第十五話パーティー!後編
少し間が空きました。調子に乗って二作目を投稿したもので、そっちに時間を掛けてしまいました。興味が有りましたらそちらもどうぞ。
「まさかあんな特技が有ったとは思わなんだ。」
食事も済み、やる事が無くなったので会場の隅で壁になっていた。そこに取り巻きから解放されたエリスが話掛けて来た。後ろにはレイアも一緒だ。
「二人も聴いてたのか?」
「途中からじゃがな。今度は、もっと聴かせて欲しいのじゃ。」
「いいぞ。機会があればな。」
他の人間にはやんわりと断り、代わりにリリィを推薦しておいた。その内リリィにはチャンスが回って来るだろう。けど、二人は特別だ。今度歌ってやろう。
「珍しい言葉で歌っていたな。あれはタケルの故郷の言語か?」
次に話したのはレイア。
「まあな。とある民族の音楽だ。」
「そうか。それにしても魔法の詠唱で使われるものと良く似ている気がするのだが・・・?」
レイアが首をかしげる。成る程ファイアー・アローとか英語だったもんな。歌から類似性を見つけ出すなんて聡い奴だ。
「そうなんだ。俺も驚いたよ。暇な時にでも調べてみるかな?」
「必要ならば城の書物庫を見てみるか?」
「ああ。頼むよ。」
考えてみたら俺は創造魔法が使えるから何の不自由も無いが、魔法がどういう原理で発生(発現というべきか?)するのか知らない。
これだとユウに魔法を教える事ができんのだ。俺の魔法を知ってるせいか、この頃やけに魔法の使い方を教えてくれとせがむんだよな。
「しかし、タケルには必要無いのではないか?あれだけデタラメな魔法が使えれば不自由はないだろう?」
「いや、俺が知りたいのは一般的な魔法の理論さ。それに英語……あの歌で使われている言語を調べれば、普通の人でも使える新しい魔法が出来るかもしれない。」
「魔法の開発か…。世の研究者が聞いたら涎を垂らしそうな話だ。」
「研究する人も居るのか?」
「一応な。だが開発されるのも一年に一つ有るか無いかだ。出来ても使い勝手が悪いものや詠唱が違うだけで発現するものは同じだったりで大して進んでいないな。」
つまり既存のものが使われているだけで開発は頭打ちの状態だということか。
「むうう。」
「む?どうしたエリス?」
見るとエリスが不満気に唸っていた。
「妾だけ話に置いてきぼりではないか!タケル、どういう事か説明するのじゃ。」
そうかエリスには創造魔法については話て無かったな。この際だ。教えておけば他の人間へのフォローも期待できるだろう。協力者は大事だ。
「そうだな。良いかエリス、この事は絶対に秘密にすると誓えるか?」
「勿論じゃ。」
「良し。なら教えてやろう。」
「いいのか?タケル。」
レイアが確認を取る。
「構わないさ。」
レイアの妹だし、信用には足るはずだ。レイアは言わずもがなだろう。俺は創造魔法について簡単に説明した。じいさん(神)から貰った事は伏せておいたが。ちなみに他人に聞き耳を立てられないように、音を遮断する魔法も忘れない。
「な…なんとデタラメな…。」
信じられないという顔つきのエリス。
「考えた物事が魔法として発現する…最早反則だ。」
「俺もそう思う。」
「しかし信じられん。姉上はどう思いますか?」
「・・・私は既にその魔法を体験しているからな。信じるも信じないも無い。事実だ。」
「むうううう。」
再度唸り始めるエリス。
「まあ、言葉だけじゃ信じられないかもな。」
「見てみたいのじゃ!」
目を輝かせるエリス。
「しかし、見せると言ってもな。」
「例えば、城の庭に大穴を開けるとかどうじゃ?」
「アホ。他の客にどうやって説明するんだ?いきなり庭に大穴が開いたら大騒ぎだろ!やるなら気付かれないような魔法にしないと。」
「むう。」
待てよ?『気付かれない』…か。
「エリス、ちょっとこっちに来い。」
「なんじゃ?何か思いついたのか?」
トテトテと俺の傍に寄るエリス。
「ああ。行くぞ。」
俺はエリスの頭の上に手を翳す。
「エリスの身に漂う大気よ、かの存在を覆い隠せ。インビジブル!」
詠唱要らないけどそれっぽいだろ。
「む?何も起きてはおらんぞ?」
困惑するエリスに解説する。
「認識を阻害する魔法を掛けた。今なら俺とレイア以外にはエリスの存在は認識出来なくなってる。所謂透明人間だ。」
「それは面白い!真か!?」
「ああ。試しに何かやってみな。」
「分かったのじゃ!」
「他人に見えてないからぶつからないように注意しろよー。」
エリスは俺達の元を離れた。向かう先はグラスを傾け、臣下と話をする王様の場所。傍に立つと、そーっと王様の口元に手を伸ばし、蓄えた髭一本摘まむ。
プチン!
「痛ー!!」
椅子から転げ落ちる王様。
「ぷくくくく!!」
腹を抱えて笑うエリス。王様も気の毒に。
満足そうにエリスが戻って来た。その顔はパーティー中にはまったく見れなかった笑顔だ。
「わはははは!愉快愉快!」
「どうだ?信用したか?」
「うむ。これほど笑ったのは久しぶりじゃ。」
「喜んで貰えて何よりだ。」
話も一先ず落ち着き、三人でグラスを傾ける。
「言いそびれたけど、レイアのドレス姿も良く似合ってるな。」
改めてその姿を眺める。レイアの着るドレスはフリルや装飾はシンプルで最低限に留めているが、決して安っぽくは見え無い。寧ろそのシンプルさ故に、着用者を選ぶとも言える。そしてそれを完璧に着こなすレイアのスタイルの良さが窺える。
色も白を基調とし、レイアの赤く綺麗な髪色を強調していた。
「む……そうか。」
その赤い顔はワインとは別の理由で染まっている。レイアが照れるシーンなど中々見れない貴重な一コマだ。
「イカンのぉ。タケル。」
「なんだ?」
「女性を前にして衣装への賛辞が遅れるなぞ、男として失格じゃぞ?」
したり顔で言うエリス。お前本当に十代か?そりゃ、熟女のセリフだぞ。
「うっせ。元々お前に説明するのに時間を取られたせいで機会が無かったんだろ。」
「ぐむ、やぶ蛇じゃったか…。」
「それと、もう一つ忘れていたな。そらエリス。」
予め用意していた防御魔法の掛かった指輪をエリスにも渡す。色はエリスの瞳の色と同じ薄いブルー。
「指輪か?」
「ただの指輪じゃないぞ。レイアのと同じで俺の防御魔法が掛かってる。物理攻撃だけじゃなく、攻撃魔法まで防いでくれる。これがあれば戦場でも鎧要らずだ。便利だろ?」
「ほう!それは凄い!」
改めてまじまじと指輪を見詰めるエリス。やがて自分の指を指輪へ通す。
「ちょっと待てエリス。お前はどの指にはめる気だ?」
「へ?薬指にですが、どうかされましたか姉上?」
「いや・・・中指にしてはどうだ?良く目立つぞ?」
「しかし、中指には母上から頂いた指輪があります。それに意匠も簡素なので薬指がちょうど良いと思いまして。」
「うむぅ。だが、薬指は…」
妙に拘りのあるレイア。
「なので、薬指に。」
「いや、いっそ人差し指はどうだ?」
「人差し指では動きの邪魔に…」
何故かこの問答が十分ほど続くのだが、エリスは当初通り薬指に指輪を嵌めていた。
その後も話しは尽きず、それは王様がパーティーの終了を告げるまで続いた。
後半のレイアのいじらしい乙女心を感じて貰えれば今回は成功なのですが…。