第十三話パーティー!前編
前回から少し間が空きましたが、見放さないでおくんなせぇ。
「うーん、動き辛いな。」
俺は鏡の前で着慣れない正装に違和感を感じつつ、自分の姿を眺めていた。
城でのパーティー当日。孤児院に迎えに来た馬車で城に送られると、早々に客室の一つに通された。そしてやって来たメイドさん五~六人に用意された正装に着替えさせられたのだ。
女性に着替えを頼むのは遠慮したかったが、地球の正装とは違い、勝手が分からなかったので仕方なくお願いした。
しかし、若い女性に成すがままに手取り足取り着替えさせられる感じはアレだね。何か違う扉を開きそうだ。
「…ほう。似合っているじゃないか。」
振り向くと部屋に入ってきたレイアが物珍しそうに俺の格好を見て感想を言う。
「窮屈で肩がコリそうだ。」
「なに、直に慣れるさ。」
そう言うレイアは、鎧は着ていないがいつもの騎士服のままだ。
「レイアは着替えないのか?」
「ああ。私もこの後着替える予定だ。だが先に打ち合わせをと思ってな。」
レイアと話し合った結果、今回のパーティーで俺がやるべきミッションは大まかに三つ。
1:俺が孤児院の代表である事を示す。
2:孤児院代表の俺に近づき、甘い汁を吸おうなどと画策する貴族にその余地が無いことをアピール。
3:孤児院関連の話に興味を持つ人間の割り出しなど。所謂、情報収集だ。
隠れミッションとして、『レイアに言い寄る野郎への牽制』があるのだがコレは言うまい。言うと、王妃さんにレイアのお仕置きモードが炸裂しそうだし。
「では、私は準備に戻るのでな。次に会うのはパーティー中になるだろう。」
「りょ~かい。」
パーティーは最初に王族、貴族のお偉方が楽団の演奏と共に会場入りすることから始まった。そして王様の挨拶の後、しばらく会場は参加者たちの雑談の場となった。
辺りを見回すと、一際大きい参加者達の輪の中心にレイアが居た。矢継ぎ早に話しかけられ、それらに受け答えしている。大半が身なりの良い男性客。
「うっわーあの中に入れってか?」
開始数分ですでに辟易してきたぞ。レイアも一々相槌打って大変そうだ。しかし、こいつ等も分からんのかねぇ?こんだけ大勢で取り囲んでも悪印象にしかならんだろうに。ハッキリ言って渋谷のナンパ師でももう少しタイミングを弁えてるぞ。
「鬱陶しいが行くしかないか。」
俺は人の波を掻い潜りながらなんとかレイアの前まで到達する。
「レイア王女。今回はご招待頂き有難うございます!」
彼女にお世辞やら追従やらを連ねる客達の中で、一際大きな声でレイアへ声を掛けた。俺は猫を被った言葉遣いをしながらレイアと目を合わせる。
直ぐに彼女は意図を理解して応えた。
「おお!タケル殿か!?皆聞いてくれ!彼が先の横領事件で私に協力してくれた我が盟友タケル=カミジョウ殿だ。ジーグの不正を暴き、此度、我が国の孤児院の代表となった。」
大仰な仕草で俺を紹介するレイア。一気に会場の視線が俺に集中する。
「おお!貴方が!」
「お手柄でしたな。」
周囲の客達が俺へ称賛の声を掛ける。だが、殆どは俺を褒めることでレイアの覚えが良くなるように努めているだけだろう。
「いえ。全てはレイア王女が民を思えばこそ。私の力など微々たる物です。」
「っ!ふくっ…」
俺は優雅(?)に一礼するが、レイアの隣でエリスが俯き、プルプルと震えていた。
「ぷくく…」
どうやら必死に笑いを堪えている様だ。どうせ似合ってねぇよ!
ともあれ、これで俺の立場を印象付ける事には成功した。後は用意された料理でも食べながら時間を潰そう。俺という餌に掛かる奴を待って…。
「それではお目通りも済んだことですから、失礼いたします。」
「うむ。今宵は楽しんでいかれよ。」
あ~でも、これだけは言っておくか。いい加減、レイア達もうざったそうだし。
挨拶が済むと俺はレイアを囲む客達に振り返る。
「皆様も大勢で囲まれてはレイア王女が窮屈でしょう。お目通りも程々になされるが宜しい。」
そう言って俺は場を離れた。
――レイア視点――
今夜、タケルを招待したパーティーが城内で開かれる。そろそろ孤児院に寄越した馬車がこちらに着く頃だろう。私は城の警備等を会議室で話し合っていた。
「ウェルス、私は少し場を離れる。後を任せるぞ。」
後に進行を副隊長のウェルスに託し、一旦場を離れることにする。
「はい。隊長はどちらへ?」
「孤児院の件で客が来るのでな。そちらとも少々話し合う事がある。」
「あの冒険者ですか?」
「気に入らないか?」
ウェルスが不満そうな顔をしている。
「ええ。正直、あの者はレイア様に対する態度がなっていません。不敬では有りませんか?」
そういえばウェルスは警邏中に、私が初めてタケルに会ったときと、ジーグの捕縛の際にタケルと会っていたな。とはいえ、話をした訳でもないからタケルの方が覚えているかは分からないが。
「そう言うな。アイツは付き合ってみれば中々味の有る男だぞ。第一、私はアイツの態度を不快には感じていない。」
「ですが、周りに示しというものが…」
ウェルスは少々頭の硬い所が難点だ。もっと柔軟性を持てば一皮むけるものを。
「今はその事で話し合う暇は無いな。残りの事案について纏めておいてくれ。」
「はっ。分かりました。」
私は部下達を残し、タケルが居る客間へと向かった。
「…ほう。似合っているじゃないか。」
客室へ入り、私が言った最初の言葉だ。
鏡の前で自分の姿を確認するタケルの背後に、そんな言葉を投げ掛けた。
「窮屈で肩がコリそうだ。」
照れ隠しを述べるタケル。だがその格好は、タケルの持つ独特の雰囲気と相まって特別な魅力を感じさせた。
「なに、直に慣れるさ。」
私は素っ気無く答えてしまう自分に少々苛付く。上手い褒め言葉が見つからないのだ。
元々タケルは細身だが、頼りない体型では決してない。姿勢も良く、筋肉の付き方などが非常に均整が取れている。だからこそ身なりを整えた格好が映えるのだろう。
「レイアは着替えないのか?」
タケルの問いで気が付く。私はまだいつもの騎士服のままだ。惜しい事をした。いつだったか、タケルに「私の淑やかな姿を披露しよう。」と宣言したのに、その機会を逸してしまった。
「ああ。私もこの後着替える予定だ。しかし先に打ち合わせをと思ってな。」
仕方が無い。私のドレス姿はパーティー本番まで先送りだ。
頭を切り替え、今回の目的について話し合った。
「では、私は準備に戻るのでな。次に会うのはパーティー中になるだろう。」
「りょ~かい。」
タケルと別れると、私もドレスへと着替えるために自室へと向かった。途中、
「そろそろ私も着替える。仕度を頼む。」
メイド長のサリィムに告げると意外そうに私を見返した。
「おや、いつもよりお早いお召し代えですね?」
「む?そうだったか?」
「ええ。いつもでしたら、準備のギリギリまで騎士服のままでいらっしゃったでしょう?」
サリィムの指摘に特に自覚はなかった。
「あ!姫様にもドレス姿を見せたい男性ができたのかもしれませんよ、メイド長。」
そんな軽口を後ろに控えた若いメイドが言い、ザワザワと他のメイドたちが騒ぐ。
「これ!姫様の前で失礼な。」
若いメイドを窘めるサリィム。
「フッ、まぁそんな所だ。頼んだぞサリィム。」
肯定とも取れそうな返事だけを残して私は自室へ戻った。後方では若いメイド達が黄色い声を上げるが、私は気にせず自室へ戻る。メイド達を諌めるサリィムには悪い事をしたが・・・。
少し浮かれた気分からパーティーは始まったものの、会場入りしてからはいつも通りだった。
毎回私の周りに群がる貴族の子息や領主達。
ジーグの捕縛や横領発見の手際を、美辞麗句で褒め称える者。
自身の嫡男との目通りを求める者…等々。
相槌を打つのにも疲れた頃、人波を掻い潜りタケルが私の前に姿を現した。
「レイア王女。今回はご招待頂き有難うございます。」
普段のタケルとは違う、丁寧な言葉使い。だが、目を合わせた瞬間に分かった。
タケルの目に浮かべられた意図に。
「おお!タケル殿か!?皆聞いてくれ!彼が先の横領事件で私に協力してくれた我が盟友タケル=カミジョウ殿だ。ジーグの不正を暴き、此度、我が国の孤児院の代表となった。」
私は大袈裟に振る舞い、招待客にタケルの存在を広言する。
「おお!貴方が!」
「お手柄でしたな。」
タケルがひとしきり称賛を浴びた後、漂々と
「いえ。全てはレイア王女が民を思えばこそ。私の力など微々たる物です。」
などと、らしからぬ謙遜をする。
「っ!ふくっ…」
隣ではエリスが懸命に吹き出しそうなのを我慢していた。ここが普段の城内であれば腹を抱えて笑っていただろう。
「それではお目通りも済んだことですから、失礼いたします。」
「うむ。今宵は楽しんでいかれよ。」
私達はお定まりの言葉で会話を終える。残念だが公の場でこれ以上は話せないだろう。
タケルが去った後は、また招待客との退屈な会話へと戻る…はずだった。
「皆様も大勢で囲まれてはレイア王女が窮屈でしょう。お目通りも程々になされるが宜しい。」
最後にそう言い残しタケルは颯爽と場を離れた。客達は反論の機会を失い、お陰で大部分の客達が私から直ぐに離れて行った。幾人か、面の皮の厚い慇懃な者が残っていたが、それは極少数。
私は今回のパーティーだけは、いつもとは違うものを予感し、期待した。
相変わらずの駄文っぷり!!
今後の方針どうしましょ?バトル?ラブロマ?はたまたシリアス?
アドバイス、リクエスト等、感想より承ります!
この駄目作者、略して駄者に救いの手を!!