第十四話パーティー!中編
パーティーの中編です。どうぞ!
「さすがは宮廷料理。豪勢なもんだ。」
レイア達の元を離れてテーブルの上の料理をパク付く。バイキング形式だから多種多様なものを食べて回れる。酒も年代物のワインが飲めるし。料理は帰りに包んで貰って土産にしよう。ユウ達が喜ぶだろう。
「貴方がカミジョウ殿ですかな?」
一枚目をすぐに平らげ、二枚目のステーキを皿に取る最中に、俺の名前を呼ぶ中年の男。
「貴方は?」
「私はラサゾール・・・ビィド=ラサゾールと申す。ラサゾール家の当主で、微力ながらも議会に席を持つ身です。」
ラサゾールか・・・。レイアとの打ち合わせの時に聞いた名だ。
なんでも、ジーグ捕縛の決定に一番渋っていたとか。確証は得ていないが、『ジーグの横領や不正に関係していた可能性のもっとも高い人物』だそうだ。
そしてジーグが失脚した今、あいつの横領ルートをもっとも欲しがっているのは、このラサゾールだろうというのがレイアの予想だ。
有る意味、本命が最初に掛かったと見ていい。
「私はタケル=カミジョウと申します。レイア王女のお力添えにより孤児院の代表を務めております。」
「ええ。知っておりますとも。先程のレイア様直々のご紹介を聴かせて頂きましたので。」
「そうですか。」
「しかし、カミジョウ殿も色々と大変でしょう。レイア様はこれから孤児院を国の各所に設立するお積りのようだ。そうなれば、当然手が足りなくなるはず・・・。失礼ですが、国の内情に関してはカミジョウ殿は素人も同然。宜しければ私が貴方をお手伝いしましょう。」
はい、ビンゴォー!!もしくはフィーッシュ!!
これは確実に俺に取り入ろうって魂胆だろう。これから先、レイアが孤児院設立案に乗り出せば、それは大掛かりな計画になってくる。当然、使われる税や物資は相当な額だろう。横領を目的にする者からすればこれほど美味しい話はない。
「いえいえ。ラサゾール殿の手を煩わせる必要はありません。それに、ラサゾール殿は貿易関係が主な担当と伺っております。畑違いの方にこのような仕事を押し付ける訳にはいきませんので。」
「・・・・ッ!」
そう。このラサゾールが担当する役どころは、主に他国との貿易の監理。それと関税や禁制品の取り締まりだ。日本の外務省や経済省の一部を混ぜたような位置付けだろう。一方、孤児院などは福祉。厚生労働省の管轄であり、全くの門外漢だ。
猫を被っている俺は遠回しな言い方だが、素の俺が言うなれば『畑違いが余計な口出しすんなコノヤロー!』である。
「で、ですが私の力をお貸しすれば、その貿易の筋から必要な品を提供できますぞ。」
「確かに。新たな孤児院を設立には様々な物資が必要になってきますね。」
一定の理解を示すような態度を見せてみる。
「そうでしょうそうでしょう。」
しかし、一変して突き放す。
「ですが、そこまで話が及べばレイア王女の判断次第でしょう。私ごときの一存で決められる話ではありませんね。」
レイアの名前が出ると、途端に顔色を曇らせるラサゾール。そりゃそうか。ジーグの横領を暴いた彼女を相手に不正が出来るはずが無い。議会の人間にレイアの清廉さは知れているだろうし。
だからこそ俺に近づいたのだろう。俺を取り込めれば横領ルートの確保も可能・・・とか。しかもコイツの根性が相当に悪いならば、『バレたときは罪を俺に押し付けられる。』ぐらいは考えていそうだ。
「し、仕方ありませんな。」
「力及ばず申し訳ありません。ですが、レイア王女と私も目指す所は同じ。民の幸福です。管轄外にまで力を尽くそうとされるラサゾール殿の思いも、レイア王女ならば無下にはされないでしょう。」
お前がまともな貴族ならな。
「な、なるほど・・・。いやはや、カミジョウ殿の民に対する情け深いお考えには感心いたしますな。」
「いいえ、私の考えなど浅慮なものです。」
「で、では私は他の方への挨拶がありますので失礼致します。」
にべも無く協力を断られたラサゾールはそそくさと去って行った。
この後も似たような目的で俺に近づく者が2、3人居たが、俺の聖人君子っぷり(爆笑)とレイアとの密接な関係をアピールすることであしらった。キッチリと顔と名前は覚えたので、後でレイアには報告(告げ口)するとしよう。
「便所、便所・・・・あ、おねえさん、厠は何処ですか?」
ワインの飲みすぎか、トイレが近くなった俺は使用人に場所を聞き、用を済ませる。そして会場への帰り道、宮殿の中央廊下で揉める男性と、楽器を手に男性に訴える少女が居た。
「何故です楽団長!?今回は自分のソロを演らせて貰えるはずでしょう!」
「仕方ないだろう!急にお偉方の意向で楽曲の変更があったんだ!」
「クッ・・・・。」
「とにかく、貴族様の命に従わない訳にはいかんのだ。お前さんの腕ならばまた機会はある。ここは堪えてくれ。」
「・・・・。」
やがて楽団長と呼ばれた男は居なくなり、悔しげに俯く少女。
「どうかしたのか?」
後ろから声を掛けられ、ハッとして振り返る。
「あ・・・パーティーのお客様ですね。済みません、御見苦しい所を・・・。」
薄っすらと浮かべた涙を、さり気なく拭き取り、頭を下げる。
「大分揉めていたみたいだな。」
「ええ。パーティーで初めて私のソロを披露する予定だったのですが、貴族様の飛び入り参加で予定を縮小されてしまいまして・・・・。」
「自分のパートが潰されたと。」
「はい・・・。」
シュンと項垂れる少女。
「そうか・・・。」
良く見ると少女が手にしている楽器は、ギターにそっくりな弦楽器だった。
「君?名前は?」
「え・・・と・・・り、リリィと申します。」
「リリィ、その楽器見せてくれないか?」
「はい・・・ど、どうぞ。」
受け取り、開放弦を一弦ずつ鳴らす。
♪~♪~♪~
弦が少し太めだがチューニングはギターと同じだ。
「成る程。リリィ、代わりと言ってはなんだけど、面白い曲を教えてやるよ。」
「本当ですか?」
「ああ。この国に…というか、この大陸には無い曲だぞ。」
♪~♪~♪~
俺がギターを爪弾くと驚いた様に目を見開くリリィ。しかし直ぐに曲に耳を傾け始め、演奏する手元からも目を離さない。さすが音楽家だ。
「♪~♪~♪~」
曲が終わりチラリとリリィの反応を窺う俺。音楽性が違い過ぎてドン引きとならないか少し不安だったが、リリィの反応はかなり良好なものだった。
「すごいです!!聞いた事のない言葉の歌詞ですけど、すごく印象深いメロディで!何処かの民族音楽ですか!?」
「ああ、アメリカという遠い国の曲だ。俺の故郷でのスタンダードナンバーだった。」
なんだか久しぶりに地球の文化に触れたなぁ。思わず郷愁の念が沸いて思わず目から汁が・・・。
「よぅし!リリィ、気分が乗ってきたからもう一曲行くぞ!」
「はい!」
♪~♪~♪~
パチパチパチ!!
拍手の中、最後の曲を歌い終えると俺とリリィの周りには人だかりが出来ていた。
盛り上げ上手なリリィに煽られ、俺は気付くと十曲近くを熱唱。
その間に、一人、また一人とギャラリーは増え続け、いつの間にやら中央廊下は会場よりも人が増えてしまった。中にはレイアとエリスの顔もある。
「どうだリリィ?幾つかは覚えたか?」
「は、はい。曲は何とか掴んだのですが、歌詞が分からなくて・・・。」
英語の曲ばかりだからな。
「歌詞は適当に変えて歌えばいいさ。」
「でも、タケルさんの曲でしょう?私が勝手に改変する訳には・・・。」
遠慮がちにリリィ。
「いいさ。これは全部リリィにやるよ。どうせここで歌える人は居ないんだ。」
「本当に宜しいんですか?これだけの作品、発表すれば一財産できるほどですよ?」
「いいさ。その代わり、編曲できたら聴かせてくれよ?」
「はい!分かりました!必ず!」
ギターをリリィに返し、俺はギャラリーへ向き直る。
「皆さんご拝聴有難うございました。」
パチパチ・・・パチパチ・・・・
拍手が済むと、観客達はパーティー会場へと戻って行った。
「俺も戻ろう。」
会場に戻ると俺への対応がガラリと変わっていた。幾人かに歌を褒められる。声を掛ける殆どが女性で、
「素晴らしい歌でしたわ。」
とか、
「今度当家で披露していただけませんか?」
など。
何処の世界も歌というのは人を魅了するもんだ。
逆に遠巻きに見ていた男性陣の視線が痛かったが・・・大して気にしないでおく。
――エリス視点―――
パーティーが始まり、会場入りした妾は思わず溜息を付く。今度もまた退屈な時間が続くのだろう。
いつものことだが、取り巻き達に囲まれ、姉上と共に愛想を振るのは正直飽き飽きしていた。ただ此れも王族の勤めと耐える……が、今回は勝手が違った。
「レイア王女。今回はご招待頂き有難うございます。」
取り巻き達をかき分けタケルが姉上の前へと現れた。しかも、前とは違い粗野な言葉使いでなく、礼儀を弁えた物言いで。
「おお!タケル殿か!?皆聞いてくれ!彼が先の横領事件で私に協力してくれた我が盟友タケル=カミジョウ殿だ。ジーグの不正を暴き、此度、我が国の孤児院の代表となった。」
事前に打ち合わせでもされたのだろうか?淀みなく姉上がタケルの存在を参加客に喧伝する。
タケルは客達に称賛されるも、謙遜を述べる。
「いえ。全てはレイア王女が民を思えばこそ。私の力など微々たる物です。」
「っ!ふくっ・・・・」
妾は噴出しかけるのを必死に堪える。再度見上げると、タケルが畏まって一礼するのが見えた。
「ぷくく・・・」
妾は可笑しさが込み上げて来るのを我慢できず、少しだけ声が漏れてしまう。幸い他の者には気付かれてはいない。
特にタケルの態度が不自然なわけでは無い。寧ろ、洗練された振る舞いには非の打ち所がない。だがそれだけに普段との差異が際立つのだ。
「それではお目通りも済んだことですから、失礼いたします。」
「うむ。今宵は楽しんでいかれよ。」
もう終わりなのだなと、タケルが行ってしまう寂しさを感じたのも束の間。タケルは、
「皆様も大勢で囲まれてはレイア王女が窮屈でしょう。お目通りも程々になされるが宜しい。」
そう言い残し去って行った。呆気に取られる客達だったが、反論の暇は無かった。その後は妾達に構い過ぎるのは返って不敬。そんな空気が漂い、客人との挨拶は早々に済んでしまった。
不思議な雰囲気を持つ奴だ。冒険者かと思えば体躯に秀でている訳でもない。けれども姉上はタケルの方が剣技は上だと言われる。それでいて、我が国の料理人でも知らない羊羹やニンジンのケーキを作って見せる。
だが、タケルの面白さはそれだけに留まらないことを知る。
パーティーも半ばを過ぎ、ふと会場を見渡せば、参加客の多くが会場から消えていた。漸く人の波も引いて来たというのに、タケルの姿も見当たらない。
「これ。会場のお客が大分少ないように見えるが、どうか致したのか?」
近くの使用人を呼び付ける。
「はい。どうやら中央廊下で歌を披露されている方がおられるそうで、皆様そちらへ向かわれた様です。」
「ふむ。歌をの・・・。」
「それが、大層見事なそうで。」
「成る程・・・。」
話掛けようにもタケルは見当たらない。多分タケルもそっちに行ったのだろう。
「姉上。」
「む。」
「我らも行ってみませぬか?」
普段ならば主催の我らが場を離れる事はないが、今回はタケルのお陰で余裕がある。しかも参加客の大半はその歌を聴きに行ってしまったのだ。支障はないだろう。
「ああ。そうだな。ここに居ても退屈だろう。母上、私達は少し場を外し・・・」
「王妃様なら、既に向かわれました。」
「・・・・。」
会場を出ると、中央廊下に殺到する観客達。その中に交ざる母上の姿があった。妾と姉上に気付くと手を振って招き入れられた。
「凄いのよ。レイアちゃんエリスちゃん。貴女たちも聴いて御覧なさい。」
観客の中からタケルを探すも、廊下にこうも人が居てはままなら無い。妾は客の中心に目を移す。
「タケル?」
怪訝な顔で姉上が呟く。
そこには楽器を持ち、聴きなれない言葉で歌うタケルが居た。
♪~♪~♪~
歌詞使用で削除対象では?という意見があり、改定致しました。
ご指摘を頂いた読者様にはお礼と深い感謝を申し上げます。