきて、魔法を掛ける。
「我が魔力により、これに音を届けよ!トーク!」
魔法を掛けた小石を一つ持って書物庫を出ると、適当な部屋に投げ入れる。そして書物庫に戻るともう片方の小石から声が聞こえ出す。
「最近良くいらしてるわよね。あの方…」
「えー誰の事?」
若い女性の声だ。小石を投げ入れた場所は使用人の部屋だったらしい。
「カミジョウ様よ。」
「ああ、あの方ね。」
「私この前、声掛けられちゃった。」
「本当!?何て言われたの?」
「可愛いメイドさんだね。今度食事でもどうですかって。」
「キャー。」
「でもでも、あの方レイア様のお気に入りなんでしょう?」
「えー私はエリス様の婿候補って聞いたわよー?」
「恋敵がお姫様じゃ望み薄ねー。」
「って事はカミジョウ様が次期王様かしら?」
「それならユリィも愛妾なら狙えそうね。私はどっちかといえば一緒について来るユウって子の方が。」
「うわ!フアンってそんな趣味が?」
ブツッ…
俺は小石に掛かった魔法を解除した。
「ゴホン…っと、このように悪用すると盗み聞きが可能に…」
「ちょっと待てー!!お主、何を人の城のメイドにちょっかい出しとるんじゃー!」
エリスが俺に詰め寄り、頬を引っ張る。スルー作戦は失敗したらしい。
「あ、あれふぁひゃこうひれいとひうものへだな(アレは社交辞令というものでだな)」
「社交辞令で女子を引っ掛けるんじゃない!」
「ふがふが・・・」
「タケルが…にか…それも良い…。しかし…まさか妹が恋敵になるとは流石に……」
助けを求めようにもレイアは顔を赤くして何かブツブツ言いながら思案している。
「女って怖い…」
ユウはユウで顔を青くしている。どうも援軍は望めなさそうだ。
たっぷり十分以上を要して皆が落ち着き、話を再開させた。
「実用化に向けては父上…王と議会に承認を得る必要があるが、とりあえずはライトとウォッシュの二つを先に発表するとして、フライとトークに関しては様子を見よう。問題はあるか?」
レイアの言葉に全員が頷く。
「エリスも城でみだりに空を飛んではならんぞ。」
「う…やはり駄目ですか。」
釘を刺され、ガックリと肩を落すエリス。
「当然だろう。飛んでいる所を見たのが私だから良い様なものの、余人に見られては説明を求められるところだ。魔槍隊の者にでも見られていたら大騒ぎだ。」
「レイア、魔槍隊ってのはなんだ?」
俺の質問にレイアが説明する。
「私達騎士団が剣を使っての戦闘を重視するように、魔槍隊は魔法を重視した部隊の事だ。神話に出てくるシェーバという神が初めて魔法を使ったと云われていて、『魔槍』という名は彼が用いた武器が槍だった事に因んで付けられた。その名残か、今もあの部隊では槍を使う者が多い。前に言った魔法の研究・開発をするのも彼らだ。だからその隊員の前で新しい魔法など使っては…」
「根掘り葉掘り聞かれる訳か。」
「そういう事だ。しかも彼らは魔法至上主義な面も有ってな。少々気位が高すぎる。だからこそ、タケルの開発した魔法を発表すれば彼らにも良い薬となるだろう。それに魔槍隊は成果の割りに開発費として予算を取り過ぎているのでな。」
開発した魔法を発表すれば、成果の挙がらない魔槍隊の予算削減の口実になるという事か。不満が出ても、『だったらそれ以上の成果を出せ』と言えば反論もできないだろう。だからと言ってそいつらが俺以上の魔法を開発できるとは思えない。万年頭打ちの研究を続けただけだもんな。予算削減は不可避のようだ。魔槍隊の皆さんご愁傷様です。
「丁度良い。削減した分の予算は孤児院の設立に回そう。」
「おいおい。それだと俺が恨まれないか?」
「今更何を言うておるのじゃ。」
「ふぅ…」とエリスが溜息混じりに首を振る。
「騎士団を敵に回して返り討ちにしたタケルらしく無いではないか。」
「あれは不可抗力だろうが。自分から恨まれに行く趣味は無いぞ。」
「大丈夫ですよ師匠。」
意外にユウまでもが強気だ。
「師匠ならいっそ、魔槍隊ごとぶっ飛ばせば。」
「…お前の中で俺がどういう位置付けなのか分からなくなったぜ。」
頼られてるのか人外の括りなのか…。…後者が濃厚だな。
「まあ、その点に関しては私にも考えがあるのでな。タケルも心配するな。」
流石はレイアさん。分かってらっしゃる。
―レイアサイド―
新たな魔法についてタケルと話し合ってから三日後、定例議会でその新魔法の発表となった。予め王である父にはその魔法を披露し、賛同を得てあるため新魔法は議会で認定されるだろう。私は自分の席に着き、発言の番を待った。
「それではお次はレイア姫様よりご報告等を。」
進行役の議長の言葉を聞き、私は立ち上がる。
「まず最初に報告とその件で議会の承認を頂きたい。報告するのは私が独自のルートで得た新しい魔法についてです。」
「魔法!?」
「新しい魔法が出来たのか?」
「また詠唱だけ置き換えた紛い物では無いのか?」
私の発言にざわつく議員達。
「皆の者、静まれ。…レイア続けてくれ。」
王の声で喧騒の収まった中、私は話を続ける。
「新しい魔法は光魔法のライト、浄化魔法のウォッシュの二つです。ライトはこれまで夜は燭台や松明に頼らねばならなかった事が魔法で可能になります。ウォッシュについては汚れを洗い流す魔法で、国内の衛生状態の向上に繋がると思われます。」
「素晴らしい!」
「確かに便利な魔法だ。」
溜息を漏らす議員達。だが、その中に苦渋に満ちた表情をする人間が居た。魔槍隊の隊長セルデスだ。彼は不意に立ち上がり、異論を唱えた。
「失礼ですがレイア姫様!魔法開発は我ら魔槍隊の管轄の筈。それを騎士団が行うのは越権行為ではありませんか?」
何とも予想通りの発言だった。私は用意してあった言葉を口にする。
「この二つの魔法は私が友人より教えられた魔法です。騎士団として開発した訳では無い。そして国益となる物を政に携わる者が国に還元するのは当然でしょう。」
「ぐ…ならばその二つの魔法の安全性は確かなのでしょうな?身元がはっきりしない者が伝えた魔法ではどんな副作用や呪いが有るかも分かりませんぞ。」
「心配無用。この魔法の開発者は我が友人で、孤児院の代表を務めるタケル=カミジョウ殿です。危険性についても私が確認済みです。」
「ですが、カミジョウ殿は元々放浪の冒険者だと聞き及んでいます。まったく階級も持たぬ身ではありませんか。」
またも階級か。私は半ばうんざりしながら反論を口にしようとしたが…
「セルデス。技術の向上に階級は関係無い。どのような者でも国に尽くし民に益をもたらすならばその力は称えられるべきだろう。そして俺もカミジョウ殿には会った事が有るのでな。その身元は保証しよう。」
階級を持ち出したセルデスを王が諌める。
「そ、そうでしたか…。失礼致しました。」
王に保障されてはセルデスも引き下がるしかなかった。そして言い終わった後の王の視線が私に向けられる。他者には分からないだろうが私には分かる。その目は明らかに『これで良いんだろ?褒めてくれ。』と言っている。父上、娘のご機嫌取りに議会を利用するのは如何なものでしょう?私は半分呆れ、半分感謝しつつ新魔法の実践も交えながら説明を続けた。
―セルデスサイド―
「くそ!何て事だ!」
魔槍隊の隊長室へ戻ったセルデスは椅子を蹴り付け悪態を付く。そこへ入って来たセルデスの部下で魔槍隊の副隊長のバトスが声を掛ける。
「荒れて居られますなセルデス様。」
「あ、ああ。バトスか…。」
部下の姿に幾らか怒りを抑えるも、気分が収まる事はなかった。
「定例議会で何か問題でも?」
「大有りだ。レイア姫が国内に多数の孤児院の設立を始める話は聞いているな?」
「ええ。ジーグ捕縛の折に協力した冒険者を代表に抜擢したとか。」
「その冒険者が開発した魔法が議会で認定され、近く発表される。」
「新魔法ですか。しかし魔法の開発は我ら魔力隊でも行き詰っているのが現状。一個人が考える魔法などたかが知れているのでは?」
バトスの憶測にセルデスが首を振る。
「いや、悔しいがその魔法は良く出来ていた。…確かライトと言ったか、火を使わずに魔力で明かりを灯せる魔法だ。もう一つがウォッシュ。魔力で汚れを浄化する魔法らしい。どちらも攻撃魔法では無いが、その便利さから言って国民に発表されれば一気に広まるだろう。」
「何と!?」
驚きに声を失うバトス。
「一番の問題は、それらを発表したレイア姫の提案だ。魔槍隊は開発が滞っており成果を出せていないと。ならば予算の削減を行うべきだとな。」
「お、王は何と!?」
「次の定例議会までに我らも成果を示すようにとの仰せだ。」
バトスは愕然とする。実は魔槍隊での魔法研究は殆ど行われてはいないのだ。とうの昔に研究は行き詰まっている。世間的にも魔法の開発は困難とされているのでそれを言い訳にしてきた。だが、実際に魔法が開発されては、何の成果も上げられない自分達は追い詰められていくだろう。
「しかし我らは新魔法など出来ては…」
「分かっている!だからこそ困っているのだ!」
セルデスが声を荒げる。
「しかも開発を隠れ蓑にして、予算は我らの懐に納まっているのだ。削減などされては堪らぬ!いや、それどころか我らの不正までも公になりかねん!」
「まさか!?そこまでは。」
「あの切れ者の姫の事だ。無いとは言い切れん。ジーグの件を忘れたか?下手すると奴の二の舞となるだろう。何か良い手立ては無いものか…。」
二人が打開策を検討している所へ不意に隊長室の扉が開く。
「失礼する。」
姿を現した男を見て、セルデスが唸る様に声を漏らす。
「ラサゾール卿…」
「ふむ…セルデス殿。今日の議会でそちらも厳しい立場となっておられる様ですな。」
「いえ…。」
セルデスはラサゾールの突然の来訪に驚く。そして彼の目的が何なのかを思案する。セルデスは魔槍隊に属し、彼の専門は魔法及び国内の軍事関係。対してラサゾールは主に他国との交易を監督する立場で殆ど接点は無い筈だ。
「そちらは新魔法の開発で先を越され、魔槍隊も予算に見合う成果を出す様にと陛下は仰せられた。しかし魔槍隊に新魔法など無い。しかし予算の削減は阻止したい。と言った所でしょうな。」
「…一体何を言われたいのでしょう?」
慇懃に自分の状況を再確認させられ、苛立つセルデス。
「まあ、そう警戒なさらずに。私は貴公らを援助したいと思っているのです。言わば仲間。そして私には状況を覆す術が有る。」
いきなり仲間だと言われて納得できる程、セルデスはお人好しでは無い。だが策が無いのも事実。話だけでも聞いて損はないだろうと踏む。
「話を聞きましょう。」
ラサゾールは大仰に頷くとセルデスの傍へ歩み寄り、一つの指輪を取り出した。
「これが何かお分かりかな?」
「指輪ですか?」
「そうです。しかし唯の指輪では無い。これは隷属の指輪。」
「な!まさか!?」
今まで二人の動向を見守っていたバトスが声を上げ、セルデスはその腹心に振り返る。
「知っているのかバトス?」
「え、ええ。確か東方より伝わった魔法具で、相手を意のままに操れるとか・・・」
「その通り。バトス殿は博学でいらっしゃる。正確には指輪をはめられた相手ははめた相手に絶対服従となる指輪です。私の様に色んな国と交流が有ると、偶にこういう珍しい物が流れてくる事がありましてな。」
「しかし、一体それをどうするのです?」
ラサゾールはセルデスの質問にニヤリと笑う。
「今回の魔槍隊の予算削減のきっかけは新魔法の開発。それを行ったのはタケル=カミジョウという人物なのはご承知ですな。奴にこれを使い、こちら側に引き入れるのです。二つも新魔法を開発し、惜しげもなく提供しているのですから、まだまだ何か隠し持っているに違いない。奴を操り、聞き出した魔法を貴公らの成果として発表するのです。」
セルデスは提案された内容を聞き評価する。悪くない策だ。今から自分達が躍起になって魔法の開発に乗り出した所で、十数年進歩の無い魔法技術だ。新魔法の開発など不可能だろう。だが、無いのなら別の場所から持って来ればいい。そう。持っていそうな人物、タケル=カミジョウから。
「…悪くない話だ。しかし分かりませんな。貴方が我らに協力して何の得が有るのです?」
ラサゾールの策は自分達の得には繋がるが、何故こんな話を持ち掛けて来たのかが見えて来ない。唯の親切心で近づいて来た訳では無いだろう。ラサゾールの真意が分からぬ内に話に乗るのは危険だ。
「タケル=カミジョウが孤児院代表となり、近く孤児院が多数設立される話はご存知でしょう?」
「ええ。魔槍隊で削減された予算をそちらに流すという話まである。忌々しい事だ。」
ラサゾールの問いに腹立たしげにセルデスが頷く。
「孤児院を多く設立するとなれば大量の金が動く事でしょう。私もその政策に関わりたく、あの男に近づいたのですが、にべも無く断られてしまいましてな。指輪を手に入れてから奴を操る機会を窺っていたのですが、奴は冒険者としても腕利き。無理にはめようにも、私にはセルデス殿の様に戦いに長ける駒が不足していますので。」
「成る程…つまりは貴方は指輪を、私は兵を出し合う事で互いの問題を解決しようと?」
「ふふ…ご理解頂けた様で何より。」
セルデスはラサゾールの目的を聞き、漸く合点がいった。同時に、持ちつ持たれつの関係ならば自分を陥れるために話を持ちかけた訳では無いだろうと安堵する。
「良いでしょう。その話、乗らせて頂きます。」
「それは有り難い。早速、具体案を私の屋敷で話し合いましょう。宴の準備も整っています。賢明なセルデス殿ならば必ずや応じて頂けると思っていましたので。」
「それはそれは。」
「勿論、綺麗どころも用意しておりますれば。」
「ほう。流石はラサゾール卿。方々の国を知る卿ならばかなりのものが期待できそうですな。」
「それはもう。」
ラサゾールとセルデスは互いに好色な笑みを浮かべ部屋を出て行く。
「何をしているバトス?お前も来るのだ。」
「は、はあ…。」
付き従うバトスは意気投合する所を見て、実はこの二人、似た者同士なのでは?と思った。
しかし彼らは気付いていない。自分達が協力する事で、互いの敵も自分の敵になる事に。
質問ですが、番外編で登場した『リン』を本編にも出すべきか考え中です。皆さんの意見をお聞かせ下さい。
※初回投稿より少々修正しました。基本的な内容に変わりは有りませんが、感想・指摘等を下さった皆様に感謝。