第十話囮作戦と亜空間倉庫
久しぶりに創造神登場です。
ユウの修行開始から四日が過ぎた。その間に俺はギルドの依頼をこなし、二日おきにランクアップ。Bランクになった。ルイーズには最短記録だと言われた。
そして俺とユウは討伐依頼を請け、西の山の麓に来た。討伐対象はレッドワイバーン。龍の亜種で火を吹くらしい。鉱山から産出された鉱物の輸送路に出没し、度々被害が出ているそうな。
三時間ほど掛けて着いたその場所は、岩肌の剥き出しになった山。横をなぞるように続く山道だ。
「さて、ワイバーンは何処だ?」
「師匠!アレじゃないですか?」
ユウが指差す岩壁の、ひと際せり出した岩に留まっている龍っぽい赤色のトカゲ。大きさ約10メートル。
「これはアレだな。ユウ!囮作戦だ!」
「囮って…凄く嫌な予感がするんですが。」
「たぶんその予感通りだ。お前がワイバーンを挑発。逃げながら奴を山道へ誘き寄せる。そこへ俺が上の大岩を落とす。」
本当は俺の攻撃魔法一発でケリが着くんだが、今回はユウに経験を積ませる意味も有るからな。敢えて回りくどいやり方を選ぶ。直接の戦闘は無いが少なくとも度胸は付く筈だ。
「囮役の交代を申請します!」
「却下。代わってもいいが、お前にあの大岩を落とせるのか?」
「…。」
「よかったな。走り込みの成果を試す機会が来たぞ。題して『ありがとうユウ!君の犠牲は忘れないよ!大作戦』だ。」
「死にますよね!?死ぬ前提ですよね!?内容、盛り込まれてないし!」
「それではミッションスタート!」
合図を送るとユウがレッドワイバーンを挑発し始める。
「ヘイヘイ!!この三流ドラゴンめ!お前なんかピーーーー(放送禁止用語)だ!さっさと帰ってピーーーー(放送禁止用語)しやがれーー!!このピーーーー(放送禁止用語)野郎!!」
さすがはスラム育ち。罵詈雑言のボキャブラリーが半端ねぇ。無修正だとこの物語が終わらんばかりだ。半ばやけくそ気味だが。
ギシャアアアアアアアアアーーーー!!
内容を理解してるとは思えないが、ユウの大声でその存在に気付いたワイバーンが空に飛び上がった。
「ギャーーーーー!!来たーーー!!死ぬぅーーーーーーーー!!」
肉薄するワイバーンから逃げ惑うユウ。下り道とはいえ中々の速度が出ている。実は、ユウにも俺のと同じ防御指輪(対魔法攻撃&物理攻撃)を渡してあるため死ぬことはない。本人にはそのことを知らせてないが…。
何故って、そのほうが面白……緊張感があるからだ。
「そろそろだな。」
ワイバーンが大岩の落下軌道に入ると、大岩の下に爆発魔法を発生させる。
ドゴーーーン!ヒューーーー!グシャ!
「ストライック!!」
直撃を受けてワイバーンは山道に落下した。
「ユウ~生きてるか~?」
俺が下へ降りると、動かなくなったワイバーンの前でユウがヘタリ込んでいた。
「ゼェ…ゼェ……死ぬかと思いました。」
「ご苦労ご苦労。いい動きしてたぜ。ランクEの初仕事がワイバーン相手とは貴重な体験だったろ?」
「貴重というより無謀ですよ!」
「あっそ。」
ユウの非難をスルーしてワイバーンを見る。
「しかしデケェなぁ。山道を塞いじまってるし。」
「どうします?一度街に戻って人を呼びますか?」
それだと人件費がかかるしなぁ。でもここに置いとくと通行の邪魔だし。
荷台でも創るか?いや、そもそもこんな巨体を引っぱってく方法が無いぞ。
いっそ、証明部位の爪だけ取ってあとは燃やすか?でもルイーズがワイバーンの肉は美味いって言ってたな。というか、龍種の体は骨まで全部が売れるって話だ。勿体無い。
「師匠は転送魔法とか使えないんですか?」
「転送魔法?」
「はい。物を別の場所に飛ばす魔法らしいんですが、大量の魔力が必要らしくて実用化されなかったとか。けど師匠の魔法なら出来るんじゃないですか?」
「転送か…」
良い案では有るが…
「しかし何処に送る?いきなり街中にワイバーンの死体が現れたら一騒動起きそうだぜ?」
「確かに。だったら一度邪魔にならない所に転送して、必要な時に取り出せませんか?」
「邪魔にならない所って何処よ?」
「それは…。」
言いよどむユウ。無いよなぁ。そんな都合のいい場所……あった。
「丁度いい場所を思い出した。ユウ、少し下がってろ。」
俺はレッドワイバーンに手をかざし、ソレを創造する。
キイイイイイーーーーーン!!
レッドワイバーンの死体が光の粒子になり消え去る。後に残ったのは元の山道。
「これが転送魔法……ところで師匠、何処に送ったんですか?」
「ん?異世界。」
真っ白で何も隔てるものの無い広大な世界。神界。そこに突如現れた龍の巨体!!
ドスゥーーーーーーーン!!
「な!何じゃー---!?」
ビックリして飛び上がったのは創造神だった。
ワイバーンの討伐後、俺達は転送魔法の応用で自分たちを転移することを思い付た。
お陰でアルベルリア城下町へは予定より早く帰って来れた。
一度来たことのある場所へは転移可能なようだ。逆に、行ったことの無い場所はイメージできないため行けなかった。
ギルド前は集まった業者たちで賑わい、ワイバーンは部位ごとに競売に掛けられた。特に肉の鮮度は喜ばれ、売り上げはギルドの手数料を除いた額で金貨6枚だった。報酬と合わせて金貨16枚。半分の8枚をユウに渡す。
「こんな大金、初めて見ました!」
「ワッハッハッ!体張った甲斐があったな。今日はワイバーンの肉で豪勢に行こうぜユウ!!」
ちゃっかりとワイバーンの肉のいい部位は頂いて、意気揚々と俺達は帰途に着いた。
その日の夜…
(タケルよ!聞こえるか?タケルよ!)
部屋で寛いでいると、頭に直接届く声。
「もしかして、じいさん(創造神)か?」
(そうじゃ。念波で話掛けておる。)
「久しぶり!何か用か?」
(お主、ワイバーンをこちらに転送したじゃろ?)
「あーうん。持って帰るにはデカかったから。何か拙かったか?」
(拙くはないが、何も神界を倉庫代わりにせんで良かろうに。)
呆れた声で言うじいさん。
「でも、神界は時間の概念が無いんだろ?鮮度を保つには最適じゃん!」
(ならば、次からは亜空間にでも納めておけ。)
「亜空間?」
(神界や他の世界との間に広がる無限の空間じゃ。)
「でも転送と転移の魔法は行った事のある場所じゃないと駄目なんだろ?俺、亜空間は知らないぞ?」
行った事が無いとイメージできない。
(簡単な事じゃ。直接物を転送するのではなく、そこへ至る『道』そのものを創るのじゃ。)
「つまり亜空間への入り口を創るってことか。」
(うむ。しかも魔力の消費量は、神界への転送の100分の1で済むぞ。)
「ワオ!省エネ!つか、神界への転送がすげぇ非効率なだけか。」
(その通りじゃ。流石にお主でも神界への転送は負担だろう。)
「何回ならやれる?」
(一日で約100回が限界じゃな。)
「それでも十分じゃね?」
まあ、無駄に消費する必要も無いか。
「サンキュー!次からはそうするよ。」
(うむ。では、さらばじゃ。)
タケルは亜空間倉庫の魔法を覚えた!!
テッテレーテーテー♪テッテレーーーー♪
チョイ短かったかも?